睡眠リテラシー第1回 加齢とともに睡眠は変化する

更新日:7月7日

このシリーズは、Sleep DX Programに参加してくださっている方向けのコンテンツですが、正しい睡眠知識は人類共通なので、どなたでも参考にしてください。 【加齢とともに睡眠時間は減っていく】 ぜひ、こちらのコラムをご覧ください。「ボケたくないなら眠りなさい①睡眠時間と年齢」


「最近、トシのせいか、朝早く起きちゃうんですよ」 産業医として労働者と面談していると、そんな台詞をよく聞きます。 診察でも面談でも年齢は分かっているので、 「年齢に応じて、10年で30分ずつくらい、必要な睡眠時間は短くなりますが、45歳で毎日5時間の睡眠は短すぎますね」と申し上げることが多いです。 人間の本質的な生命活動に関わる数値は、正規分布や対数正規分布に類似することが多いですが、人間にプログラムされた本能的な睡眠時間はかなりばらつきは少ないです。

私を例に取ると50歳の女性の本能的な睡眠時間の分布は図のような感じと推定されます。5時間の人は10時間眠らなければいけない人と同じくらい存在するものの、全体の0.2%もいないでしょう。

私の印象として、労働者が自覚的に思いこんでいる「適切な睡眠時間」の山は、かなり図の左側にシフトしていて、充分な睡眠時間を6時間程度だと信じている人が多いようです。


90歳の場合、50歳と比べて、2時間位少ない睡眠時間が適切なので、本来、山は左にずれるはずなのですが、クリニックを訪れる「眠れない」という主訴の高齢者が考える適切な睡眠時間は、右にずれていることが多い印象です。「夜中の2時に起きてしまって眠れない」という訴えをよく聞きますが、就寝時間を尋ねると、19時とか20時とかで、2時に起きてしまうのは至極適正なのです。 私たちは生物学的にプログラムされた体内時計を社会の時計に合わせていかなければならず、それが社会生活を営む労働者にとっては、睡眠衛生を攻略する鍵になります。労働者に社会の時間と合わせる意義を説明する必要はありませんが、高齢者の方はなかなかわかってくれません。家族や社会に合わせるためにも、草木も眠る丑三つ時である午前2時を中央値にするよう、23時くらいまでは起きていてほしいのですが、多くの場合、「することがないから」夕食を食べると眠ってしまうようです。

働く私たちは仕事があり、1日が睡眠と仕事でほぼ埋まってしまい、それを憂える声を聴く機会も多いのですが、老後に備えて、仕事以外の睡眠前の時間の使い方を考えておいたほうが良さそうです。先日、仕事と睡眠だけで人生が終わるのが嫌だから、眠気を堪えて動画を見ていて平均睡眠時間が3時間、やっと眠ろうと思っても眠れないので睡眠薬が欲しいという20代の方を診察しましたが、50年後に嫌ってほど見られますよ、と言いたくなりました。この方の場合は、きっと動画を見ないで素直に0時に眠ればすんなり眠れるのですが、眠気に抗って、3時まで動画を見ているために、自律神経が乱れて眠れなくなっています。3時に睡眠薬を飲めば、翌日の仕事は眠くて、ひどい生産性の低さでしょうね。睡眠薬は眠りたいときにベストな眠りが取れる魔法の薬ではありません。認知機能を下げるクスリです。意思にかかわらず眠らせられるのは麻酔薬だけです。

自覚的なベスト睡眠時間が何時間の人であっても、おすすめするのは中央時間を午前2時にすることです。もちろん、社会の時間と合わせる必要のない方や、むしろ交代制勤務や海外出張の多い方の場合には必ずしもあてはまりませんが、いわゆる一般的なサイクルで生活する方々には、お勧めできます。

Normal polysomnography parameters in healthy adults: a systematic review and meta-analysis. Mark I Boulos, et al. Lancet Respir Med. April 18, 2019.


【睡眠時間(量)だけでなく、睡眠の中身(質)が年齢とともに変わる】


加齢により、睡眠時呼吸障害のリスクが高まります。 先日、診察中にこの説明をすると、好奇心の強い50代の方から、「なぜですか?」というご質問がありました。生物学的なメカニズムとしては、加齢により、たとえばオトガイ舌骨筋の筋力等、さまざまな支持機能が低下して睡眠呼吸障害が出やすくなるとか、代謝全般が低下するとか、回答できる事項もありますが、その方は、生きていく上でなにゆえ、そんな機能が備わっているのか、それに訓練で抗うことはできるのかというあたりが気になったようです。プロの落語家や歌手などが、若い頃とは完全に同じ声ではないが、プロとしての声を保っている例に思い至って、そう考えたようです。筋肉というのは、骨格筋も平滑筋も横紋筋も主に引き締める仕事をしているので、加齢によって、たとえば気管径は大きくなります。気管径が大きくなると呼吸は楽になるそうですが、反対のことが起きます。気管に空気を運ぶための機構の機能が低下するからです。

女性の場合は筋力の低下に加えて性ホルモンの影響によって、閉経後の睡眠呼吸障害の発症が増えます。私はちょうど更年期の自分を実験台にして、経年変化を見ていますが、先日の検査では重症睡眠時無呼吸症候群と診断されました。 別の方とは「なぜ加齢臭があるのか」という話題をしましたが、野生はNo One Behindではないので、臭い人は群れから外されていくのではないのでしょうかね・・・としんみりお話したのでした。 とはいえ、人間社会はNo One Behind、筋トレや科学の力で、健康睡眠寿命を延伸できます!


睡眠時の呼吸だけでなく、睡眠の構成も年齢によって徐々に変化することが知られています。

・年齢とともに増えるもの / 睡眠段階N1 (ノンレム睡眠のうち、一番浅い睡眠)

・年齢とともに減るもの / 睡眠段階N3(ノンレム睡眠のうち、一番深い睡眠)、レム睡眠

・年齢によってあまり変化がないもの / 睡眠段階N2(ノンレム睡眠のうち、中間の深さの睡眠)

ざっくりと、N3とレム睡眠は、それぞれ、長ければ長いほどいいということがわかっていますので、簡単に言うと、加齢によって、睡眠の質は下がるのです。「睡眠の時間と質はトレードオフの関係ではない」という主張は、「第⑥位 スリープヘルスと生産性 ①睡眠時間の大切さ」を始め、あらゆる睡眠コラムで強調していますが、たとえば高齢者が睡眠時間を伸ばすことで、割合としてのN3やレムはどんどん低下してしまうので、時間を増やすことで質が下がることになり、若者が睡眠時間を減らすことで、睡眠サイクルが減り、その結果、レム睡眠の割合や時間が極端に短くなって室が下がる、ということがありえるのです。 レム睡眠に対して、「最も浅い睡眠」と誤解されるような説明を見かけることがありますが、レム睡眠とノンレム睡眠は全く異なる睡眠です。次回はこの睡眠相について、解説します。


Sleep DX Programは、睡眠力で生産性を上げたいビジネスマンの皆さま向けのサービスです。睡眠力は、単純にいえば、N3とレム睡眠の量で測定できます。少なくとも8時間程度までは睡眠時間を増やせば増やすほどいいですし、睡眠を浅くさせる要因やレム睡眠を中断する要因を排除し、睡眠を深くする条件やレム睡眠を発言させる条件を獲得することで、睡眠力は上がります。その点も含めて、睡眠リテラシー第2回 レム睡眠とノンレム睡眠、浅い睡眠と深い睡眠にご期待ください!

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