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有給休暇のつかいみち マティス法

有給休暇を職場の同僚に寄付

大好きな話題なので、しょっちゅうネタにするマティス法。

せっかくなので、コラムでも皆さんに知っていただこうと思います。


「マティス法(Loi Mathys)」は2014年にフランスで制定された、

障害や病気を抱える20歳以下の子供を持つ従業員に対して、職場の同僚が自分の有給休暇を寄付することができるという法律です。

休暇を寄付してもらった社員は、その有給休暇を消化する間、当然ですがオリジナルの有給休暇取得時と同じ待遇を維持されます。

この法律ができるきっかけになったのは、小児がんを患うマティス少年の父親、ジェルメンさんの有給休暇が底をついたことです。

このとき、工場勤務の同僚たちがジェルメンさんに自分たちの有給休暇をプレゼントしたのです。


フランスは有給休暇日数(37日)もその取得率(93%)も日本(17日&50%未満)とは違い、世界一。

どうせ捨てる有給休暇ではないから、その価値も大きいでしょう。

休暇を譲るという前例などなく、同僚たちが自発的に思いついた行為、その申し出を会社は許しました。

「前例」がないと動けないどこかの国の企業とは、この辺も違います。


プレゼントの総額は、有給休暇170日間。10人が半分、有給休暇をプレゼントした量です。


同僚の美しいサポートのおかげで、マティスくんを看取れたジェルメンさんは、自分と同じ境遇の人を支援するために、「同僚に有給休暇を寄付できる法律」を議会に提案し、様々な会社を回りながらキャンペーンを行いました。

法案が通るまでに3年もの月日を要しましたが、現在では、この法律を活用して介護にあたり、救われた命がいくつもあったという事例も出てくるようになりました。施行の4ヶ月後には「350日」の有給休暇のプレゼントを受けた例もあります。


日本の場合は、どうせ取得できない有給休暇ですが、せめて誰かに喜ばれる方法で使われたら、嬉しいですよね。

休みなく働きながらも、そのおかげで、病と闘う子どもたちが充分なケアを家族から受けられるとしたら、モチベーションが湧きます。


有給休暇 日本の現状


ワークライフバランスという言葉はずいぶんなじんできましたが、内閣府の仕事と生活の調和レポート2015の評価ほどは、進んでいない気もします。


有給休暇取得率は横ばいで、自己啓発を行っている社員の割合は明らかに下がっている感じです。そもそも自己啓発を行うことがワークライフバランスなのかどうかがよくわかりませんが・・・

エクスペディアの有給休暇調査が図が多くて見やすいので、そのページから引用しますが、与えられた休暇を消化している人が日本では6%しかいないというのはかなり衝撃的な事実です。

体調不良による休職もまずは有休の消化からはじめるので、消化している6%の人はほとんどそういうワーカーと仮定できそうな数値ですよね。

自発的に楽しんで、有休にリフレッシュできている日本のワーカーは少なそうです。



この調査もおもしろいなあと思います。

有休が取れない人の多くは仕事が忙しくて取れないということなんですが、有休取得ゼロの人の3倍、有休取得が70%以上の人は有休を取った方が評価されると考えています。ゼロの2%の人が休暇を取らない理由が心配ですが、こなすべき仕事の量が変わらなくても、仕事や休暇に対するマインドセットを変容することで、取得率は上げられそうな匂いがしますね。

休職する同僚にできること


マティス法のような制度を、こどもに限らず、ケアが必要な家族、たとえば介護が必要な家族のケアに利用することはもちろん、社員本人の療養にも利用することが望ましいと考えています。


実際に余った休暇を買い取ってほしいと思っているワーカーがこんなにいるんだったら、買い取ったり、販売したり、できたらいいですよね。


病気になったり、健診結果が有所見だったりする社員に対して、「どう接したらよいですか」という質問を受けます。


同僚として社内で誰かに貢献する方法は、唯一、働くことしかありません。


また、治療が必要とわかった社員は、自己保健義務として、治療に専念しなければなりません。

仕事が忙しいから、と治療するべきなのに放置することは、実は労使契約違反です。


お互いができることを精一杯する。

社内で元気な社員ができることといったら労働。

自己保健義務を果たすためには通院などの治療、そして療養です。

そしてしっかり復職して、今度はサポートする側に回ればいいんです。

常に、周囲にサポートされ、周囲にサポートしながら、働く、そのサポートの貯金を貯めたり引き出したりするのが職場です。

特に出費がないときは、貯金しておけばよく、必要なときにはメンバーの誰もが引き出せばよい、それは実は非常に日本的なしくみでもあります。


企業の意思表明


企業側としては、療養の必要がある社員がしっかり休みやすい設定を作ることが大切です。

そもそも企業として、本気で休暇を取得してほしいという意志が必要です。


どうですか?


ワーカーのアンケートをみると、どうも会社が休んでほしくなさそうだから休めないという声が多く聴かれますし、休むタイミングのない仕事を与えられていれば、当然休めませんよね。


休みは取れ、仕事はしろ、では、うまくいきません。


有休取得率の高い企業を参考にするのもよいでしょう。(『CSR企業総覧2020版』東洋経済社) ランキング1位は5年連続でホンダです。(2020年現在9年目) 取得率は3年平均で99.6%と他社を圧倒している。2012年度99.4%→2013年度99.0%→2014年度100.3%とほぼ完全取得状態。ホンダは年末に有休残が必ず20日以下になるよう全社で計画的な取得を進める。こうした取り組みが高い取得率につながっている。 2位はアイシン精機の98.2%。2012年度100.5%→2013年度96.3%→2014年度97.7%とホンダほどではないが毎年ほぼ100%の高い取得率を誇る。失効する年次有給休暇を最大20日まで積み立て、本人の私傷病、配偶者・父母子の看護に使用可能。他に月4回まで使える「半日単位の有休制度」なども取得増加に貢献している。 3位はホンダ系の四輪シート部品メーカーのテイ・エス テックで97.0%。2012年度95.2%→2013年度96.0%→2014年度99.8%と取得率は年々上がってきている。テイ・エス テックは2012年4月に半日単位の有給休暇制度を導入。子育て中の社員は短時間勤務中の半日単位の取得が可能など自由度も高い 2位のアイシン精機、5位のダイハツ工業ではマティス法と同様の取り組みが行われていますね。

プレゼンティーズムはアブセンティーズムの少なくとも6倍、概ね12倍で、20倍というデータもありますが、それでも低く見積もられている可能性があります。

具合が悪いまま、パフォーマンスの出ないまま働くよりも、しっかり休んで元気いっぱいで復帰してもらうほうが企業にとっては得です。

数日の休みはもちろん、月単位の休みであっても、休んだ期間の2.5倍雇用し続ければ、確実にプラスになります。

自分を待っている仕事があると療養やリフレッシュにも実が入ります。


休んだ分は同僚がカバーしてくれるから、まずはしっかり療養するようにあるワーカーに促したところ、

私の仕事を同僚にカバーされてしまうと、誰でもできる仕事をやらされている気がすると答えられたことがあります。

これには驚いてしまいましたが、企業の仕事は一人の社員の不調で止まってしまうようにマネジメントされているほうが問題です。

一人一人の社員にやりがいや適性、自分だからできるという自信を持たせるのと同時に、そういうプロの仕事をきちんとカバーしてくれる同僚がいるという安心や信頼に支えられた企業の風土が重要です。


体調が悪ければ休むのが当然。悪くなくても休暇は取るのが労使にとって法定義務です。

その感覚は、けっして仕事を怠けているわけではなく、仕事が大切だからこそ、会社を愛しているからこそ、自然に思い至るものでなければなりません。


休んでいる間、普段の週末や祝日も含め、会社とどう関わるかというのも重要です。

全権委譲して休暇中の上司に意見や裁量を求めて連絡を取ったら解雇というほど厳しい企業もありますし、深夜まで仕事半分でラインをしあう企業もあります。

厚労省としては全権委譲による従業員育成、代替業務による多能化促進などに期待しているようです。(有給休暇ハンドブックより)


そういうお前は休めているのか?


手術室で働く麻酔科医は、主に予定手術の管理をします。 手術前から患者の情報や手術の情報を集め、管理の計画を練り、実際に管理します。 私は麻酔が大好きで、毎日、やりがいや誇りを持って麻酔をかけていましたが、やはり、体調を崩すことはあります。

低パフォーマンスで人の命に関わる仕事はできないので、仕事を休む場合は別の麻酔科医がその手術の麻酔管理をします。

一つの手術に一人以上の専任の麻酔科医が必要で、一人の麻酔科医が複数の手術をかけもちできないきまりがありますから、私が管理する予定だった手術は片手間ではなく、別の同僚麻酔科医にしっかり管理されます。

正直なところ、元気だったら同僚よりよい仕事ができたはず、とか、いろいろ計画や準備をしていたのに、とか、悔しく思うこともありますし、サポートのために予定手術についていない先生がたは、オールマイティーで能力の高いベテランの場合が多いので、むしろ私がかけるよりよかったんじゃないかな、と卑屈になることもありました。 どう思おうとベストな状態で勤務できない自分が悪いのだし、そんな私の都合で患者に迷惑をかけるわけにはいきません。有休調査や普段の産業医面談では、よく、「同僚に迷惑をかけたくない」という声が聴かれますが、「お客様にかける迷惑」を考えれば、同僚にはいくらでも迷惑をかけてもよいような気がします。

職場はお客様に迷惑をかけないために、社内では迷惑をかけあうというか、サポートし合うための組織のはずです。同僚は身内です。


そのため、しっかり療養し、職場に復帰したときには、療養中に私がするはずだった仕事は残っていないので、次の仕事にかかれます。

元気な間は同じように突然休んだ同僚のかわりもしますし、サポートもします。


ところが最近、オフィスでの仕事をしているので、具合が悪くて休んでも、復帰時に休んでいる間の仕事は片付いていません。

すぐこなせば、100の力が必要な仕事も、1日おくと150の力が必要になっている場合が多いです。

すると、1日休んで、復帰後に250の仕事を目の前にすることを思うと、当日に60でもいいから片付けておけば、翌日は160に抑えられると考えてしまいます。

それで無理をするのですが、休んでいないから、翌日に160の仕事が片付けられるはずもなく、ダラダラと疲労と仕事が積み上がることに気付きました。


これは企業として情けない状態でして、優先順位を設けたり、別の人に任せたり、試行錯誤しているところです。

思いがけずに舞い込む仕事もありますから、いつもいつもいっぱいいっぱいだと、そんなチャンスをキャッチできません。

まず、自分から休み方を仕事に合わせて柔軟に、機能的に、コントロールしなければなりませんね。


サポートの思い出


これはまったく私のナラティブな思い出ですが、研修医の頃、ちょうど当直(といっても指導医と二人体制)に大きな手術が立て続けに入り、もう私はやる気と興奮で鼻息が荒くなったのですが、同僚たちは私の体の弱さを知っているので、皆、心配顔でした。

といって、そのきつい仕事を自分がかわろうとは思わないのも当然ですし、なにより、当直をかわってあげると持ちかけていてもやる気マンマンの私がかわるわけがありません。

そんなとき、同期の研修医の一人が、

「陽子は使わないんだから、当直室で寝るわ」

と、ムダに揉めている私たちを背に、ぷいーっと行ってしまいました。

医者の当直は看護師の夜勤とは違い、眠れる時間は眠らなければならないので、当直室にはベッドがあります。

朝まで眠れるはずのない手術が入っているので、私はそのベッドを使う予定がありません。

私は自分一人でやりたかったけれど、やっぱり少し自信がなくて、かといってこのチャンスを誰かに譲るなんて絶対にイヤだし、それでも不安で・・・というのが正直なところだったのですが、一番頼りがいがある彼女がそう言ってくれたことで、もし、いっぱいいっぱいになったら彼女を起こして手伝ってもらえばいいんだ、とすごく楽になりました。

私の仕事や自信ややる気をとりあげるのではなく、私は私で勝手にするわ、という態で最大のサポートをしてくれた同僚。

ともかくかっこよかったし、めちゃくちゃ感謝しています。

自分の当直の予定日とスイッチするという方法以外に、こんなによい選択があるなんて、まったく想像しませんでした。

今でも彼女にその話をするのですが、「眠かっただけじゃないの?」なんて、あくまでかっこいい。

そんな彼女はどんどん専門性の高い仕事をがんばっているので、今や私は恩返しにかわってあげることはできず、私が寝ていてあげるといっても迷惑なだけでしょうが、こんな粋なサポートを互いに与え合うような職場づくりをしたいと考えています。

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