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Yoko Ishida

ボケたくないなら、眠りなさい② 究極の脳内デトックス

眠れば眠るほど健康になる

睡眠は、発達や、自己実現、社会貢献等の生産性はじめ、その後のウェルビーイングに大きな価値を持ちます。

睡眠時間を確保するという健康行動の投資価値は無限大です。

生活習慣は年齢とともに変化し、睡眠も例外ではありません。とはいえ人生を通して、いかなるときも睡眠は本質的です。

人生の大半を占める労働年齢にある皆様に、最もオススメの健康投資が、睡眠時間の確保です。



【ボケるって、どんな状態?】

2004年、厚生労働省は、一般的な用語や行政用語としての「痴呆」は、「侮蔑的な表現」であるため、早期発見・早期診断等の取り組みの支障になっているとして、「認知症」に変更しました。

○○症という表現だと、一般的な用語というより病名、疾患名、診断名みたいな気がするのは私だけでしょうか。

また、「心配性」は心配しすぎる状態、「健忘症」は忘れやすい状態、「高血圧症」は血圧の高い状態だとすると、認知機能の低下を示すなら、「失認知症」とか、「認知障害症」とか、「低認知症」とかが望ましい気がしますが、「失」や「障害」がNGなんでしょうね、きっと。おかげで、軽度認知障害を経て認知症になるという謎の現象が起きています。「失」や「障害」はNGだけど、「症」はOKっていう行政的境界は私には理解できませんが、そんなわけで、「老人ボケ」なんて言葉は、差別の極みのように嫌われるようになって久しいですね。



メディアでは、こんな記事が人気で、医師等、有識者が立派なコメントをしています。

メディアの表現が、「認知症になりやすい」や「“ボケ”てしまう」と迷走していますが、やはり私は、以下の基準で、認知症を傷病名として捉えて、認知機能低下による生産性の低下は「ボケ」と表現します。

認知症の診断基準
  1. 具体的な6つに分けた認知領域のうち少なくとも1つ、家族や医者の証言と定量的な臨床検査結果によって、世の中一般ではなく、当の本人の以前の状態より、あきらかに認知が低下していること、

  2. そのせいで、最低限の日常生活の自立を阻害していること、

  3. それがせん妄という特別の状態のときだけじゃないこと、

  4. そして、他の疾患の症状としての説明がつかないこと、

4項目全部揃って「認知症という病名」がつきます。


「健康経営施策と名医の誤診」でお伝えしたように、病名をつけるなんて、いい加減なものです。

医療によって解決できる課題は積極的に解決するのがオトクですが、私が話題にしたいのは、「WRWB不全」としての「ボケ状態」です。


例に上げた記事のうち、テレビ番組の内容が脳や認知機能に与える影響については、やや眉唾かな、と思います。私は医者なので、それって、科学的エビデンスはあるのかな、と思ってしまいます。脳が関心のあることや思いがけない刺激や気付き、新しい知覚によって可塑性を発揮し、機能を高めることは確かですが、脳の活性化という好ましい効果にしろ、有害な影響にしろ、番組の内容より大きく、個体の性質に左右されます。

一方で、ベンゾ・非ベンゾは脳の活動を抑制する目的で合成され、安全に確実にどんな個体の脳の活動も抑制するよう、知恵や知識、技術、開発費、時間等々という莫大なコストをかけて完成され、認可されているので、科学的エビデンスと社会的な認証の両方を有する、非の打ち所のないボケ薬であることがわかります。 ベンゾジアゼピン系のベンゾ・非ベンゾの害は、これまでも大きく話題にしています(「レイプドラッグ天国のままではいけない」)が、次回、「ボケたくないなら眠りなさい③睡眠薬はボケ薬」であらためて取り上げます。



チコちゃんに叱られないために

私は、軽重の程度や一時的、順行性増悪などの時間的な性質を問わず、認知機能の低下を指すのに、「ボケ」ってなかなか適切な言葉だと思っています。

チコちゃんの「ボーっと生きてんじゃねーよ」も、「ボケーっと」だとコンプラ違反になるのでしょうか。「ぼーっと」と「ぼけーっと」は、おんなじような意味だと私は解釈してます。チコちゃんに叱られないために、睡眠時間は大切だということです。


時差ボケ、正月ボケ、休みボケ、色ボケ、寝惚けなどなど、皆さん、ボケたことのない人なんて、いないのではないでしょうか?

漫才の「ボケ」は故意のボケで、演目上でおもしろいボケを演じています。わざとボケるのは、笑いに通じる人生のスパイスになることがありますね。ほんとにボケてたら、とてもボケられません。

「なにボケてんのさ!」としか表現できないような状態は、日常的によくありますが、ちょっとしたボケが、生産性や安全に大きく影響します。



睡眠不足だとボケやすい、すなわち日中のパフォーマンスが下がる経験がある人のほうが多いでしょう。

百歩譲って、「俺は1日4時間睡眠でOKのハイパフォーマンス・ショートスリーパーだぜ」であっても、1日2時間だと、パフォーマンス落ちますよね? まあ、4時間で大丈夫だと勘違いしている自称ショートスリーパーは、睡眠負債の症状である睡眠負債ボケが日常なので、2時間睡眠でも自覚できないかもしれません。


先日、友人研究者と、「日中の電車内で眠そうな人、眠っている人、不気味ですよね・・・」って話しましたが、座ったら眠ってしまうのは重症睡眠負債です。毎日の就寝でも、寝床について10分以内に眠っていたら、かなり怪しいです。

労働者の多くは、「秒で」「バタンキュー」なのではないでしょうか。


それ、睡眠負債ボケですよ!!



そもそも、睡眠の機能とは、なんでしょう? 

どうして眠らないとパフォーマンスが落ちるのでしょうか?


睡眠は個人の嗜好とは無関係の原始的な生命活動で、「生物学的な1日」(個体に内蔵された、体内時計が刻む一日で個人差がある)に1回行うよう、プログラムされています。人間には「生物学的な1日」とは別に、「社会的な1日」(時計が刻む24時間)があり、社会で生きる必要上、その生物学的なプログラムに従い、社会的な1日に1回眠るのが最も健康的です。

1回の長さは、「ボケたくないなら眠りなさい①」で示したように、個体差と年齢で決まりますが、労働年齢なら7時間以上と思ってください。「第⑥位 スリープヘルスと生産性 ①睡眠時間の大切さ」を参照してください。



人間は食べたものでできている?

睡眠同様、原始的な生命活動である排泄の機能は、想像しやすいですよね。


酸素とエネルギーを用いて生命活動を行うと必ず出てくる二酸化炭素と老廃物は、蓄積されると、生命活動を障害します。そのため、二酸化炭素は呼気から、老廃物はさまざまな排泄機関から体の外に出ます。


自分が排泄している、生きるためには排泄は欠かせない、と知覚するタイミングは多いです。


「人間は食べたものでできている」的な表現がありますね。食べたものが人間を栄養することは否定しませんが、食べたものではできていないかな、と私は思います。食べたものを自分の一部にするためのプロセスが生命活動です。

何時間勉強したか、何冊本を読んだか、より、そこから何を学んだか、が大切なのと同じで、知識と異なり、蓄積に上限のあるエネルギーなら、何を食べるかよりどう食べるかが決め手になります。「君たちはどう食べるか」シリーズを参照してください。



脳はいつも動いている

覚醒中、特にダニエル・カーネマン先生のシステム2を働かせているときには、脳が活動していることを疑う人はいないでしょうが、そうでなくても、脳は常に動いています。

生きている生体内をどんなに細分化しても、あらゆる単位が常に動いています。


動き続ける脳のエネルギー源は酸素とブドウ糖で、当然、生命活動の結果の老廃物が発生します。

摂取や排泄、睡眠等、原始的な生命活動の不足や過剰は、ウェルビーイングを脅かします。


脳は、会社等人間の集団や人間の生体と同様に、機能単位の集合体であると同時に、システムとして動く、自律分散構造です。

脳科学的な視点で脳の自律分散構造を捉えるときに注目したいのが、特定の対象に意識を払わず、システム2は働いていない状態のときの「デフォルトモード・ネットワーク」という神経活動です。

各神経細胞とそのネットワークが生真面目に活動している状態ではなく、ほろ酔い気分やうとうと状態、マインドフルネス瞑想などの、ほんのり抑制の取れたタイミングで、ふわっと、いいアイデアが浮かぶことがあります。いわゆる、ナイスなボケ状態です。

デフォルトモード・ネットワークでは、ひとつひとつの神経細胞の自律的な活動の集積というよりは、グリア細胞を含むあらゆる脳内の細胞が、その各細胞間の関係性ごと一塊となってつくる状態です。細胞一つ一つはおとなしいように見えて、その関係性が作る脳全体の環境が脳を成長させているのです。


企業経営と似ていませんか?


反対に、意識的にシステム2を働かせているときの神経活動を、「セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク」といいます。そしてデフォルトモード・ネットワークとセントラル・エグゼクティブ・ネットワークの中間的な存在が「サリエンス・ネットワーク」です。



グリンパティック・システム

コラム「認知症一次予防としての睡眠改善 それを企業がやる理由」でご説明したとおり、脳の掃除は、睡眠中に行われます。掃除・洗浄を担当する脳脊髄液の覚醒中の主な役割は、「脳実質の保護」です。胎児が羊水に守られているのはご存じですよね、同じように脳と脊髄は、脳脊髄液が刺激を緩衝することで守られています。

これは私の意見で、科学的知見ではありませんが、安全な寝室で睡眠しているときには、警備・防衛の手が空くので、副業である清掃員としての仕事ができるのでしょう。


脳以外の場所の老廃物は、体液の移動に伴ってリンパ管に流入し、最終的には静脈系へ移動して、二酸化炭素と一緒に血流に乗って片付けてもらいますが、脳実質の毛細血管の周囲には他の細胞のように細胞間質液を含む場所がありません。



動脈の拍動やくも膜下腔の内圧などの力によって脳脊髄液は、くも膜下腔から血管周囲腔(脳脊髄の動脈・静脈・毛細血管壁と、脳の細胞の大部分を占めるグリア細胞の一種であるアストロサイトの足突起で形成される壁構造に囲まれた空間)に流入します。

アストロサイトはアクアポリンというポンプを用いて、自ら縮んで作った隙間に、電解質組成など化学的な変化で一時的に強力洗浄剤と化した脳脊髄液を、通常の拡散の1,000倍のスピードで循環させて、脳をジャバジャバ洗います。


まさに、脳のデトックス、神経細胞の大掃除、新しい自分に生まれ変わりそうです!!!


これこそ文字通り洗脳ですが、巷の洗脳とは異なり、こちらは脳の健康と生産性を高める効果があります。


睡眠負債やアルツハイマー病の脳に、アミロイドβが蓄積することはよく知られていますが、本来排出されるべき老廃物が蓄積してしまうことで、認知機能が低下するという説明は、非常に納得できるものです。


脳で活躍する代表的エリートといえば、活動電位をビリビリ発するニューロン(神経細胞)です。10倍以上の細胞数のグリア細胞や脳脊髄液は、長い間、支持とか保護とかの物理的で地味な作業しかしていないという印象でした。

ところが20世紀後半から、グリア細胞のすごいスキルにどんどん注目が集まっています。


グリア細胞は、ニューロンの生存や発達機能発現のための脳内環境の維持と代謝的支援を行っています。ニューロンがプレイヤーなら、アストロサイトはマネージャーです。

脳内に入る血液は、血液脳関門(BBB)という関所をくぐらねばなりません。だから、脳内を流れる血液と、脳以外を流れる血液は、成分が異なります。

この関門をつくっているのもアストロサイトなんです。

脳内の掃除だけでなく、そもそも入場制限をきっちり行っているんです。


無口なアストロサイトは、電位は発しませんが、シナプス伝達効率や局所脳血流の制御、脳の掃除という、脳機能にとって本質的な役割を果たしているんです。


2012年、ロチェスター大学メディカルセンターのMaiken Nedergaard先生は、このシステムを、リンパ系とグリア細胞をかけ合わせてオシャレに、「グリンパティック・システム:Glymphatic System」と命名しました。裏方アストロサイトに、光が当たりました。今後、ノーベル賞受賞が期待されます。


数ある生命の神秘の中でも私の大好きな発見の一つです。


オタクな知識はともかく、厚生労働省も『健康づくりのための睡眠指針2014』の中で、睡眠不足はヒューマンエラーに基づく事故のほか、生活習慣病やこころの病等心身の疾病につながるとして、睡眠の大切さを訴えています。

厳しく睡眠時間を取るよう助言すると、「通勤中、合計2時間以上、眠ってますから」なんて答える長時間労働者がいますが、電車の中で、頭をぐらんぐらん揺らしながらウトウトしているときに、グリンパティック・システムは起動できませんよね。アストロサイトは繊細です。


あなたの脳、ゴミ屋敷になっていませんか?


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