ブラック産業医シリーズ

2018年9月に5回シリーズでお届けし、全く反響のなかったコラムです(笑)

産業医や産業保健制度については、これまで一切話題になってないわけではなく、馬鹿らしいから廃止しろ、どうせやるなら医者じゃなくて公衆衛生の専門家がやれ、いや、医者がやるなら医療行為禁止をやめろ、など、有意義な議論もあったのですが、み~んな界隈特有の利権によって、埋もれてきました。

このたび、河野大臣の産業医の常駐廃止発言で、ヘルステックの普及による効率化が中央で論じられはじめ、オンライン診療や服薬指導の恒久化、特定保健指導や産業医による面談のオンライン化が進みそうな雰囲気は、大変喜ばしいものです。

ブラック産業医(1)流行語大賞は難しそう


クビ切りで会社に加担? 従業員のメンタル診断 問われる産業医 ブラック産業医という言葉が最初に流行ったのは、2017年の4月のようですね。 2018年の9月の記事や弁護士の主張についてのおかしなところを取り上げていきますが、そもそも「ブラック産業医」は話題にするほどの価値はない存在です。ブラック企業であれば、その企業に関連する社会があり、たくさんの人々が巻き込まれるリスクがあるのですが、ブラック産業医はさほど社会と関連していないので、見つけたら駆除という方法で充分絶滅するように思います。 ブラック産業医の誕生

2017年4月13日、企業と組んで、不当な解雇に手を貸す「ブラック産業医」が問題になっているとして、労働問題に取り組む北神英典弁護士(左)と川岸卓哉弁護士が厚生労働省に申し入れを行ったそうです。これが事実上のブラック産業医の誕生と言えそうです。 産業医の仕事の1つに、職場復帰の支援があるが、従業員の復職を認めず、休職期間満了で退職に追い込む「クビ切りビジネス」に手を染める者もいるという。 まず、「産業医の仕事」はおろか、事業主が産業医にやらせるべき業務(行為というべき?)は仕事として定義されていませんので、産業医という仕事とか、産業医業務とかいう表現自体、微妙なものです。

50人以上の従業員を雇用する職場単位で、事業者は産業医を「選任」しなければなりませんが、かならずしも「対価を支払う」とは決まっていません。

まず、この点が誤解されています。

産業医を「雇う」、「雇用する」という表現ならば、産業医の仕事として提供する労務が明確になっている必要がありますが、選任して医学的知見を踏まえた意見を得られる環境を、事業者に義務付けているだけです。

労働安全衛生法

産業医の選任は労働安全衛生法に明文化されています。誰でも全文を確認できます、当然ですね、法律ですから。

この法律を軽く読んでみるとすぐわかるのですが、ほとんどが事業者に対して何かを義務づけているもので、産業医の義務や権利、職務については、一切、記載されていません。 産業医として選出される人の要件については記載がありますが、「仕事」や「職務」についてはありません。 試しに法令全体を検索してみると、「産業医」は全体で10個しかありません。 それに対して「事業者」は261個ですから「産業医」に期待される役割も経営者のそれの3.8%くらいと考えていいんじゃないでしょうか? ほかに、「(労働)(衛生)コンサルタント」という言葉が89回登場しますが、この資格に関しては、下記の通り、労務と報酬を代償することが法に明記されていますから、職務であるとわかります。 第八十一条 労働安全コンサルタントは、労働安全コンサルタントの名称を用いて、他人の求めに応じ報酬を得て、労働者の安全の水準の向上を図るため、事業場の安全についての診断及びこれに基づく指導を行なうことを業とする。2 労働衛生コンサルタントは、労働衛生コンサルタントの名称を用いて、他人の求めに応じ報酬を得て、労働者の衛生の水準の向上を図るため、事業場の衛生についての診断及びこれに基づく指導を行なうことを業とする。 第八〇条には、厚生労働大臣が事業者に対してコンサルタントの意見を聞くよう勧奨できるとも記載されています。 (追記、2019年の法改正により産業医の勧告の取り扱いを含む、産業医の権限が強化されました)

一方で嘱託産業医の報酬で最も多いのがゼロ円(無償)で、概ね産業医が機能していると企業に評価される閾値は月額112,000円程度、全体の10%未満です。 つまり、9割以上の企業で産業医は無償、または112,000円未満の月額報酬で機能していません。無償の次に多いのは1~2万円で5万円未満が大半で、たいしてお金をもらえるわけではないけれど何もしなくていいし、なにかのときにはクリニックのお客さんになってもらえるかもしれないという感じで、企業も医者もさほど深く考えずに産業医選任をしているパターンがほとんどです。

ブラック産業医は従業員と企業の利益が相反する状況で、従業員ではなく企業の肩を持って従業員を苦しめる、たとえば企業の不当解雇を後押しするような産業医を言うようなのですが、こんなふうに誰かのために一生懸命、しかも辛い仕事に奮闘してくれる産業医はさほどいないんじゃないかな~とも思います。


そもそも社員の退職は企業にとっては大きなコストです。もし、想定通りの産業医がいるとして、その産業医にコストを払い、コストである社員の退職勧奨を請け負わせているとしたら、自分の経営判断の誤りによって多くのコストを生んでしまっているダメダメ経営者でしかなかったということですよね。

そもそもコストをかけて不要な採用をした上、コストをかけて不要に育成し、今またコストをかけて退職をさせようとしているわけです。まともに働いている社員からしたら、自分たちの必死の労働でプールされている企業の資本がそんなくだらない使い道で無駄になっていると思うと残念でなりません。

もし本当にそのような「やめさせ屋」に需要があるのだとして、それを産業医が請け負っているのなら、その産業医は産業医の他、「やめさせ屋」としても働いているわけで、それに報酬をもらって機能しているのならそれはそれでよいのではないでしょうか。 私自身は産業医制度の課題は一にも二にも産業医が機能していないことと考えています。同時に、こんなにも産業医が機能していないのにこうしてしっかり経済活動が営まれている現実を見れば、産業医制度なんていらないってことだけが明確なので、なにか法的な措置でブラック産業医を根絶やしにしたいと考えるなら、産業医制度そのものをなくすのが最も効率的な解決策だと考えます。この方法なら最も無駄なコストを節約できます。 弁護士たちはこのあと、ブラック産業医の動きを封じるための策として新しい法律を提言しますが、その提言については次回、検討しましょう。

ブラック産業医(2)産業医の「診断」?

産業医のくだす診断名の意義

「『ブラック産業医が復職阻止、クビ切りビジネスをしている』弁護士が警鐘」では、組織内のパワハラやいじめに悩まされ、うつ病を発症し、休職した社員が、主治医の復職可の診断書を携えて復職を申し出たのに、復職を否とする意見書を出した産業医をブラック産業医としています。

会社はその勧告を受け入れて復職を認めず、休職期間満了で退職扱いされたという事例で、このブラック産業医は精神科専門医でもないのに、30分の面談を1回しただけで、主治医への問い合わせは一度もなく、心理検査もしないで、「統合失調症」「混合性人格障害」などの病名をつけたそうです。

もう一度、安全衛生法に戻ります。

産業医に関係するのは主にこの部分です。

(産業医等)

第十三条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。

2 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない。

3 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。

4 事業者は、前項の勧告を受けたときは、これを尊重しなければならない。

傷病休職後の復職という労働者の健康管理に関連しそうな事項において、事業主が医学に関する知識を活かした助言を求められた産業医がこれに応じて必要な勧告をする場合、事業主はこれを尊重しなければなりませんが、それだけです。

産業医が従業員に、ニックネーム的に病名をつけたとしても、医療行為はできないので診断ではありませんが、医者が病名をつけるとどうしても診断っぽくなっちゃうので、立場上、私ならやりません。自分のルール違反になりかねませんからね。

医療機関しか医療という業務を提供できないルールです。医師は医療機関に紐付けられてはじめて、医療行為を行なえます。産業医は医療行為を禁じられていますので、注射をしたらアウトですが、「病名をつける」という日常的に非医師にも許されている言動ならば、「血圧測定」と同じように、医療行為ではないと言い張れるのですが、誤解を招くようなことはしないほうがいいでしょうね。


医療機関に所属する医師が医療機関の業務として行なう場合には、職場を療養の提供の場とすることが認められていて、出張健診や出張ワクチン接種、オンライン診療などは職場でも可能なので、ご安心ください。


とはいえ、医者はそんなに器用でないので、慣れ親しんだ病名を産業医業務の円滑化に整理目的で使用しているのだと、許してあげる企業は心が広いですね。

そもそも医師の職務は病名をつけることではなく、皆さんの素敵な人生に伴走することです。「病を観ずして人を観よ」うとしています。病名は医療ではなく、保険診療請求業務にのみ必須です。

私はこの病名至上主義のシステムに大いに異論があり、このしくみが病人を量産していると考えていますが、制度なので従わざるを得ません。要は病名と医療行為がセットになっていて、その人が誰であるかではなく、病名が何であるかという根拠で医療費の支払が行なわれています。正直言って、病を観ずして人を観たいまともな医師たちはこのルールに戸惑ってます。

病名には必ずしも「当たり」や「正解」があるものでもないですし、たとえば高血圧や高熱がないと判断された人に血圧や体温がないわけではないので、患者さんの生活にとって必要な医療が届くように診断名を塩梅することもあります。

医療の目的は人々がより豊かな人生を楽しむことであって、病名をつけることではありません。苦痛から解放されて、快適に最大限のパフォーマンスを発揮して、存分に社会のために働くために医者にアドバイスを求めるのは、この医者が産業医でも主治医でも同じことでしょう。

よって、この産業医がなんらかの整理のために病名をつけたとしても、あだ名をつけた程度の価値しかありません。

腋窩体温計で測った体温が35度6分であった従業員に、産業医がそれを根拠に「高熱のため就業停止」と言っているのと同じなので、納得できなければ、

「え? なんで5度台なのに高熱なんすか?」って訊けばいいですよね。

もし、この産業医が、

腋窩体温計の感度は43%、顔も真っ赤でぐったりしていて明らかに触ると熱い。直近で体温を測った従業員20人が全員連続して35度6分だったことから、体温計の故障とこの従業員の発熱を主張する」と明快に答えたなら自分で従業員に触って確かめてみればいいし、それでも高熱はなさそうで、従業員本人も就業の継続を望んでいて、実際に期待する労務の提供が充分にできるのなら、休ませる必要はありません。

事業主のつとめである「産業医の意見の尊重」は充分にしたことを記録して、その上で体温計も壊れていないし、従業員も休む必要がないのなら、考えるべきはこの産業医が壊れているということで、取り替えるのは従業員でも体温計でもなく、産業医、という判断を事業者がすればいいだけのことです。

従業員に就業停止を命じられるのは事業者だけです。産業医の意見は企業の従業員にたいして何の効力も持ちません。産業医が従業員の肩を持ったとしても、事業者の肩を持ったとしても、それはそれだけのことであって、事業者も従業員も、それに従う筋合いはありません。

前回「ブラック産業医(1)」の冒頭で、ブラック産業医を取り上げる価値がないと述べましたが、それはこういう意味です。産業医の機能不全、機能不良だ、機能崩壊時は、意見に従う必要がないどころか取り替えましょう。産業医は従業員と違って取り替え可能です。企業がブラック産業医に振り回されることは構造的にあり得ません。

大切なのはそういうときに産業医との契約をすぐに切れるようにしておくことです。産業医の業務とその目的を明記して、依頼を無視した業務態度の場合は取り替えることです。もちろん選任義務はありますが、明らかに産業医サイドの事由によるテンポラリーな不在はしっかり説明すれば罰則の対象にはなりえません。あくまで従業員のよりよい健康管理が選任の目的なのですから。

もし、産業医が従業員を苦しめるような動きをしているように見えたとしたら、やはり黒幕は事業者と考えるしかありません。それであれば、弁護士たちが提案しているような産業医に対する規制はあまり物事を解決しないでしょう。

次回はここでブラック産業医とされている事例から、産業医の専門性、トレーニングをした診療科の影響についてお話しします。

ブラック産業医(3)産業医の専門診療科

クビ切りで会社に加担? 従業員のメンタル診断 問われる産業医 にはこんなコメントがありました。 精神科領域が専門ではない産業医がその診断を下すことも多いようで、この点も批判されていますが、日本の医師免許は、専門にかかわらず、すべての診療科の診療行為をおこなえることになっていますから、仕方がない面があります。 医師の専門診療科に関しては産業医だけではなく、よく非医師の経営者などとも話題に出るところで、「医師免許取得時には進路は決定していない」というシステムは、なかなか意外に映るようです。 一方で、専門診療科って何ですか? という定義も相当に曖昧なモノです。 「元脳外科医」などと聴いて、「あ~、なんか最前線っぽい、頭好さそう、超かっこいい~~~」と思うかもしれませんが、脳外科医局に在籍していたのは半年間で、執刀手術症例はゼロ件どころか主治医にさえなった経験なし、という場合もあります。 それでも脳外科の医局員であったことがある、というのが脳外科医の定義ならば、特に経歴詐称はしていないわけです。 「専門医」という言葉も、非医療者からはその分野の専門性、すなわち技術と知識が著しく高い信頼できる医師、というイメージを持たれているようです。 実際の専門医は技術や知識の最低レベルはある程度担保されますが、運転免許や調理師免許を持っていれば運転や料理がうまいとは限らないのと同様、道路交通法を守ったり、食材の毒の処理を行なったりという安全を守るためのルールを知っているというレベルとベクトルにおける専門性です。 特に日本の専門医制度はそのほとんどが専従性を強調するモノであり、いろんなことができてしまう器用なジェネラリストは専門医として想定されていません。 先日MGHで心臓移植の麻酔を毎日のようにかけている麻酔科医と話しましたが、彼女は麻酔科専門医でも心臓血管麻酔専門医でもありません。日本の心臓血管麻酔専門医に名を連ねる偉い先生方が医長や部長を務める病院では、年間に心臓の手術が一件もない病院もあります。 何年間かかけて、まともな教育病院でトレーニングをして、専門医が取れるくらいのレベルになったら〇〇科の医者です、と名乗ってもあまり恥ずかしくはないのかもしれません。専門医は名人を担保するものは決してありませんが、一応、筆記試験、実技試験、面接がある場合がほとんどですから、運転免許を持っている人が持っていない人よりは道路交通法をわかっているレベルは期待できます。ただし、栄養士や調理師免許を持っているから料理がうまいと同様の勘違いのもとになりやすいので注意が必要です。 一方で認定産業医というのは、特にセレクションはなくて、有料セミナーのスタンプラリーに近いもので、一定額を支払えば全員もらえます。専門医と全然異なるかというと似たようなもんなんですが、専門医のほうが時間的なコストはかかり、一応テストがあります。 精神科の産業医 クビ切りで会社に加担? 従業員のメンタル診断 問われる産業医『ブラック産業医が復職阻止、クビ切りビジネスをしている』弁護士が警鐘では、ブラック産業医が精神科専門医ではないことが問題視されています。

エントリーに必要な資格として「精神科専門医」が明記されているジョブに詐称で採用されたのならともかく、間違いなく「産業医」資格はあるはずですよね?

医師の診断は診療計画の整理上の意義が主で、特に15年以上のキャリアの医師の場合は、ほとんど診断スキルのトレーニングも教育課程では行なっていません。産業医に求められている医師の医学的な知識は診断の確からしさを担保するモノではありませんし、スペックとしては非医師と同じ人間なので、皮膚も透過できないし血中濃度も肉眼では知り得ません。 世の中には診断基準というものがありますが、診断基準をすべて満たす典型例しかないのなら、それこそ診断は人間がやるよりAIがやる精度のほうが高いに決まっています。 医師の診断の正しさを議論するほどくだらないことはありません。 米国精神医学会によるDSM-Ⅳによる統合失調症の診断基準は表に示すとおりで、Dのうつ病、躁病の合併を除外するときに心理質問紙を使ったほうがいいのではないか? ということかもしれませんが、同じく米国精神医学会によるDSM-Ⅳのうつ病の診断基準では、特に心理質問紙の使用が求められても勧められてもいません。 血圧を測らないで高血圧というとか、体温を測らないで高熱というとかと同じ論調で心理質問紙を持ち出すのは、大分違います。

Yahooニュースには精神科の産業医が4.7%であることが問題であるように書かれていましたが、従業員の健康管理は精神科領域だけに必要なのではありませんし、出典を見ると産業医だけの調査でもありません。

2006年の医師全体の調査で精神科医は4.7%、心療内科医は0.3%ですから、極端に精神科医が少ないわけではありません。 プレゼンティーイズムもアブセンティーイズムも最大の原因は筋骨格系疼痛で、むろん心理的なアプローチも必要な領域ではありますが、精神科領域より整形外科医やペインクリニシャンのほうが治療するなら強いです。

昨年度の業務上疾病発生状況を疾病別に見てみると、負傷に起因する疾病が全体の71.4%を占め、深い心理的負荷を伴う業務による精神障害は0.5%です。

公衆衛生的視点では、負傷リスクをミニマムにする環境改善が優先すると考えますが、精神科医率4.7%は、「何」に対して少ないのでしょうか。

がんと就業の両立も重要ですし、法定健診結果であきらかになるのは主に生活習慣病とそれによるリスクです。 精神科臨床に精通していれば、目の前で倒れた社員の蘇生をしなくてもいいですか? そもそも例示のブラック産業医が、精神科専門医だったら、統合失調症という病名を受け入れるのでしょうか。 難しい心理テストは得意でも心電図が読めない精神科医はたくさんいますし、それ自体は問題ではありません。

重要なのは今、この従業員に必要な診療科は何かということであって、その判断ができれば本人が何科出身でもいいんです。 医学部を卒業するまで、現在のカリキュラムでは研修医修了まで診療科を決めないのは、医者になったら何科であっても、医療を行なう上で他科との連携が非常に重要だからです。


8年間の間に同級生や先輩後輩と多くのネットワークを創り、キャピタルで公衆衛生を向上することが医療界としての目的だからだと私は信じています。

何度もお伝えしていますが、産業医に必要な専門領域は産業保健です。その点では産業医大を卒業し、産業医コースで最初からエリート産業医になるべくトレーニングを積んだ産業医が最も適任と言えます。

産業医は企業サイドで、各専門診療科との連携の際、通訳やガイドとしての役割を果たすべきものであり、医療の素人である企業には医療用語や医学的な考え方、エビデンス等をわかりやすい言葉で示し、ビジネスの素人である主治医や専門診療科医には、当該従業員の業務や自社についての情報を医者でもわかる言葉で伝えながら、産業保健に必要な情報を引き出すことが職務です。

同時に主治医の職務はそこから診療に必要な情報を引っ張ることであり、企業の事業者や人事労務担当者の職務はそれを社員の健康管理やブレない経営判断につなげることです。

産業医が企業寄りなのは企業が雇っている翻訳家だからで、従業員は主治医に翻訳してもらえばいいんです。米国には企業が産業医を雇用する法律はありませんが、企業が産業医を自発的に雇っているケースは多く、一般従業員も持病の専門科としての主治医の他、個人のための産業医を主治医にすることができ、さらに双方が話し合う上でコンサルタントして機能する、どちらにも中立な立場の産業医もいます。日本でも心陽のように産業保健に強く、医学知識もあるコンサルを従業員個人として依頼できます。

せっかく産業医がいるのなら、DtoDでコメントを求めるのが最も手っ取り早く、素人の伝言ゲームで生じうる誤解のリスクも避けられます。 できるだけ各診療科の特性に精通していて、ベストな相談先を最短距離で探し当てる産業医が優れているので、振り分けが得意な総合診療科出身者や他科と連携する放射線科医、病理診断科医、麻酔科医などがよいかもしれません。 中でも麻酔科医は標的臓器を持たないシステミックな診療科であり、疾患臓器ではなく正常機能や残存機能を用いてオペレーション(手術)をマネジメント(管理)してストレス(侵襲)をコントロール(制御)するのが生業ですし、点滴やブロックなどの手技もうまく、蘇生も得意ですから、複雑な心理質問紙はまず扱えませんが、なかなか「買い」だと自負しています。

つまり産業医の診療科はなんでもよく、産業保健がわかっていて、自社のことがわかっていて、いろんな科の友達がいる医者がベストです。 この条件のうち、企業サイドで努力できるのは、しっかりと自社について、当該従業員の業務について、産業医に理解させることですね。 産業医選びの基本は「産業保健の知識」と「いろんな科の友達」が多いことですね。

ブラック産業医(4)法律を足す or 制度廃止

まともな産業医を社会で育てる

あらゆる法律はその成立時の啓発意義が大きく、どんな良法であっても形骸化します。

新しい法律を作って、社会が産業医をよりよいものに育ててくれるとしたら、それは素晴らしいことですし、そのような提言をしてくれる法曹界の方々に心からお礼を言いたいです。


そもそも産業医に限らず、医師の診断というのはなんら法的拘束力を持ちません。

もし医師の誤診が法で裁かれるようなことがあれば、医師は診療に当たれません。

むろん医療過誤と誤診は全く概念が異なります。

前述の体温の例でいえば、たとえ体温計が壊れていても、正しく高熱を診断しなければならない一方で、これを法律で定めようとすると、体温計で何度以上を高熱とするという記載しかありえません。下手をすると体温計が壊れていたり、体温計が手元になかったりという理由で、明らかな高熱を法的に高熱と診断できずに、解熱という簡単な治療が違法になってしまうリスクがあります。

もし、医師の細かい判断や診断に、それこそ明文化された法律があてはめられたら、医師の葛藤はずいぶん減るでしょう。 そんなふうになんらかのルールで分類していくことで診療が可能なものなら、それこそAIにすべてを任せてしまえば、医師不足も医師の過重労働も医療不信も医療費高騰もブラック産業医も、みーんなまとめて解決してしまうのだから、むしろ可能だという見込みがあるのなら、国をあげて開発するべきです。


医師は全員、この世から病気も患者もいなくなればいいと思っていますから、病名をこしらえて病人を増やすのではなく、医療を完全に機械化して医師も病人もこの世からなくしてしまえばいいんです。

なくせなくても機械が変わってくれる業務が拡大することは歓迎されます。医師は機械にはできない、医師にしかできない業務にどんどん集中することができ、医療の質は(医師の質も)確実に上がるでしょう。

さて、それはどうにも難しいと皆さんも思っていらして、私もそう思います。生きている人のあ