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ブラック産業医シリーズ

2018年9月に5回シリーズでお届けし、全く反響のなかったコラムです(笑)

産業医や産業保健制度については、これまで一切話題になってないわけではなく、馬鹿らしいから廃止しろ、どうせやるなら医者じゃなくて公衆衛生の専門家がやれ、いや、医者がやるなら医療行為禁止をやめろ、など、有意義な議論もあったのですが、み~んな界隈特有の利権によって、埋もれてきました。

このたび、河野大臣の産業医の常駐廃止発言で、ヘルステックの普及による効率化が中央で論じられはじめ、オンライン診療や服薬指導の恒久化、特定保健指導や産業医による面談のオンライン化が進みそうな雰囲気は、大変喜ばしいものです。

ブラック産業医(1)流行語大賞は難しそう


クビ切りで会社に加担? 従業員のメンタル診断 問われる産業医 ブラック産業医という言葉が最初に流行ったのは、2017年の4月のようですね。 2018年の9月の記事や弁護士の主張についてのおかしなところを取り上げていきますが、そもそも「ブラック産業医」は話題にするほどの価値はない存在です。ブラック企業であれば、その企業に関連する社会があり、たくさんの人々が巻き込まれるリスクがあるのですが、ブラック産業医はさほど社会と関連していないので、見つけたら駆除という方法で充分絶滅するように思います。 ブラック産業医の誕生

2017年4月13日、企業と組んで、不当な解雇に手を貸す「ブラック産業医」が問題になっているとして、労働問題に取り組む北神英典弁護士(左)と川岸卓哉弁護士が厚生労働省に申し入れを行ったそうです。これが事実上のブラック産業医の誕生と言えそうです。 産業医の仕事の1つに、職場復帰の支援があるが、従業員の復職を認めず、休職期間満了で退職に追い込む「クビ切りビジネス」に手を染める者もいるという。 まず、「産業医の仕事」はおろか、事業主が産業医にやらせるべき業務(行為というべき?)は仕事として定義されていませんので、産業医という仕事とか、産業医業務とかいう表現自体、微妙なものです。

50人以上の従業員を雇用する職場単位で、事業者は産業医を「選任」しなければなりませんが、かならずしも「対価を支払う」とは決まっていません。

まず、この点が誤解されています。

産業医を「雇う」、「雇用する」という表現ならば、産業医の仕事として提供する労務が明確になっている必要がありますが、選任して医学的知見を踏まえた意見を得られる環境を、事業者に義務付けているだけです。

労働安全衛生法

産業医の選任は労働安全衛生法に明文化されています。誰でも全文を確認できます、当然ですね、法律ですから。

この法律を軽く読んでみるとすぐわかるのですが、ほとんどが事業者に対して何かを義務づけているもので、産業医の義務や権利、職務については、一切、記載されていません。 産業医として選出される人の要件については記載がありますが、「仕事」や「職務」についてはありません。 試しに法令全体を検索してみると、「産業医」は全体で10個しかありません。 それに対して「事業者」は261個ですから「産業医」に期待される役割も経営者のそれの3.8%くらいと考えていいんじゃないでしょうか? ほかに、「(労働)(衛生)コンサルタント」という言葉が89回登場しますが、この資格に関しては、下記の通り、労務と報酬を代償することが法に明記されていますから、職務であるとわかります。 第八十一条 労働安全コンサルタントは、労働安全コンサルタントの名称を用いて、他人の求めに応じ報酬を得て、労働者の安全の水準の向上を図るため、事業場の安全についての診断及びこれに基づく指導を行なうことを業とする。2 労働衛生コンサルタントは、労働衛生コンサルタントの名称を用いて、他人の求めに応じ報酬を得て、労働者の衛生の水準の向上を図るため、事業場の衛生についての診断及びこれに基づく指導を行なうことを業とする。 第八〇条には、厚生労働大臣が事業者に対してコンサルタントの意見を聞くよう勧奨できるとも記載されています。 (追記、2019年の法改正により産業医の勧告の取り扱いを含む、産業医の権限が強化されました)

一方で嘱託産業医の報酬で最も多いのがゼロ円(無償)で、概ね産業医が機能していると企業に評価される閾値は月額112,000円程度、全体の10%未満です。 つまり、9割以上の企業で産業医は無償、または112,000円未満の月額報酬で機能していません。無償の次に多いのは1~2万円で5万円未満が大半で、たいしてお金をもらえるわけではないけれど何もしなくていいし、なにかのときにはクリニックのお客さんになってもらえるかもしれないという感じで、企業も医者もさほど深く考えずに産業医選任をしているパターンがほとんどです。

ブラック産業医は従業員と企業の利益が相反する状況で、従業員ではなく企業の肩を持って従業員を苦しめる、たとえば企業の不当解雇を後押しするような産業医を言うようなのですが、こんなふうに誰かのために一生懸命、しかも辛い仕事に奮闘してくれる産業医はさほどいないんじゃないかな~とも思います。


そもそも社員の退職は企業にとっては大きなコストです。もし、想定通りの産業医がいるとして、その産業医にコストを払い、コストである社員の退職勧奨を請け負わせているとしたら、自分の経営判断の誤りによって多くのコストを生んでしまっているダメダメ経営者でしかなかったということですよね。

そもそもコストをかけて不要な採用をした上、コストをかけて不要に育成し、今またコストをかけて退職をさせようとしているわけです。まともに働いている社員からしたら、自分たちの必死の労働でプールされている企業の資本がそんなくだらない使い道で無駄になっていると思うと残念でなりません。

もし本当にそのような「やめさせ屋」に需要があるのだとして、それを産業医が請け負っているのなら、その産業医は産業医の他、「やめさせ屋」としても働いているわけで、それに報酬をもらって機能しているのならそれはそれでよいのではないでしょうか。 私自身は産業医制度の課題は一にも二にも産業医が機能していないことと考えています。同時に、こんなにも産業医が機能していないのにこうしてしっかり経済活動が営まれている現実を見れば、産業医制度なんていらないってことだけが明確なので、なにか法的な措置でブラック産業医を根絶やしにしたいと考えるなら、産業医制度そのものをなくすのが最も効率的な解決策だと考えます。この方法なら最も無駄なコストを節約できます。 弁護士たちはこのあと、ブラック産業医の動きを封じるための策として新しい法律を提言しますが、その提言については次回、検討しましょう。

ブラック産業医(2)産業医の「診断」?

産業医のくだす診断名の意義

「『ブラック産業医が復職阻止、クビ切りビジネスをしている』弁護士が警鐘」では、組織内のパワハラやいじめに悩まされ、うつ病を発症し、休職した社員が、主治医の復職可の診断書を携えて復職を申し出たのに、復職を否とする意見書を出した産業医をブラック産業医としています。

会社はその勧告を受け入れて復職を認めず、休職期間満了で退職扱いされたという事例で、このブラック産業医は精神科専門医でもないのに、30分の面談を1回しただけで、主治医への問い合わせは一度もなく、心理検査もしないで、「統合失調症」「混合性人格障害」などの病名をつけたそうです。

もう一度、安全衛生法に戻ります。

産業医に関係するのは主にこの部分です。

(産業医等)

第十三条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。

2 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない。

3 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。

4 事業者は、前項の勧告を受けたときは、これを尊重しなければならない。

傷病休職後の復職という労働者の健康管理に関連しそうな事項において、事業主が医学に関する知識を活かした助言を求められた産業医がこれに応じて必要な勧告をする場合、事業主はこれを尊重しなければなりませんが、それだけです。

産業医が従業員に、ニックネーム的に病名をつけたとしても、医療行為はできないので診断ではありませんが、医者が病名をつけるとどうしても診断っぽくなっちゃうので、立場上、私ならやりません。自分のルール違反になりかねませんからね。

医療機関しか医療という業務を提供できないルールです。医師は医療機関に紐付けられてはじめて、医療行為を行なえます。産業医は医療行為を禁じられていますので、注射をしたらアウトですが、「病名をつける」という日常的に非医師にも許されている言動ならば、「血圧測定」と同じように、医療行為ではないと言い張れるのですが、誤解を招くようなことはしないほうがいいでしょうね。


医療機関に所属する医師が医療機関の業務として行なう場合には、職場を療養の提供の場とすることが認められていて、出張健診や出張ワクチン接種、オンライン診療などは職場でも可能なので、ご安心ください。


とはいえ、医者はそんなに器用でないので、慣れ親しんだ病名を産業医業務の円滑化に整理目的で使用しているのだと、許してあげる企業は心が広いですね。

そもそも医師の職務は病名をつけることではなく、皆さんの素敵な人生に伴走することです。「病を観ずして人を観よ」うとしています。病名は医療ではなく、保険診療請求業務にのみ必須です。

私はこの病名至上主義のシステムに大いに異論があり、このしくみが病人を量産していると考えていますが、制度なので従わざるを得ません。要は病名と医療行為がセットになっていて、その人が誰であるかではなく、病名が何であるかという根拠で医療費の支払が行なわれています。正直言って、病を観ずして人を観たいまともな医師たちはこのルールに戸惑ってます。

病名には必ずしも「当たり」や「正解」があるものでもないですし、たとえば高血圧や高熱がないと判断された人に血圧や体温がないわけではないので、患者さんの生活にとって必要な医療が届くように診断名を塩梅することもあります。

医療の目的は人々がより豊かな人生を楽しむことであって、病名をつけることではありません。苦痛から解放されて、快適に最大限のパフォーマンスを発揮して、存分に社会のために働くために医者にアドバイスを求めるのは、この医者が産業医でも主治医でも同じことでしょう。

よって、この産業医がなんらかの整理のために病名をつけたとしても、あだ名をつけた程度の価値しかありません。

腋窩体温計で測った体温が35度6分であった従業員に、産業医がそれを根拠に「高熱のため就業停止」と言っているのと同じなので、納得できなければ、

「え? なんで5度台なのに高熱なんすか?」って訊けばいいですよね。

もし、この産業医が、

腋窩体温計の感度は43%、顔も真っ赤でぐったりしていて明らかに触ると熱い。直近で体温を測った従業員20人が全員連続して35度6分だったことから、体温計の故障とこの従業員の発熱を主張する」と明快に答えたなら自分で従業員に触って確かめてみればいいし、それでも高熱はなさそうで、従業員本人も就業の継続を望んでいて、実際に期待する労務の提供が充分にできるのなら、休ませる必要はありません。

事業主のつとめである「産業医の意見の尊重」は充分にしたことを記録して、その上で体温計も壊れていないし、従業員も休む必要がないのなら、考えるべきはこの産業医が壊れているということで、取り替えるのは従業員でも体温計でもなく、産業医、という判断を事業者がすればいいだけのことです。

従業員に就業停止を命じられるのは事業者だけです。産業医の意見は企業の従業員にたいして何の効力も持ちません。産業医が従業員の肩を持ったとしても、事業者の肩を持ったとしても、それはそれだけのことであって、事業者も従業員も、それに従う筋合いはありません。

前回「ブラック産業医(1)」の冒頭で、ブラック産業医を取り上げる価値がないと述べましたが、それはこういう意味です。産業医の機能不全、機能不良だ、機能崩壊時は、意見に従う必要がないどころか取り替えましょう。産業医は従業員と違って取り替え可能です。企業がブラック産業医に振り回されることは構造的にあり得ません。

大切なのはそういうときに産業医との契約をすぐに切れるようにしておくことです。産業医の業務とその目的を明記して、依頼を無視した業務態度の場合は取り替えることです。もちろん選任義務はありますが、明らかに産業医サイドの事由によるテンポラリーな不在はしっかり説明すれば罰則の対象にはなりえません。あくまで従業員のよりよい健康管理が選任の目的なのですから。

もし、産業医が従業員を苦しめるような動きをしているように見えたとしたら、やはり黒幕は事業者と考えるしかありません。それであれば、弁護士たちが提案しているような産業医に対する規制はあまり物事を解決しないでしょう。

次回はここでブラック産業医とされている事例から、産業医の専門性、トレーニングをした診療科の影響についてお話しします。

ブラック産業医(3)産業医の専門診療科

クビ切りで会社に加担? 従業員のメンタル診断 問われる産業医 にはこんなコメントがありました。 精神科領域が専門ではない産業医がその診断を下すことも多いようで、この点も批判されていますが、日本の医師免許は、専門にかかわらず、すべての診療科の診療行為をおこなえることになっていますから、仕方がない面があります。 医師の専門診療科に関しては産業医だけではなく、よく非医師の経営者などとも話題に出るところで、「医師免許取得時には進路は決定していない」というシステムは、なかなか意外に映るようです。 一方で、専門診療科って何ですか? という定義も相当に曖昧なモノです。 「元脳外科医」などと聴いて、「あ~、なんか最前線っぽい、頭好さそう、超かっこいい~~~」と思うかもしれませんが、脳外科医局に在籍していたのは半年間で、執刀手術症例はゼロ件どころか主治医にさえなった経験なし、という場合もあります。 それでも脳外科の医局員であったことがある、というのが脳外科医の定義ならば、特に経歴詐称はしていないわけです。 「専門医」という言葉も、非医療者からはその分野の専門性、すなわち技術と知識が著しく高い信頼できる医師、というイメージを持たれているようです。 実際の専門医は技術や知識の最低レベルはある程度担保されますが、運転免許や調理師免許を持っていれば運転や料理がうまいとは限らないのと同様、道路交通法を守ったり、食材の毒の処理を行なったりという安全を守るためのルールを知っているというレベルとベクトルにおける専門性です。 特に日本の専門医制度はそのほとんどが専従性を強調するモノであり、いろんなことができてしまう器用なジェネラリストは専門医として想定されていません。 先日MGHで心臓移植の麻酔を毎日のようにかけている麻酔科医と話しましたが、彼女は麻酔科専門医でも心臓血管麻酔専門医でもありません。日本の心臓血管麻酔専門医に名を連ねる偉い先生方が医長や部長を務める病院では、年間に心臓の手術が一件もない病院もあります。おそらく日本の心臓血管麻酔専門医のうち、心臓移植の麻酔を複数回かけた経験のある医師は、ほぼいないでしょう。彼女は毎日かけています。 何年間かかけて、まともな教育病院でトレーニングをして、専門医が取れるくらいのレベルになったら〇〇科の医者です、と名乗ってもあまり恥ずかしくはないのかもしれません。専門医は名人を担保するものは決してありませんが、一応、筆記試験、実技試験、面接がある場合がほとんどですから、運転免許を持っている人が持っていない人よりは道路交通法をわかっているレベルは期待できます。ただし、栄養士や調理師免許を持っているから料理がうまいと同様の勘違いのもとになりやすいので注意が必要です。 一方で認定産業医というのは、特にセレクションはなくて、有料セミナーのスタンプラリーに近いもので、一定額を支払えば全員もらえます。専門医と全然異なるかというと似たようなもんなんですが、専門医のほうが時間的なコストはかかり、一応テストがあります。 精神科の産業医 クビ切りで会社に加担? 従業員のメンタル診断 問われる産業医『ブラック産業医が復職阻止、クビ切りビジネスをしている』弁護士が警鐘では、ブラック産業医が精神科専門医ではないことが問題視されています。

エントリーに必要な資格として「精神科専門医」が明記されているジョブに詐称で採用されたのならともかく、間違いなく「産業医」資格はあるはずですよね?

医師の診断は診療計画の整理上の意義が主で、特に15年以上のキャリアの医師の場合は、ほとんど診断スキルのトレーニングも教育課程では行なっていません。産業医に求められている医師の医学的な知識は診断の確からしさを担保するモノではありませんし、スペックとしては非医師と同じ人間なので、皮膚も透過できないし血中濃度も肉眼では知り得ません。 世の中には診断基準というものがありますが、診断基準をすべて満たす典型例しかないのなら、それこそ診断は人間がやるよりAIがやる精度のほうが高いに決まっています。 医師の診断の正しさを議論するほどくだらないことはありません。 米国精神医学会によるDSM-Ⅳによる統合失調症の診断基準は表に示すとおりで、Dのうつ病、躁病の合併を除外するときに心理質問紙を使ったほうがいいのではないか? ということかもしれませんが、同じく米国精神医学会によるDSM-Ⅳのうつ病の診断基準では、特に心理質問紙の使用が求められても勧められてもいません。 血圧を測らないで高血圧というとか、体温を測らないで高熱というとかと同じ論調で心理質問紙を持ち出すのは、大分違います。

Yahooニュースには精神科の産業医が4.7%であることが問題であるように書かれていましたが、従業員の健康管理は精神科領域だけに必要なのではありませんし、出典を見ると産業医だけの調査でもありません。

2006年の医師全体の調査で精神科医は4.7%、心療内科医は0.3%ですから、極端に精神科医が少ないわけではありません。 プレゼンティーイズムもアブセンティーイズムも最大の原因は筋骨格系疼痛で、むろん心理的なアプローチも必要な領域ではありますが、精神科領域より整形外科医やペインクリニシャンのほうが治療するなら強いです。

昨年度の業務上疾病発生状況を疾病別に見てみると、負傷に起因する疾病が全体の71.4%を占め、深い心理的負荷を伴う業務による精神障害は0.5%です。

公衆衛生的視点では、負傷リスクをミニマムにする環境改善が優先すると考えますが、精神科医率4.7%は、「何」に対して少ないのでしょうか。

がんと就業の両立も重要ですし、法定健診結果であきらかになるのは主に生活習慣病とそれによるリスクです。 精神科臨床に精通していれば、目の前で倒れた社員の蘇生をしなくてもいいですか? そもそも例示のブラック産業医が、精神科専門医だったら、統合失調症という病名を受け入れるのでしょうか。 難しい心理テストは得意でも心電図が読めない精神科医はたくさんいますし、それ自体は問題ではありません。

重要なのは今、この従業員に必要な診療科は何かということであって、その判断ができれば本人が何科出身でもいいんです。 医学部を卒業するまで、現在のカリキュラムでは研修医修了まで診療科を決めないで、グループで学ぶ機会が多いです。これは、医者になったら何科であっても、医療を行なう上で他科との連携が非常に重要だから、8年間の間に同級生や先輩後輩と多くのネットワークを創り、医療界というソーシャルキャピタル全体で公衆衛生を向上することが目的だからだと私は信じています。


何度もお伝えしていますが、産業医に必要な専門領域は産業保健です。その点では産業医大を卒業し、産業医コースで最初からエリート産業医になるべくトレーニングを積んだ産業医が最も適任と言えます。

産業医は企業サイドで、各専門診療科との連携の際、通訳やガイドとしての役割を果たすべきものであり、医療の素人である企業には医療用語や医学的な考え方、エビデンス等をわかりやすい言葉で示し、ビジネスの素人である主治医や専門診療科医には、当該従業員の業務や自社についての情報を医者でもわかる言葉で伝えながら、産業保健に必要な情報を引き出すことが職務です。

同時に主治医の職務はそこから診療に必要な情報を引っ張ることであり、企業の事業者や人事労務担当者の職務はそれを社員の健康管理やブレない経営判断につなげることです。

産業医が企業寄りなのは企業が雇っている翻訳家だからで、従業員は主治医に翻訳してもらえばいいんです。米国には企業が産業医を雇用する法律はありませんが、企業が産業医を自発的に雇っているケースは多く、一般従業員も持病の専門科としての主治医の他、個人のための産業医を主治医にすることができ、さらに双方が話し合う上でコンサルタントして機能する、どちらにも中立な立場の産業医もいます。日本でも心陽のように産業保健に強く、医学知識もあるコンサルを従業員個人として依頼できます。

せっかく産業医がいるのなら、DtoDでコメントを求めるのが最も手っ取り早く、素人の伝言ゲームで生じうる誤解のリスクも避けられます。 できるだけ各診療科の特性に精通していて、ベストな相談先を最短距離で探し当てる産業医が優れているので、振り分けが得意な総合診療科出身者や他科と連携する放射線科医、病理診断科医、麻酔科医などがよいかもしれません。 中でも麻酔科医は標的臓器を持たないシステミックな診療科であり、疾患臓器ではなく正常機能や残存機能を用いてオペレーション(手術)をマネジメント(管理)してストレス(侵襲)をコントロール(制御)するのが生業ですし、点滴やブロックなどの手技もうまく、蘇生も得意ですから、複雑な心理質問紙はまず扱えませんが、なかなか「買い」だと自負しています。

つまり産業医の診療科はなんでもよく、産業保健がわかっていて、自社のことがわかっていて、いろんな科の友達がいる医者がベストです。

私のように産業医大出身ではなく、臨床出身者は産業医としての経験は卒後年数に比べて未熟でも、多様な友達がいるという点は強みになります。 この条件のうち、企業サイドで努力できるのは、しっかりと自社について、当該従業員の業務について、産業医に理解させることですね。

0 産業医選びの基本は「産業保健の知識」と「いろんな科の友達」が多いことです。

ブラック産業医(4)法律を足す or 制度廃止

まともな産業医を社会で育てる

あらゆる法律はその成立時の啓発意義が大きく、どんな良法であっても形骸化します。

新しい法律を作って、社会が産業医をよりよいものに育ててくれるとしたら、それは素晴らしいことですし、そのような提言をしてくれる法曹界の方々に心からお礼を言いたいです。


そもそも産業医に限らず、医師の診断というのはなんら法的拘束力を持ちません。

もし医師の誤診が法で裁かれるようなことがあれば、医師は診療に当たれません。

むろん医療過誤と誤診は全く概念が異なります。

前述の体温の例でいえば、たとえ体温計が壊れていても、正しく高熱を診断しなければならない一方で、これを法律で定めようとすると、体温計で何度以上を高熱とするという記載しかありえません。下手をすると体温計が壊れていたり、体温計が手元になかったりという理由で、明らかな高熱を法的に高熱と診断できずに、解熱という簡単な治療が違法になってしまうリスクがあります。

もし、医師の細かい判断や診断に、それこそ明文化された法律があてはめられたら、医師の葛藤はずいぶん減るでしょう。 そんなふうになんらかのルールで分類していくことで診療が可能なものなら、それこそAIにすべてを任せてしまえば、医師不足も医師の過重労働も医療不信も医療費高騰もブラック産業医も、みーんなまとめて解決してしまいます。見込みがあるのなら、国をあげて開発するべきです。


医師は全員、この世から病気も患者もいなくなればいいと思っていますから、病名をこしらえて病人を増やすのではなく、できることなら、医療を完全に機械化して医師も病人もこの世からなくしてしまえばいいんです。

なくせなくても機械が変わってくれる業務が拡大することは歓迎されます。医師は機械にはできない、医師にしかできない業務にどんどん集中することができ、医療の質は(医師の質も)確実に上がるでしょう。

さて、それはどうにも難しいと皆さんも思っていらして、私もそう思います。生きている人のあれやこれやを、なかなか0か1かで判断できるものではなくて、ちょうど医療というのはそんなところでぷかぷか浮いています。

まともな産業医を、法律を用いて、社会が育てるのはたいへん素晴らしいことで、それができるならまず医師全体でやってほしいです。まともじゃない産業医がなにかよからぬ作用をするのなら、産業医制度をやめてしまえばいいです。産業医選任を義務付ける便益が、ブラック産業医によるリスクを上回っていないなら、いないほうがいいでしょう。

いずれにしましても社会が医師を変えてくださろうとする姿勢にはただただ感謝です。

お金を払う相手に迎合するのは産業医だけ?

お金を出してくれる企業に迎合せず、産業医に正しい診断が下せるのか? という論調で新しい法律の提案につながるのですが、ここにはそもそもの論理の破綻があって、産業医に「正しい診断を下す」という役割がそもそもないし、もし法律が、産業医に正しい診断を下させることが可能ならば、それこそ産業医に限定せずに、すべての医者に対して正しい診断が下せるようにしてほしいです。

この世に医師なんていらなくなるか、医師が医師にしかできない仕事に専念できて、医師の働き方改革にも大きく貢献できそうな夢の法律、つまり、グッドプラクティスをしてしまう設定としての行動経済学的な法制ではなく、カットオフポイントを設けて魔女狩りをするための法律、お金を出してくれる、依頼主である企業への配慮をさせないための法律・・・云々に関しては、こちらのブログがとてもわかりやすい反論をしています。まともな産業医とそうでない産業医を分けて別々の対応をする前提は、まともな従業員とそうでない従業員健康な従業員とそうでない従業員リスキーな従業員とそうでない従業員をわけて議論することと一緒で、最もくだらないことです。

弁護士たちの主張は、産業医は企業から報酬を得るので、企業に利する働きをするというものですが、そりゃそうでしょう! って普通なら思いますよね。企業がなにか果たしてほしい役割があって、産業医という専門職に有償でその業務を依頼しているわけですから、企業が産業医に果たして欲しいその役目を産業医が行なうのは当然であって、企業にお金を払われているからって、企業の言うとおりにするのはおかしいというロジックは摩訶不思議以外のなにものでもありません。

弁護士だって、お金を払って依頼してきた人の得になるようにふるまうのではないのでしょうか? むしろそうではない業務遂行のベクトルがあるのなら教えてほしいくらいです。

問題なのは、産業医が企業の意図を汲むことが、従業員にとって不利益になるリスクがあるということで、それは企業が従業員を不利益にする意図を持っているということですから、問題なのは産業医ではなく経営者です。そのような経営者に対して、産業医の駆け込み寺的な制度を設けて、告発させてくれるとありがたいですね。

むろん、医師として最低限の安全である善意、医の倫理、法律には従います。たとえ依頼主である事業者に請われても犯罪に手を染めることはありません。しかし、「金を出す者に迎合する」のは必ずしも悪いことではありません。むしろ日本の産業医制度が機能していない原因の一つは、ごくごくシンプルなルールである労務の対償性が理解できていない名義貸し名ばかり産業医が存在していることです。労務と報酬を交換するのは最もシンプルなルールです。出してもらうための努力をするのは当然でしょう。


三文あるけど全然三段論法になっていないので注意が必要ですが、

産業医は10社、20社と掛け持ちすれば、高額な報酬を受けることができるでしょう。だいたい1社2~5万円くらいもらえますから、20社掛け持ちすれば、月に40~100万円くらいもらえるでしょう。年間では480~1200万円になります。この金額が、目くじらを立てられるほど高額でしょうか。皆さんは医者が高額な報酬と責められながら手にする年商が、この程度だと知って、どう思いますか?

もちろん、60社70社どころか200社かけもちしている産業医もいますから、その際はもう少し立派な数字になるかもしれません。 ただ、20社かけもちしていればおそらく産業医以外の仕事はしていないので、完全に専門性の高いプロの産業医ですよね。 専門性を活かした医師が、この金額を正当に稼いだとして、新たな法律を作って阻止しなければならないほどのことでしょうか。

弁護士さんは案件を掛け持ちするのかしないのかわかりませんが、2万円よりは高いでしょうね(笑)

対抗馬としてでている主治医の先生方も、年間480万円で暮らしてはいないはずです。

企業に営業をかけなければ新しい契約は結べませんし、仲介会社を通せば半分くらい持っていかれてしまいます。

この480~1,200万円がすべて産業医のポケットに入るわけではありません。

お金を出してくれる企業に迎合せず、診断を出すことができるのでしょうか? と言ってるところをみると、北神先生は、顧問料の高い企業には迎合して法的判断にちょっと掌加えちゃうんでしょうね。何の力もない産業医の診断をこんなに取り上げるのがよくわかりませんが、弁護士こそ、クライアントのキャラクターや意向の観察や聴取を仕事に反映させるでしょう。事例の客観的な分析のみであれば、弁護士の仕事もAIに変わってもらった方がリーズナブルですね。

現状は、本人の良心に委ねられているだけで、産業医の中立性、専門性を担保する制度が存在しませんとここまで明確に言ってくれているのなら、「産業医の中立性、専門性を担保する制度の構築」が求められていることのように思います。

これって「産業医」を「主治医」、『企業』を『患者』に置き換えても文章が成り立つと指摘して、

「主治医は100人、200人と患者を掛け持ちすれば、高額な報酬を受けることができます。お金を出してくれる患者に迎合せず、診断を出すことができるのでしょうか。現状は、本人の良心に委ねられているだけで、主治医の中立性、専門性を担保する制度が存在しません」

ほんと、そのとおりです。人と人とのつきあいで、中立ってそもそもなんでしょうか。

患者に迎合しますよ、私は。恋人だと思ってつきあってます。ひいきしまくりです。そりゃそうでしょう。

産業医の20社は契約もなかなかたいへんですが、月に一度は訪問が必要なので、どんなにがんばっても50社がせいぜいです。1社2万円で月100万円ですが、一日に15人診察するのはそうたいへんではないので、月に300人掛け持ちして1人5,000円で150万円です。1日に50人診る先生もいます。

中立性を担保するべきなのだとしたら、主治医もするべきだし、ただ、人と人との関係で、中立性って何なんだろうと。

弁護士だって中立じゃないでしょう?

また、医者が何らか医療上の判断を行なう際に「働いていい」というよりは「療養が望ましい」というほうが言いやすいという圧倒的事実もあります。 復職ではなく休職の際、「働けそうなのにな~?」と思ったけど、主治医から「療養が望ましい」と診断書が出て休職をスタートさせた体験は多くの企業がお持ちなのではないでしょうか。

それは必ずしも主治医が誤診しているわけではなく、医療的に療養が禁忌な状況ってないんですね。「療養」が望ましくない人なんてこの世にいないので、魔法の文言でもあるわけで、これは産業医が用いても同じ論理なんです。

人権派(?)弁護士が考えるソリューション

(1)復職の可否について、産業医と主治医の判断が異なる場合、産業医が主治医に十分な意見聴取を行うことを法令で義務化すること (2)法令による産業医に対する懲戒制度の創設 (3)メンタルが原因による休職の場合、精神科専門医でない産業医が復職の可否を判断できないようにすること。

(1)のような産業医が、主治医に充分な意見聴取を行なう際、産業医の報酬は企業が払うかもしれませんが、主治医の報酬は誰が払うのでしょうか。法律で義務化されれば主治医も断りづらいし、産業医が主治医とのアポを取ったり、返信を待ったりしている間に、休職制限期間が来てしまう場合はどうするのでしょうか。

反対に産業医のほうが人道的に復職を支援していて、主治医が業務内容も聞かずに療養の延長を主張し、従業員が社会的に孤立しようとしているような場合はどうなるのでしょうか。

「充分な意見聴取を行なう」の定義が難しく、現状の勧告がゴールなのであれば、勧告という決定権のないものの成立プロセスを複雑にするのは、社会全体のコストにしかすぎません。

こちらのページの最初の回答にあるような、「産業医の解任を禁ずる」ような法令はなく、当然ですが従業員の不当な解雇はしっかりと禁止されています。してはいけないのは従業員に対する不利益取り扱いであり、産業医なんてどう取り扱おうとかまいません。嘱託産業医は従業員ではなく、単なる外注先なので、労働法や就業規則を適用する筋合いもなく、むしろ最初から産業医が気に入らなければすぐに取り替えられるような契約を締結しておくことを激しくオススメします。

取り替えるなら従業員より産業医。嘱託産業医を取り替えるのはコストではありません。

(2)は専属産業医で社員なら就業規則の懲戒処分を適用すればいいし、単なる外注なら切ればいいだけで、懲戒よりもっとひどい対応が許されているのだから、どんどん切ればいいでしょう。現状でも「おかしな産業医が法令を守りません!」と労基署に報告すれば、対応してくれるのでは?

(3)に至っては「お金をくれる人に迎合する」と言った同じ口で言われると、この弁護士さんたちが精神科産業医からお金もらっているとしか思えません。どうでもいいんですが、そんな法律を作って、メンタルヘルス不全から復職する人の復職チャンスが減ったり、復職時期を誤ったりする責任は誰が取れるのでしょうか。

ブラック産業医は精神科以外の産業医という大前提があるようですが、精神科にしかできないと思うなら最初から産業医の選任要件で精神科専門医だけにすればいいし、それでは人数不足で立ちゆかないというなら、産業医制度を廃止することです。

弁護士によると、「医師であれば専門にかかわらず、50時間程度の講習を受けるだけで、産業医の認定を受けられるという」となんだか精神科以外の医師がズルして産業医になったみたいな風情ですが、それは誰も特に隠してませんよ?

建増しの連続で立ちゆかなくなった安衛法

そもそも産業医の機能不全の問題は、法律と時代のギャップによるその場しのぎの建増しを45年間、続けてきたことで、世の中の誰からも全貌が見えなくなっています。

産業医なら、精神科の専門家である前に安衛法を読んでおく必要があるし、クライアント企業の就業規則にも熟知していなければなりません。それでもそんなまともな産業医はほとんどいない上に、いなくても儲かっている企業がいくらでもあります。

この現実から見えるベストな解決策は産業医制度の廃止で、この策は確実にこの世からブラック産業医を抹殺できます。

今のしくみの中でもまともな産業医は機能するという齋藤先生の心強いご発言には心から賛成しますが、そういうまともな産業医には制度がなくても需要があるはずなので、制度の廃止によって何か困ることはないように思います。

4回にわたってお送りしてきたブラック産業医問題、結局最初に言ったとおり、産業医制度廃止推しになってしまいましたが、まあ、産業医もさほどつまらない仕事ではない、というか、おもしろくやりがいのある業務です。

先日、クライアントの社員から、「先生は私の心の主治医です」というお便りをいただきまして、それはもうジーンとくるもので、産業医も人の子ですから、そんなことを言われたらなにがなんでも力になろうと思うものです。 そんなお便りどころか自殺予告や脅迫状めいたものが届けられることがあるようですが、できれば産業医に送る手紙には励ましの言葉をお願いします。

モンスター産業医

襲名 モンスター産業医 ブラック産業医について、過去4回にわたり連載してきましたが、『元祖ブラック産業医』を名乗る権利がなさそうだな~、これじゃあ流行語大賞の表彰式に出られる可能性は低いな~ と悩んだ末に、ふさわしそうな冠を見つけました。 その名もモンスター産業医です!! ブラック産業医問題を紐解いていて、心底不思議だったのは、経営者(企業)・産業医ペア VS 従業員(患者)・主治医ペアの二元論で話が成り立っていて、社会的に経営者×医者は強いから、従業員×主治医(医者だけど)にハンディキャップが必要というような論調だったことです。 労使の関係というのはそれはそれはタイトなもので、どう考えても企業と産業医の関係や労働者と主治医の関係よりも深いものに思えるのです。 契約前にお互い一緒になりたいという同意があって、しかもお互いに複数の選択肢から選んで、納得ずくで一緒になった仲であり、生活のほとんどの時間をともにし、社会的身分や生きがいや、飯の種である収入など、ものすごく人生の芯の部分を共有する同志です。 企業の理念や存在意義に共鳴・共感してこそ、会社を選んだのだろうから、お互いによく知らない医者をセコンドにつけて戦う相手ではないと思うんですよね。もったいない。 医者は人生の黒子 もしかしたら非医療者の皆さんの多くは、いや、それどころか、ひょっとしたら医師を含む医療者の中にも、医者が病気を治していると感じる、または信じている方がいるかもしれませんが、医師には病気を治すことはできません。 病気を治すのは常に本人で、医師たちはあくまで専門的な知識や技術によって、よりよい治癒に向けてのコンサルやサポートをしているだけなんです。 それは、どんなに食で人々の人生を鮮やかに彩る腕のいいシェフでも、お客様のかわりに栄養を摂ったり、おなかいっぱいになったりすることができないのと同様です。 産業医であっても、主治医であっても、あくまで皆さんの人生の黒子にしかなれない、主人公を輝かせることしかできない存在なのですが、はっきり言ってそういう役割が好きだからこそ、医者という仕事を選んだのです。 産業医や労働者の主治医にとって、企業経営者と労働者の関係をより強固に、より信頼に満ちた、より美しく楽しいものにすることは医師としての厳然たる使命であり、そのために働いています。 なのでそれ以外の、その関係を脅かすものに対してはときにモンスター化します。 モンスター〇〇と言われている人々を別の視点で見ると、強い正義感の強さや激しい責任感で、なにかを守るが故に、その守りたいものを脅かす可能性のあるものに対して、反社会的なほどに抵抗してしまっている場合が多くあるように感じます。本当にいきすぎて反社会的な場合も実際に多くあるとは思うのですが、ちっともモンスターじゃないのにモンスター呼ばわりされてしまっていることもまた多くあるように思います。 モンスターペイシェント たとえば先日、ある大病院でモンスターペイシェント扱いされていた女性は、自分の手術の前に入院中の病棟の受け持ち看護師に、「明日、私の麻酔をかけてくれる麻酔科医はどなたですか?」と尋ねたそうです。 尋ねられたナースは「知りません」とか「わかりません」とか「そんなこと知らなくていいんです」とかそういう回答をしたようです。 当然、女性は「私は人生をかけて、仕事を整理してこの手術に臨んでいます。私たちは一つのプロジェクトのチームであるべきです。チームのメンバーの名前や顔が見えないのはおかしくありませんか」と発言しました。至極もっとも、私はこのカルテを読んで、しっかりと自分の疾患や診療に向き合う、なんて最高の患者さんだろうと感心しました。 麻酔科なんて診療プロセスの中では黒子中の黒子ですから、名前を覚えていただく機会も少なく、その役割を主役である患者さんが事前にこんなに認識して下さっているなんて、私なら大喜びで自己紹介をしに病棟に跳んでいきますよ!  病棟ナースは、プロジェクトチームの一員として、担当患者の麻酔を担当する医師の名前を覚えておいてもいいし、わからなければ、「ごめんなさい、覚えていないので、調べて後ほどお伝えしますが、〇〇教授を中心にチームで麻酔に当たっている、たいへん信頼できる専門家集団です。当日の緊急手術などにより、麻酔科の担当医が変更になる可能性はゼロではありませんが、(主人公)さんについてはチーム全体で共有し、適切な周術期管理を麻酔の専門家が行いますのでご安心下さい」とかなんとか答えようもあると思います。 でもその病院では医師もナースも「プロジェクトとかキキモくなーい?」とか、「ちょっとメンタル入ってるよね~」とか、そんな扱いで、カルテに「モンスター」と記載していました。もし彼女がモンスターなら、間違いなくモンスターは褒め言葉です。 私は怪物 実は私、相当なクレーマーで、どう考えても生検するだろう!ってのに、平気で所見だけ書いて内視鏡を抜いちゃう健診センターや、患者(従業員)のアドヒアランスは良好なのに、何年経っても全然治療効果を出せない主治医とかには、すぐ電話で抗議しちゃいます。 むしろ企業側の担当従業員が、え゛~~、この産業医、またクレームすんの? めんどくせ~~~ ってうんざりするくらいですが、大切なクライアントの大切な従業員におかしなことされたらたまんないじゃないですか。 たとえば診断書にも、平気でおかしなこと書いてくる主治医がいるので、どんどん電話してどんどん質問しちゃいます。だいたい「うわ~~、この産業医気持ち悪いから関わりたくない」と思われるようで、ナゾの診断はすぐに覆ります。 ちょうど昨日も健診結果に喫煙習慣の有無に関する問診結果が記載されていなかったので即電話しました。問診結果の記載が不十分で健診機関に問い合わせることは非常に多いです。これまでの産業医は一切気にならなかったのか? ってむしろ不思議なんですけどね。 厚生労働省にもよく電話しますが、マジメに取り合ってもらったことはないですね。たいてい、その改革が必要なエビデンスを出してこい、って言われるんですけど、現状許されてないからエビデンス取れないですよね? 現場の声を聴かないで、偉い研究者を並べて会議しているから、どんどん現実から離れた使いづらい制度ばかり構築されるのかもしれません。 主治医も健診センターも医者が直接電話してくると、たいていタジタジっとなりますよ。 産業医の使い道なんてそういうはったり要員としてくらいしかないので、けんかの先鋒にはもってこいです。 相手が医療機関であればあるほど、医師という権威に弱いです。 ずいぶん前ですが、事業所全員右脚ブロックだったことがあって、どこに電極貼っているか実演させたことがあります。正しい位置に貼って計り直したら、全員正常心電図でした。右脚ブロックが職業関連性疾患であると発表できるかと思って心躍ったのですが、健診センター業務の関連性誤診でしたね。 医者は産業医でも主治医でも、誰かの人生をより充実したものにしたいという思いでキャリアを選んでいます。 診療科によって、メンタルヘルス不全による自殺をなくしたいとか、事故によって制限されるアクティビティーを最小限にしたいとか、ともかくかかりつけ患者さんには心筋梗塞を起こすまい、もし起こしても早期診断で救命するとか、具体的なジョブはそれぞれであっても、ひとくくりにしたら全員人間が好きで、人生が好きで、それをもっと輝かせたいと思っているバカばかりです。 もしかしたらブラック産業医の記事に出てくるような金に目がくらんで魂を売ってしまったような産業医や主治医がいるのかもしれないけれど、そうでない人のほうが圧倒的に多いので、まあ、結論としては、こちらですね。

取り替えるなら 従業員より産業医

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