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第⑩位 PSS(Perceived Stree Scale)とストレスチェック

職場の「イジメ」とストレス

職場の「イジメ」はすでに世界で起こっていて、産業保健上の重要な問題になっています。

また、イジメと長期療養休職や退職の関係もだんだんと明らかになってきています。

今回はイジメと長期療養休職の因果を知覚できるストレスが仲介しているかについて検証した研究を紹介します。


知覚(自覚)ストレス (Perceived Stress)


ここで用いられているPerceived Stress は知覚されるストレス、つまり自覚的ストレスのようなもので、最も簡単に言えば、「ストレスあるなあ」と感じることです。

あえて難しく言うと、Perceived Stress は環境からの刺激あるいは要求に対する個人の主観的な評価結果を指す概念で、周知の心理的ストレスの相互作用モデル

(transactional modeI:Lazarus&FoIkman,1984)における認知的アプレイザル(cognitive appraisal)に焦点を当ててとらえたストレスを意味しています。(Cohen, Kessler,& Gordon,1995;Cohen&Williamson,1988;Monroe&Kelley,1995)


というわけで、このPSS ( Perceived Stress Scale ) は、 1988年にKohen先生によって開発されてから30年近く、世界の多くの研究に利用されてきており、いくつもの妥当性や信頼性が確立されています。

Kohen の PSS といえばストレス関連業界人なら誰でも知っていて、糖尿病のコントロール、風邪のひきやすさ、禁煙、ストレスイベントへの耐性などなど、たくさんのエビデンスがあります。 


もともと10問ですが、②④⑤⑩の4問の簡略版でもOKということですから、すごく楽です。

ここ1ヶ月をふりかえって、次の4問のような気分になったのが どれくらい頻繁だったかを答えるだけです。


人生の重大な問題をコントロールすることができないと感じましたか

個人的な問題をうまく取り扱える能力に自信を持ちましたか

いい方向に進んでるなあと思いましたか

困難が山積みでとても克服できないと感じましたか.

ストレスチェックの項目(調査票)としては、「職業性ストレス簡易調査票」(57 項目)を利用することが推奨されます。また、これを簡略化したストレスチェック項目(調査票)の例(簡略版(23 項目))も使用できます。

ただし、これらは、法令で規定されたものではありませんので、各事業場において、これらの項目を参考としつつ、衛生委員会で審議の上で、各々の判断で項目を選定することができます。

※ ただし、各事業場において、独自の項目を選定する場合にも、規則に規定する3領域に関する項目をすべて含まなければなりません。また、選定する項目に一定の科学的な根拠が求められます。


つまり、これを用いる場合にはしっかりエビデンスがありますから、少なくとも3領域の②心身のストレス反応に変えちゃってもよさそうですね。

それでも文句を言われそうなら、身体的な反応(痛みなど)は追加しておけば、絶対問題ないですね。

②だけで簡易職業性ストレス調査票57項目は29項目、心理項目だけでも18項目です。

とはいえ、そもそもストレスチェックには臨床質問紙としての診断的側面は「ない」と明言しているのに、おかしな話なんですよね・・・実際にSDS(うつ病の臨床質問紙)を厚労省は許可しているので、なにがなにやら・・・

ストレスチェックの3領域の詳細はこちら ① 仕事のストレス要因:職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目をいいます。 ② 心身のストレス反応:心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目をいいます。 ③ 周囲のサポート:職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目をいいます。 そして②の29項目はこちらです。

1. 活気がわいてくる

2. 元気がいっぱいだ

3. 生き生きする

4. 怒りを感じる

5. 内心腹立たしい

6. イライラしている

7. ひどく疲れた

8. へとへとだ

9. だるい

10. 気がはりつめている

11. 不安だ

12. 落着かない

13. ゆううつだ

14. 何をするのも面倒だ

15. 物事に集中できない

16. 気分が晴れない

17. 仕事が手につかない

18. 悲しいと感じる

19. めまいがする

20. 体のふしぶしが痛む

21. 頭が重かったり頭痛がする

22. 首筋や肩がこる

23. 腰が痛い

24. 目が疲れる

25. 動悸や息切れがする

26. 胃腸の具合が悪い

27. 食欲がない

28. 便秘や下痢をする

29. よく眠れない


久々に連続で目で追うと、なんかげんなりしますね。やっぱり受けてるだけで楽しくなるようなリストのほうがいいなあ。。。職業性簡易ストレス調査票57項目を使いたくないけど、法令も遵守したいという企業はたくさんあります。

具体的にご説明することもできますので、気になる企業はお問い合わせください。


ストレスチェックの目的は、労働者のストレスの程度を把握し、労働者自身のストレスへの気付きを促すとともに、職場改善につなげ、働きやすい職場づくりを進めることによって、労働者がメンタルヘルス不調となることを未然に防止すること(一次予防)です。

くりかえし強調している点ですが、けっして、犯人捜しや魔女狩りのツールではありませんので、はき違えないようにしましょう。


青字はすべて厚労省のマニュアルからの引用です。


職場のイジメ

平成24年1月30日に厚生労働省が発表したパワハラの定義は、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」です。

イジメの一般的な定義も「同じ集団内で、力関係において優位にある者が、劣位にある者に対し、主観的、客観的にかかわりなく、一方的に、一時的もしくは継続的に身体的、精神的、社会的な苦痛を与えること」です。

「優位性」って必要なのかな? と私は思うんですけどね。

優位ということばそのものを定義しなきゃならない矛盾がありますが、けっこう「嫉妬」「ねたみ」「やっかみ」が引き金になることも多いので、そういう場合って、ねたまれる被害者のほうがなんらかは優位なんじゃないかな、とも思います。 なんというか、定義に優位性を含むことによってすでに、順列づけというか、一種、イジメのきっかけを孕んでいるような気がします。

余談ですが、私は職場のイジメで仕事をやめたことがあります。 後輩からのイジメで、社会的にも能力的にも優位性は私にありましたが、集団の力は恐ろしいですからね。 ちゃんとかばってくれたり、ひいきしてくれたり、知らんぷりしてくれたりというサポートもあったのですが、苦しみながらでもこの職場で働きたいと思うほど職場に愛情を持てなくてやめました。

学校も職場もそうですが、イジメは陰湿で、リーズンがないからこそ解決を偶然に頼らざるを得ないので、やめるという方法が一番、賢い選択肢です。

以前、ネガ子とポジ子で書きましたが、とりあえず今の問題から離れれば、次にもっとひどい問題が起こるかもしれないけれども、とりあえず目の前の問題は消えます。

この世は酷いもので、実際に職場内での「いじめ」は、退職勧奨や退職強要の手段として行われるケースも多く、いじめや嫌がらせを伴った執拗な退職勧奨等が、繰り返し行われた事例が多くあります。

このような日常的な職場いじめが続くと、精神的なストレスによる不眠、頭痛、吐き気、下痢、腹痛などの身体症状が出て、体調不良を訴えるようになります。 症状が重くなると病気欠勤を繰り返した末に長期休職となるケースも多く、最終的には休職期限を過ぎて自動的に退職・解雇を通告されてしまうなど、大変深刻な問題です。


このようないじめは、社会的にみて相当性を欠くだけでなく、法的にも不当、違法な行為であり、場合によっては、いじめた側に刑事上の責任(名誉棄損、暴行、傷害等)や民事上の責任(企業内での懲戒処分など)が生じることになりますし、企業の管理責任が問われれば労災にもなります。


職場のいじめ対策、労災対策などはまた別の機会に譲るとしましょう。


多くの職場ではパワハラ・セクハラ相談窓口などを設置していると思います。

これも労働衛生管理、人事労務管理として、ストレスチェックの実施と同時に妥当性を見直す機会です。

たとえば、実施者と相談窓口が一緒であるとして、職務の利益相反が起こらないか、など、やはり衛生委員会の議題とするべき問題ですね。


研究ではイジメの定義に「優位性」はなく、その頻度で回答してもらっています。


Does Perceived Stress Mediate the Association Between Workplace Bullying and Long-Term Sickness Absence?


2007年と2009年にPSSとイジメを測定し、その間の長期療養休職(続けて30日以上)との関係をみた研究です。

イジメがあれば長期療養休職に至りやすく、ストレスが高くなるし、ストレスが高いほど、長期療養休職に至りやすいという結果は予想通りにプラスなんですが、イジメから長期療養休職に至る要因としてのPSSは全体の13%に認められました。これは有意な結果です。

たった13%と思うかもしれませんが、イジメや高ストレス、長期療養休職のリスクがある労働者は、このような研究にあまり参加したがらないものですし、ベースラインの2007年にイジメとストレスがあった労働者の中には実際に離職した人も多いでしょう。 また、ストレスやイジメについては現実より過小に返答するリスクが大きいです。 予想される多くのバイアスが結果を小さくする方向に働くと予想されます。 ストレスが高い人がいじめられやすいというリバースコーゼーションはみとめられませんでした。

当たり前と言えば当たり前ですが、職場のイジメがあったら、いじめられている人のストレスを減らす方向に介入すれば長期療養休職が予防できるかもしれない、という結果です。


職場のいじめに関する研究では、親愛なる津野先生がつとに有名ですが、私が好きなのは、職場にいじめがあると、いじめに被害者としても加害者としても関わっていない労働者の心理的苦痛も増えてしまうというという発見です。

いじめている人、いじめられている人に対するハイリスク戦略も重要ですが、同時にいじめのない職場を作る心理社会的環境への介入をしたいものですね。


ストレスの定義って、されていないんです。

ストレスについて取り扱うときに、難しくなっちゃうのは、結局、

ストレスってなんですか?

の部分を一切解決しないままに進んでいることなんですよね。

簡単な導入は、ノビテクタレントマガジンに連載中の「ストレスを味方につける読むビタミン」を参考にしてください。


NIOSHのストレスモデル

以前お伝えしたストレスモデルのひとつがこのNIOSHのストレスモデルです。

厚労省のストレスチェック委員会や簡易職業性ストレス調査票57項目はこのモデルを参考にしています。

3つの領域に、重なる言葉がありますね。

① 仕事のストレス要因:職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目をいいます。

② 心身のストレス反応:心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目をいいます。

③ 周囲のサポート:職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目をいいます。


ストレス過程のヒューリスティックモデル

昨日、お伝えしたKohen先生の作ったモデルがこちらです。

Cohen先生はストレスを、個人が価値(values)と資源(resources)に照らして環境のイベントを解釈し、心理的(サイコ)、行動的(ソーシャル)、生物学的(バイオ)にそれに反応する過程(1996)(括弧内は心陽の3Dに私が対応させました)、あるいは環境からの要求(environmental demands)が、健康にとって有害な結果(outcomes)をもたらす包括的(comprehensive)な過程(1995)としてとらえることを提案しています。


ストレスが悪者だと仮定する場合にはストレスによる悪影響を受けることになり、いわゆるストレスイベントに囲まれていても別のpurposeを持ってイキイキ生きている場合には、むしろストレス環境にない人々以上に健康的なアウトカムを得られることは、繰り返しお伝えしています。


「ストレスだ=悪い環境に囲まれている」という感覚、あるいは認知が、心理的ディストレスや身体的イルネスを招くことになる過程は、数々の先行研究が証明しています。


ストレスレベルを測定することを全否定するつもりはありませんが、少なくとも現時点のストレスレベル以上にストレスへの認知が私たちの健康に直結することは疑いようがありません。


認知や情動は循環的な経路をたどるものなので、同じ回すならポジティブなスパイラルで昇華させるほうが、ネガティブな螺旋で奈落に迷い込むより「オトク」だということです。


環境は数々の刺激条件とそれに伴うストレス反応を私たちに与えますが、それがどう影響するかというのは個人と環境との関係に対する解釈で左右されるものです。


わかりやすく・・・と思いましたが、やはり正確さとわかりやすさは両立しづらいものです。 これをディストレスと考えずに、なんとか皆様にわかりやすく伝えることをpurposeにして、ポジティブに励みます。












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