残業環境および上司のサポートと心理的苦痛の関係

更新日:2020年11月19日

個人レベルの残業時間と健康の関係は、実のところ、わかっていそうでわかっていないのです。残業時間は、心血管リスクなどいくつかの健康リスクと関連しているのですが、おそらくそれは睡眠不足によるもので、関連があることと、因果があることは別物なのです。

しかし、周囲の人の残業時間、いわば職場の「残業環境」が個人に与える影響に関する知見はもっとないので、検証してみました。


このブログは、米国の産業衛生学会の学会誌掲載された論文を日本語で解説したものです。英語が得意な方はぜひ、本文を読んでください。無料です!



要約(ABSTRACT)


前回のコラムで少し解説しましたが、科学的エビデンスとは査読のある雑誌(こういう学術誌のことを業界では「ジャーナル」と呼びます)に論文が掲載されることで確立します。

査読とはジャーナルに載せるための審査です。

「こういう研究しましたので、載せて~」と投稿して、「オハナシニナラナイヨ」と突き返されてしまうこともありますし、ものすごく優秀な論文だと、非常にまれですが、修正なしで即掲載ということもあります。

私の場合は、最も一般的なパターンで、たくさんの修正依頼に丁寧に答えて掲載されました。 その査読の指摘のおかげで、実際に内容はすごくよくなったので、感謝しています。 でも、やりとりをしている間は、結局これで「掲載なし」になったら、これまでの努力はどうなるの?って不安でした(笑)



ときどき、まるでエビデンスがあるかのように「学会発表!」と謳っているのを見ますが、

学会は持論を発表する場ですから、発表内容は科学的エビデンスとは限りません。 私はたいてい、症例報告や所感等のふざけた演題で発表しています。

もちろん、科学的エビデンスは発表されますが、まずはジャーナルに掲載されて公に科学的エビデンスとして確立されてから、その内容を、ちょうど、このコラムのように発表する場が学会です。

また、お金を出せば内容を検証せずに載せてくれる雑誌を「ハゲタカ・ジャーナル」といいます。


たいていのジャーナルでは、伝統的な形式であるIMRAD(イムラッド)形式(Introduction, Materials and methods, Results, and Discussion)で研究論文とその要約を求められます。

最初に全体の要約をします。

各誌、要約の字数制限などがありますので、うまいこと頑張ります。

掲載後、オープンアクセスの場合は、著者がお金を払って皆さんに無料で読んでいただけますが、そうでない論文を読みたい場合は、お金を払って買っていただきます。 その場合でも、この要約は読むことができるので、私も要約だけは本文の100倍以上は読んでいると思います(笑) オープンアクセスなら迷わずダウンロードして読みますが、有料の場合は1本、4,000円くらいするので、慎重に検討します(笑) 普段からオープンアクセスにお世話になっているので、私もオープンアクセスにしました。

私の載ったJOEM(アメリカ産業衛生学会ACOEMの学会誌)では、Objective(目的)、Methods(方法)、Results(結果)、Conclusions(結論)の順で要約を書くように指定しています。 


要約


目的:残業環境(残業している人の多さという環境要因)と心理的苦痛という個人要因の関連を明らかにすることです。


方法:98組織、7,786人のストレスチェックデータを用いました。残業環境は、自記式前月残業時間が45時間以上の労働者の割合で評価しました。マルチレベル分析(環境と個人の関係が分かる方法)で解析しました。

結果:残業環境(職場の45時間以上労働者割合)が10%増加すると、実際に残業していない人も含めて、個人レベルの心理的苦痛が16%増えました。また、残業環境から受ける影響は、残業環境と個人の残業時間によって多様だということがわかりました。

結論:職域における適切な残業時間調整は、残業している労働者はもちろん、実際に残業していない労働者の個人レベルの心理的苦痛を減らすためにも重要です。


導入

まずはこの研究を行なう背景や、この研究で確かめたいことを紹介します。

長時間労働と労働者の健康の関係は、地球規模で注目すべき、古典的な労働衛生課題です。

特に日本人は、勤勉というと聞こえはよいけれど、「KAROSHI(過労死)」