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ボケたくないなら 眠りなさい ③ 睡眠薬はボケ薬

本日は、「ボケたくないなら眠りなさい」シリーズの第3弾、レイプドラッグと呼ばれる睡眠薬の悪口です。


コラム「レイプドラッグ天国のままではいけない」で充分、辛辣にその犯罪利用については取り上げましたので、本日は薬理学的な文脈で批判をしてみます。

大阪府警科学捜査研究所の確立した手法では、髪の毛から僅かな睡眠薬を数カ月間、検出することが可能です。現在も後を絶たない睡眠薬を利用した犯罪には、断固たる態度で立ち向かうと同時に、医師は自分の処方が犯罪に加担している可能性があることを常に念頭に置いてください。性犯罪かもしれない、相談したいと思ったら、「#8103」を利用してください


そんなに心理的にも身体的にも社会的にも『悪い』薬を、「簡単に『医者が出す』、『病院でもらえる』のが悪い」という意見はもっともで、私は、自動販売機みたいに患者の言いなりになって睡眠薬を処方する医者が諸悪の根源だと思います。

ただし、消費者である皆さんに意識していただきたいのは、開業医はマーケティング倫理を知らない小売業の店主のようなもので、お客様に嫌われたくない一心で誤った選択をしやすい存在です。

悪いのは間違いなく医者ですが、医者の臆病や怠慢から自分の身を守るために、自ら睡眠薬の毒性を知り、避けてくださいますよう、お願い申し上げます。


むやみに睡眠薬を勧められたら、コラム「眠れぬ夜の経済効果☆最新・慢性不眠症ガイドラインの一押しはCBT-I☆」を参照して、「米国の不眠症治療ガイドラインでは、第一選択に投薬はありませんよね?」って言ってやってください。

実際に日本の睡眠薬処方は米国の6倍以上です。同じ効果を上げるためのベンゾジアゼピン系薬剤の必要量は、アジア人より白人や黒人、同じアジア人でも日本人より中国人やアメリカ系で圧倒的に大きいので、同程度だとしても処方しすぎと評価できるのにかかわらずです。


とはいえ、日本の不眠症というレセプト病名に対応する治療として、米国では第一選択であるCBT-Iという医療行為の適用はありません。 それを悲観するより逆手に取って、スキルを身につければ医師以外でも実施することができ、オンラインCBT-Iや集団CBT-Iの有効性が科学的に明らかになっているので、怪しいポピュラーサイエンティストの睡眠啓発セミナーのかわりに、企業のポピュレーションアプローチなどで利用価値の拡大が期待できます。 CBT-Iは具体的に企業で行える健康経営施策として、またゆっくりと紹介したいですが、まずはこちらのABCスリープの説明をご参照ください。

日本では不眠症治療の主流である睡眠薬を用いた薬物療法ですが、日本睡眠学会はガイドラインの中で改善の余地を指摘しています。



ボケたくないなら眠りなさい②で、「秒でバタンキュー」を、睡眠負債ボケと診断しました。

ほとんど失神のように、「秒でバタンキュー」や、なにかしながら「寝落ち」するのは、生物として、非常に危険な状態だとわかりますよね。

バタンキューじゃなくっても、睡眠は野生動物にとっては命がけです。それだけ睡眠は本質的で、生命維持に必要な活動なのです。

睡眠が生命維持のための欠くべからざる活動だからこそ、ある程度は能動的にコントロールできる状況が必要です。同じようにエッセンシャルな排泄行動を例に取ると、「トイレに行きたい」と知覚してから排泄するまで、秒単位ですらコントロールできないと、特に社会的に非常にリスキーですよね。

寝落ちは、「フツウ」ではありません。スマホをいじりながらベッドで意識を失うのは、トイレになんとか間に合ってギリギリセーフと似たようなものではありますが、同じような睡眠負債ボケの状態で運転していたり、仕事していたりするのは、トイレに間に合わず漏らしてしまうのと同じように、覚醒しているべき瞬間に、意識を失う危険があるということです。



睡眠圧の高まりによって眠気を感じ、眠るべき時間に眠るべき環境が整うことによって、睡眠ははじまります。

要は、「眠いから眠る」ってことですが、「フツウ」は、横になってから寝付くまで、10分以上はかかります。

週に2日以上、2時間以上寝付けないことが1ヶ月以上続いて、日中の機能障害が起きている場合は不眠症ですが、皆さんの多くの日中の機能障害は、睡眠不足によるものでしょう。


実際に「日中の眠気」を課題に、睡眠薬を求める社会人が多いのですが、睡眠負債を抱えて睡眠薬を内服すれば、日中の眠気は大きくなる上、薬物依存になってしまうリスクがあります。

経験上、勤務中の居眠りが問題視される従業員のほとんどが、なんらかのかたちで睡眠薬を使用しています。


睡眠圧は睡眠物質の蓄積で高まります。

覚醒中に蓄積する睡眠物質によって、ちょうど、ししおどしが跳ね上がるように睡眠がはじまり、睡眠によって睡眠圧が低下し、睡眠中にしかできない生命活動が完了すると、またししおどしのように、自然に目が覚めます。


「寝ている間にたまった睡眠物質は、光を浴びることで減らすことができます。」と説明しているページがありましたが、大嘘です。信じないでください。

自然光を浴びることは、睡眠誘導やサーカディアンリズムの調整に関係しますが、睡眠物質を減らしはしません。睡眠物質は覚醒中にたまり、睡眠中に減ります。睡眠物質の溜まっている状態が、眠い状態です。

睡眠に関しては、このように明らかに誤ったポピュラーサイエンスが多いです。

入浴剤メーカーが入浴を推奨していたり、講師派遣会社がセミナーを推奨していたりしたら、簡単に疑ってください。


睡眠を扱うリアルサイエンスが、睡眠学です。

2017年に体内時計の研究で、米ブランダイス大学のホール(Jeffrey C. Hall)博士とロスバシュ(Michael Rosbash)博士,ロックフェラー大学のヤング(Michael W. Young)博士の3氏がノーベル賞を受賞したように、まだまだこれから伸びしろの大きい最先端の学術分野なんです。

「ボケたくないなら、眠りなさい② 究極の脳内デトックス」で取り上げたグリンパティックシステムなど睡眠生理の解明や、より効果的なCBT-Iのトレーニング、睡眠の経済効果の検証などが、睡眠学の役割で、睡眠薬の処方は全く重要ではありません。



日本の保険医療制度では、睡眠薬は、「不眠症」というレセプト病名に対して使用されます。

「高血圧症」で使用される降圧薬は、血圧を下げる薬ですが、睡眠薬は睡眠力を高める薬ではありません。

覚醒剤の拮抗薬でもありません。

睡眠物質でもありません。


睡眠物質がたまると眠れるのなら、睡眠物質を化学的に合成したら、よく眠れそうですよね。実は、そんな発想の研究は行われています。

睡眠物質のひとつ、アデノシンはアデノシンA2A受容体を介して視床下部の睡眠中枢を活性化させますが、カフェインはそのアデノシンA2A受容体にアデノシンより先にくっついて、アデノシンを睡眠中枢に作用させないようにするので、コーヒーが眠気に効きます。

★天然の眠気を寝付きに最大限利用するために、コーヒーなどカフェインの摂取は、15時のおやつくらいまででやめておきましょう。

反対にアデノシンA2A受容体にくっついて、アデノシンと同じように睡眠中枢を活性化させる酒精酵母GSP6は、直接、睡眠中枢を活性化させるだけでなく、腸ではセロトニンの分泌を高めるそうです。しかも肌質改善効果もあるそうで、機能性食品として販売されています。

ご興味のある方はこちらの総説、「清酒酵母による睡眠の質改善作用と機能性表示食品への応用」をご覧ください。



睡眠薬は睡眠物質ではないので、視床下部の睡眠中枢には働きかけません。


最も多く処方されている睡眠薬であるベンゾ・非ベンゾと通称されるベンゾジアゼピン系薬剤は、海馬を中心に分布しているベンゾジアゼピン受容体を介した鎮静作用で、脳の活動を抑制します。

胃カメラの検査等に用いられる鎮静剤と同じ仲間です。(胃カメラのときは、鎮静剤ではなく、麻薬を用いて、意識は奪わないけれど、痛みなどの苦痛や不快を取り除く場合もあります。)

麻酔薬でもありません。(一部のベンゾジアゼピン系薬剤は麻酔導入薬として使用されることがあります。)

脳の活動が抑制され、認知機能が低下すると、ボーッとしたり、意識がなくなったりします。


ベンゾジアゼピン系薬剤は、ベンゾジアゼピン受容体を介して、ガンマ-アミノ酪酸(GABA)系の活性を高めて、脳の情動を抑制します。海馬は、情動中枢であると同時に記憶回路の中心なので、記憶機能も抑制されて、健忘という記憶障害を生じます。健忘のほか、理性が抑制されて異常行動を起こすことがあります。

これは睡眠とは無関係の反応です。

積極的に眠くなっているのではなく、能動的に働こうとする脳の活動が抑えられて、ボーッとする、さらに作用が強まると意識を失うというメカニズムです。


情動抑制により不安が軽減しますので、抗不安薬としても用いられますが、当然、ネガティブな情動だけでなく、ポジティブな情動も抑制されます。ネガティブなことを考えすぎて眠れないときに睡眠薬を服用すると、ネガティブなことを含めていろんなことを考えられなくなるので、そこに眠気を含め、眠る条件が整っていれば、すんなり眠れます。

でも、そのとき寝床で横になって、暗くして、眠る体制を整えているのではなく、お酒を飲んで大騒ぎしている、危険なセックスをしそうになっているような状況だと、認知機能の抑制により理性はきかず、適切な判断ができなくなって犯罪に巻き込まれてしまうことがあります。



さきほど、「睡眠薬は覚醒剤の拮抗薬ではない」と述べましたが、「拮抗薬」というのは、ある薬剤の効果を打ち消す薬のことです。つまり、毒に対する解毒剤です。

世の中のすべての薬に拮抗薬が存在するわけではなく、むしろ、まれです。

拮抗する必要のある危険な薬剤に限って、拮抗薬、すなわち解毒剤が開発されると言ってもいいでしょう。

たとえば、筋弛緩薬には拮抗薬があります。2000年の仙台筋弛緩剤点滴事件が有名ですが、つい先日も、高校生が自作の筋弛緩剤で罪を犯したと報道されました。

そして、ベンゾジアゼピン系薬剤にもフルマゼニルという拮抗薬があります。ベンゾジアゼピン受容体との親和性(くっつきやすさ)がベンゾジアゼピン系薬剤より高いけれど、ベンゾジアゼピン系薬剤作用は持たないので、受容体を占領して、薬剤が海馬に働きかけるのを止められます。

カフェインとアデノシンの関係と同じですね。

「今のところ、静脈注射剤しかないけど、舌下錠があればいいのに。それをヤク漬従業員の検出にも用いることができそう。うとうとしてたら口に入れて、パフォーマンス復活!みたいな。毎朝フルマゼニルを飲むことで服用が正当化されてもイヤなので、価格や入手経路などの設定は工夫しなければ・・・・・・」と、FBに真剣に投稿していたのは私です(笑)。




睡眠薬の恐ろしさを述べてきましたが、これは薬全般に対する批判とはまったく異なります。

特に、多くの慢性疾患の治療薬は、服用し続けなければならないからこそ、長期の安全性が確認されていて、多くの場合、症状や疾患が改善されて、服用しなくてもよい状況で服用し続けてしまっていても、特に悪いことはないどころか、飲んだほうが結果、寿命が伸びます。もちろん、耐性も依存もありません。


睡眠薬の恐ろしさは、まず認知機能を抑制するという主作用があること、そして、耐性と依存があることです。


睡眠は単純で原始的な生命活動ですが、睡眠によって認知機能を保ち、高めるという贅沢な投資価値もあります。

認知機能が高まると実現できること、知覚できることが増え、情動活動が高まると、ハッピーやラッキーやラブなど、素敵な感情を無限に謳歌できます。

それらを抑制したほうがよい場面は少ないのではないでしょうか。

もちろん、日常生活を障害するほど、不安や恐怖などのネガティブな感情に支配されているときには、専門医の指示の下、一時的に情動を抑制する治療を受けることが必要な場合はあります。

でも、ぐっすり眠って睡眠の質を上げて、日中のパフォーマンスを高めるために睡眠薬を選択しているのなら、圧倒的に間違っています。睡眠薬は睡眠を浅くする、すなわち睡眠の質を下げます。


耐性というのは、習慣的に継続して薬を服用することによって、薬剤の効果が減弱してしまうことです。だから、同じ効果を得るためには、どんどん量が増えてしまいます。

依存とは、気持ちではなく、もう、本能的に、体がクスリを求めてしまう状態です。こうなるとやめようと思ってもやめられません。

耐性と依存という性質によって、継続すればするほど、睡眠薬を離脱するのは難しくなります。

タバコやお酒と同じで、口にしないことが最善、おもしろがって試したとしても、できるだけ早くやめるのが肝心です。


睡眠薬を服用するのはかっこ悪いです。

どうせなら、かっこよく生きたいじゃないっすか。

眠れないなら、睡眠薬を飲むんじゃなくて、1日くらいは眠らないでおいたら、翌日はよく眠れるはずです。

ただし、睡眠不足状態では安全のため、運転や高所作業などは避けてくださいね。

もし、翌日も眠れなかったら、睡眠医療の専門家にご相談ください。



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