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石田陽子 Yoko Ishida

スリープチェックの意義をエビデンスで検証

健康リスクと労働生産性損失


健康リスクの数が増えるほど、プレゼンティーイズムとアブセンティーイズムが増え、その影響は、プレゼンティーイズムのほうが大きいということがわかっています。


たいへん有名な研究による、こちらの図を見ると、11項目の健康リスクのうち、重複している数が多ければ多いほど、二次関数的にプレゼンティーイズムが高まっていくのがよくわかります。

ちなみにそもそも医療界隈のエビデンスはこの、二次関数的リスク増加が当てはまる部分が非常に多くて、いわば変曲点ともいうべき数値で、法定健康診断結果が、CからDになることが多いようです。(Cとか、Dとかはルールもエビデンスもないので、健診センターが独断と偏見で定めています。)


こちらで上げられている11の健康リスクは

  1.  栄養バランス不良

  2.  やせ・肥満

  3.  高コレステロール

  4.  運動不足

  5.  高ストレス

  6.  予防ケア未受診

  7.  生活不満足

  8.  高血圧

  9.  喫煙

  10.  糖尿病

  11.  飲酒

ですが、その変曲点は3~5項目くらいの重複にありそうです。


1つもリスクがない労働者に比べ、8項目のリスクを持つ労働者は20倍ものプレゼンティーイズムを損失し、たとえ同様に勤務しているように見えても、その実、リスクのない労働者の4分の3程度のパフォーマンスしか出せていず、その上、週に2.5時間以上も休むという勤怠の乱れによる損失(アブセンティーイズム)があるというBolesらの研究です。

また、日本の事業者にとってコスト(プレゼンティーイズム+入院医療費+外来医療費)が大きい10の健康問題としては、以下が報告されています。

1位 精神・行動異常 2位 筋骨格系疾患 3位 眼の異常 4位 消化器疾患 5位 神経疾患 6位 循環器疾患 7位 呼吸器疾患 8位 泌尿器疾患 9位 悪性疾患 10位 皮膚疾患


Nagata T., et al., "Total Health-related costs due to absenteeism, presenteeism, and medical and pharmaceutical expenses in Japanese Employers“.  JOEM. 2018. これらの知見に基づき、法定健診やストレスチェックの結果を用いて、コストを最小にし、従業員のパフォーマンスを最大化するヘルスプロモーションプログラムを実行していくことが健康経営の1つの方法ですが、ここには「睡眠」についての問題が抜けています。 睡眠こそが全従業員に関係する健康を左右する最大の因子であり、睡眠に注目する健康経営が今、望まれています。

睡眠のプレゼンティーイズム 睡眠衛生(スリープヘルス)に関わる日本の経済損失は、年間15兆円とも言われますが、そのほとんどが、生産性コストであることには注目しなければなりません。 いわゆるプレゼンティーイズムコストに当たるものが、4分の3以上の76%を占めているのです。

覚醒時間が長いだけ、睡眠負債を積み上げているだけで、非社会的な酩酊状態と同じようなひどい認知機能、作業効率になることは、すでにお伝えしたとおりです。 いわゆるハイパフォーマーの方の場合、脳の報酬系が賦活化してしまい、ナチュラルドーピングのような状態になって、「俺って、平日は睡眠時間4時間のほうが、集中できるんだよね?」的なことを発言しますが、残念ながら、客観的なテストをしてみると、本来のパフォーマンスレベルにはまったく達していないことがよくわかります。 以前のコラムにも書きましたが、それって、「俺、酔ってないよ?」って言いながら周囲に迷惑をかけている酔っ払いと同じなんです・・・ The Economic Burden of Insomnia: Direct and Indirect Costs for Individuals with Insomnia Syndrome, Insomnia Symptoms, and Good Sleepers. Daley et al, 2009   採用時とストレスチェックや法定健診と同じ年に一度のスリープチェックをおすすめします 弊社クライアント企業では、法定健診時の問診で「睡眠により充分な休養が取れていない」と答えた従業員が51.2%に上りました。 ストレスチェックの睡眠に関する項目【B-29 よく眠れない】への回答を分析すると、全国の平均より不眠症状の自覚は少ない傾向のある企業です。

多くの調査によると、日本人の労働者の不眠症状の自覚は40%程度であるようです。 AISを用いた日本人対象の調査では2014年のMSDによる7,827名の調査では38.1%、2011年サノフィによる3,282人の調査では36.0%、同じく2011年のファイザーによる4,000人の調査では42.2%が6点以上で不眠の疑いありでした。 2019年2月27日にフジ医療器が発表した5,276名(労働者だけではありません)を対象にした「第6回 睡眠に関する調査」によると、睡眠への不満がある人は 93.7%、そのうち、不満の内容としては「寝ても疲れがとれない」が最も多く19.2%で、寝付きが悪いは4位で11.2%でした。 2019年3月にO:SLEEP(オースリープ)が発表した、企業の会社員の睡眠負債、睡眠時間の不足の実態調査をアンケートなどの主観データではなく、アプリケーションから取得した客観的睡眠データを用いた2,124名の調査によると、睡眠への不満がある人は全体の  93.7%、健康的な睡眠時間と言われる7時間のラインに達していない睡眠負債者は全体の65%、睡眠時間の不足、質の悪化の主な課題感は中途覚醒(約30%)や倦怠感(約25%)が大半を占め、寝付きが悪いは10%未満と少数派でした。 睡眠と生産性に関連を自覚する人は85%、睡眠とメンタルヘルスに関連を自覚する人は87%でした。 まさに不眠症は国民病の様相です。 いくら喫煙率の高い事業場でもなかなか51.2%の喫煙率はないでしょうし、残りの48.8%の従業員の睡眠もおそらく大いに改善の余地があります。 減量の必要がない労働者、禁煙の必要のない労働者はいても、睡眠の必要がない労働者はいません。 そう考えると、事業場の健康に介入する際、睡眠を扱う意義がわかります。

不眠の自覚は離職リスク 勤務中の従業員へのスリープチェックが根付いていれば、採用時の健診にスリープチェックを追加するのも非常に自然です。採用される新入社員にとっては従業員の健康にしっかりと意識を持つ企業だという印象を与えますし、睡眠の問題がもしあっても、採用時から解決策を講じることで、パフォーマンスを最大化できます。 不眠症の自覚を解消する、科学的エビデンスで効果が認められている、有害な副作用や侵襲のない最適な方法がオンライン睡眠認知行動療法です。もちろんお勧めはABCスリープです。 不眠による認知力の低下が存在する状態で、科学的エビデンスに基づかない対面セミナーを行なっていては、いつまで経っても人財は成長できません。

ヘルシンキの6,042人の被雇用者への調査によると、睡眠時間と不眠症状の自覚は図のような分布でした。面白いのは9時間以上眠っている人にも不眠症状を訴える人が19.4%もいることですね。 しかし、弊社の調査によると、9時間以上眠っている日本の労働者はほぼいないので、あまり気にしなくていいかもしれません。 さらに重要なのは次の図のように、睡眠時間によって明らかに求職リスクに差が出ること、また睡眠時間だけでなく、不眠症状の自覚の有無によっても、休職リスクが大いに高まることがわかります。 前述のように、9時間以上眠っていても不眠症状を自覚する人はいますが、やはり、5時間以下の方が圧倒的に不眠症状を自覚する機会が多いです。 不眠症状というのは、単純に眠れないというだけではなく、自分のスリープライフに満足していない、納得してない、課題を感じる、という状況です。 不眠症状の有無は、もちろん、スリープチェックで検出できます。

P Haaramo., et al., " The joint association of sleep duration and insomnia symptoms with disability retirement - a longitudinal, register-linked study". Scand J Work Environ Health. 2012. T Lallukka., et al., "Joint associations of sleep duration and insomnia symptoms with subsequent sickness absence: The Helsinki Health Study". Scandinavian Journal of Public Health. 2013. 睡眠時間と健康関連リスクのカーブはU字 皆さんは睡眠時間と健康、あるいは睡眠時間とパフォーマンスのU字の関係をすでにご存じだと思います。次の図は処理能力低下リスクと睡眠時間の関係を示していますが、処理能力低下リスクの部分を死亡危険率、寿命の逆数、不健康(SRH)、プレゼンティーイズム、アブセンティーイズム、離職率、労働災害率、事故率、医療費、精神疾患罹患、がん(一部)、免疫異常、生活習慣病、体重、胴回り、体脂肪などなどにしても、同様にこの7~8時間の最適な睡眠時間を最低値(つまり最高に健康)にするU字型の関係がみられます。前述のように自覚的不眠観もこのカーブに乗ります。

さらっと言ってしまいましたが、そうなんです、プレゼンティーイズム、アブセンティーイズム、離職率、労働災害率、事故率という労働生産性コストについてもこの関係がしっかりと当てはまることがわかっています。 今回とりあげるこれらの研究の面白いところはさらに、上の図で示したように睡眠時間だけでなく、不眠の自覚についても解析していることです。 睡眠時間と退職との関係は同様にU字シェイプではあるのですが、自覚的不眠症状のない群では統計学的に有意な差ではないことがわかります。 一方、自覚的不眠症状のある群では理想的とされる6~8時間の睡眠であっても、あきらかにリスクが高いことがわかります。 つまり、睡眠時間以上の離職のリスクファクターは自覚的不眠観であることが示唆されます。 そして、この離職と同じ関係性がアブセンティーイズムでも示され、その関係の強さは1~3日の短い欠勤、4~14日の中期欠勤、15日以上の長期欠勤と、欠勤の長さが増えるにつれて強くなっていくことがわかりました。 睡眠時間や自覚的不眠観がもたらすアブセンティーイズムや離職との関係が明らかになっているのに、採用時に自覚的不眠観を尋ねない理由があるでしょうか? 採用時に尋ねた自覚的不眠観を維持するのは労働者にとっての自己保健義務であり、尋ねて記録しておくだけで、企業はしっかりと安全衛生配慮義務を果たしている証拠にもなります。 もちろん、改善策を提供できれば、採用希望者は増えるでしょうね。 睡眠障害のない睡眠不足はパフォーマンスに有意には影響しない


米国の労働者のうち、なんらかの睡眠障害を抱える割合は36.7%、これは日本の多くの研究結果とも似た数値です。 睡眠障害の内訳は睡眠時無呼吸症候群が67.3%、不眠症が29.7%、むずむず脚症候群が29.4%です。 足して100%にならないのは合併している人が多いからですね。 L. M. SWANSON., et al., "Sleep disorders and work performance: findings from the 2008 National Sleep Foundation Sleep in America poll". J Sleep Res. 2011.

この研究でも前段に紹介した結果同様、睡眠障害がある人群のみで有意なプレゼンティーイズムの増加(・・・就業中の居眠り、集中力低下、コミュニケーション力低下、ミスの増加、事故の増加、やる気の低下、会話の低下、倦怠感増加、生産性低下、業務達成能力低下)、アブセンティーイズムの増加が見られました。 この研究ではあくまで自記式質問紙による結果をICSD-2に照らすかたちで評価をしているので、より正確な睡眠障害の分類ができた場合には、この関係はさらに強まると感じられます。 この研究の最後はこう締めくくられています。 アブセンティーイズムを減らし、生産性を高め、労災事故を起こさないための取り組みは経営者にとってすこぶる有効であるばかりでなく、労働者にとっても生活の質や働き方を大きく改善するメリットがある。睡眠障害に対する教育や診断、治療などの資源が増えていくことで、経営者、労働者、そして私たちの社会全体に大いなる利益がある。 スリープチェック 睡眠と生産性の関係、すなわち睡眠の質や量が向上すれば、生産性があがることには枚挙にいとまがないエビデンスが蓄積されています。 特に近年の研究によれば、量以上に質が重要であり、また、自覚的睡眠感と現実の睡眠のギャップについての知見が揃ってきています。 睡眠医療の専門家は世界的に不足しており、特に日本ではあまりに少ないのが現状で、産業保健分野との連携も充実しているとは言えません。

ストレスチェックのエッセンスと最新知見を網羅した心陽オリジナルスリープチェックは、どなたでも簡単にご利用いただけます。 弊社では最先端の知見を踏まえた上で、スリープチェック、ABCスリープのほか、職域の睡眠プログラムのBPOを請け負っております。 採用時から適切な睡眠障害への治療を施せば、従業員の生産性が担保できる上、ロイヤリティーの獲得にもつながります。 睡眠障害には適切な対処法があるので、けっして魔女狩りにはなりません。自信をもって取り組んで下さい。

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