小児の2回接種と筋注について[インフルエンザワクチン]
- Yoko Ishida
- 10月26日
- 読了時間: 4分
13歳未満は2回接種?!
小児のインフルエンザワクチン接種回数については、毎年ご説明しているとおりです。
生まれて初めて接種したシーズンに2回接種し、その後、毎年1回接種しているなら、科学的には「2回接種の大きな害はないが、メリットもない」というのが国際的なコンセンサスです。
初回2回は「免疫プライミング(初期免疫応答の強化)」のためですが、毎年の接種で抗原記憶が維持されるため、2回目の上乗せ効果はほとんどありません。
したがって、抗体価の上昇・持続は1回でも十分というのが世界の共通理解です。
小さなことですが、接種部位反応(発赤・腫脹など)は2回分でお金も手間も時間もかかります。
注射好きな子供は少ないので、連れてくるのはたいへんですよね。
極めてまれに、2回接種によるオーバーラップの免疫刺激による倦怠感・発熱の増強が報告されます。
そのため、当院では、小児の2回接種を推奨していません。 グローバルコンセンサスを説明したうえで、本人及び保護者の希望がある場合に2回接種をしております。
日本の制度の位置づけ
日本では厚労省が定める「インフルエンザ予防接種実施要領」により、13歳未満は2回接種(1~4週あけて) が標準とされています。
これは「ワクチンの抗体獲得効率を安定させる」ことを目的に、制度上の“年齢区分”として運用されています。
つまり、接種歴や免疫記憶を考慮せず、年齢で一律に2回、というルールです。
背景には次のような事情があります:
日本では季節性インフルエンザワクチンの抗原量が(米国などより)やや少ない。
小児科領域で「ブースト効果を安定化させたい」との配慮が強い。
医療体制的に、年齢で分けた方が現場が運用しやすい。
海外の一般的な考え方
一方で、多くの国では「初めてのシーズンだけ2回」 という考え方です。
具体的には:
米国 CDC:6か月~8歳の子どもで「過去に2回以上の接種歴がない」場合、そのシーズンは2回接種。それ以外は毎年1回。
英国 NHS:初回のみ2回(注射または経鼻型)。その後は1回。
オーストラリア:同様に初回2回、それ以降は1回。
🇯🇵 日本の現状は「皮下注」推奨
当院は筋注で接種しています。
科学的根拠と患者体験の両面から国際的には主流にあたり、合理的だからです。
日本のインフルエンザワクチン添付文書や厚労省の「インフルエンザ予防接種実施要領」では、「皮下接種」が標準的な方法として示されています。
これは制度的な経緯が大きく、科学的理由というよりも、日本のワクチン全体が「皮下注文化」で発展してきた名残です。
歴史的背景
戦後の予防接種法制定以降、日本ではワクチンの多くが皮下注用に設計・承認された。
皮下注で重篤な筋肉障害(特に破傷風ワクチン時代の懸念)を避ける安全志向が強かった。
一方で、ワクチン製剤自体は本来「筋注用設計」に近い抗原特性を持つ。
そのため「法的には皮下注」「実質的には筋注でも安全・有効」という二重構造が生じています。
🌍 グローバルスタンダード:筋注が標準
WHO、CDC、NHSいずれもインフルエンザワクチンの投与経路は“intramuscular(IM)”が原則。
推奨部位は三角筋(deltoid muscle)
幼児では大腿前外側部(anterolateral thigh)
皮下注は明確な禁忌ではないが、「免疫反応がやや低下する可能性がある」ため一般には採用されません。
💉 筋注の利点(科学的エビデンス)
1. 抗体価(免疫原性)
多くの研究で、筋注の方が抗体価上昇が有意に高いことが確認されています。
特にインフルエンザA(H3N2)株などで、皮下注との差が明確に出やすい。
理由は、筋肉組織の血流が豊富で、抗原提示細胞(APC)が多いことによる。
2. 局所反応・疼痛
皮下注では発赤・硬結・腫脹が多く、疼痛も持続しやすい。
筋注は針を深く刺す瞬間の刺激は強いが、局所炎症は少なく回復が早い。
患者の満足度調査でも筋注の方が高いという報告が多数あります。
3. 安全性
適切な部位(上腕三角筋中央外側)に打てば、神経損傷や血管穿刺のリスクはほぼゼロ。
WHOガイドラインでも「IM injection is safe and preferred route」と明記されています。
