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【睡眠健康経営セミナー】ご質問への回答 ④

皆さん、こんにちは。第98回産業衛生学会のランチョンセミナーでは、お世話になりました。

オンデマンド配信は、2025年6月17日(火)~7月7日(月)です。

もちろん、睡眠健康経営ランチョンセミナーもオンデマンドでお楽しみいただけますが、ランチョンセミナーのオンデマンドは、スライドのない部分は音声だけで、4人の表情やリアクションがご覧いただけないのが残念です。


考えごとをして寝つけない場合はどうしたらいいですか?


ご質問、ありがとうございます。この質問には、会場でも答えました。


どうしたらいいかは、わかっていらっしゃるんじゃないかな?って思いますが、あえて、回答するなら、考えごとをしないで眠ってください。


寝つこうとしている以上、起床してから、12時間は経っていると思います。

起床後、12〜15時間後くらいは「フォビドゥン・ゾーン(Forbidden Zone of Sleep)」といって、最も寝つきづらい時間です。これは、睡眠負債がない人の場合なので、起床後12時間後、と乱暴に考えてしまっても睡眠不足の皆さんにはOKだと思います。


人間、意識して「考えごとをしない」のは無理でして、もう、「意識」が「考えごと」なので、「考えごとしないようにしよう」って考えてると、もう、考えごとしちゃってるわけですね。

なので、しないで寝ろ、と言われても、うまくはいかないと思いますが、ひとつ、科学的に確認されている事実として、起床後の連続覚醒時間と睡眠負債(時間)の合計が、12時間を超えると、私たちの認知機能は、驚くほどみるみる低下します。


認知機能が低下しても認知機能があるかぎり、考えごとはできます。でも、合理的な判断は難しいし、まず、いいアイデアは出ません。


下手の考え、休むに似たり


古くから日本にはこんなことわざがあります。

これは、「物事に慣れていない人(=下手な人)が一生懸命考えても、結局は無駄に終わることが多く、それは考えないのと同じである」という、やや辛口な意味合いを持つ、江戸時代から伝わることわざですが、私、このことわざにモノ申したいです。


これは「休む」=「睡眠」に対するRESPECTが全然足りない、もう、睡眠をバカにしてんのか?と言っていいレベルだと思います。


私は声を大にして言いたい。下手の考えには価値がありませんが、睡眠は値千金です。

果報は寝て待てです。

寝る子は育つです。

そして、私たちが生きているとき一番賢く、クリエイティブに脳が働く時間帯は、REM睡眠です。

疑う前に、以下のエピソードをご覧ください。

人物

睡眠中のひらめき

ドミトリ・メンデレーエフ(ロシアの化学者)

元素の周期表を夢で見たという逸話。寝る前まで整理に苦しみ、夢の中で完成形を見たと語っている。

オーガスト・ケクレ(ドイツの化学者)

ベンゼン環の構造を夢に出てきた蛇が自分の尾をくわえる姿でひらめいた(ウロボロスの構造)。

ラリー・ペイジ(Google共同創業者)

「すべてのウェブページをリンクでたどってランキング化できる」というアイデアを夢の中で思いつき、飛び起きてメモしたと述べている。これがGoogleの検索エンジンの原型。

ニールス・ボーア(物理学者)

原子構造のモデル(ボーア模型)は、夢の中で電子が回るイメージを見て着想したという話が残っている。

人物

睡眠中のインスピレーション

ポール・マッカートニー(ビートルズ)

イエスタデイ」のメロディは夢の中で完全な形で聴こえたと証言。起きてすぐピアノで再現した。

メアリー・シェリー

フランケンシュタイン』の原型となるストーリーは、悪夢から生まれたと本人が記録している。

サミュエル・テイラー・コールリッジ

詩『クーブラ・カーン』は、夢の中で見た映像を起きて即座に筆記したもの。

キース・リチャーズ(ローリング・ストーンズ)

「サティスファクション」のギターリフを寝ぼけたままカセットに録音。起きたとき本人は覚えていなかったが、再生して驚いたという。

アイデア

睡眠との関係

ミシンの針の構造(エリアス・ハウ)

夢の中で“槍の先に穴がある”という光景を見て、ミシン針のヒントを得た。

テトリスの改良(アレクセイ・パジトノフ)

ブロックが夢に出てきたという報告があり、“テトリス効果”という現象名にもなった。

フレデリック・バンティング(インスリン発見)

糖尿病治療のヒントを睡眠中に脳内整理されたアイデアから思いついたと回想している。

そーゆーことです。何が言いたいかというと、寝つく時の考えはいわば下手な考え、深堀しても大発見する可能性は低いので、さっさと眠って、続きはREMの天才脳に任せましょう。


寝つきはよいのですが、2時や3時に目が覚めて、その後眠れません。何か対策はありますか?


これも会場で答えた質問です。22時や23時に就寝し、6時や7時に起きる場合、2時や3時は就寝時刻と起床時刻のまんなか、中央時刻と言われる時間帯です。

実は、覚醒から睡眠、睡眠から覚醒というわかりやすい変化はありませんが、というより眠っているので気づきませんが、この中央時刻にはかなりドラスティックな変化が起こっていて、体内時計のスイッチ、日付変更が行われる時間帯でもあります。


詳しくは私の著書、「Dr. Yokoの睡眠マネジメント 眠るほど、ぐんぐん仕事がうまくいく」を読めばわかりますが、8時間強の睡眠の前半と後半は役割も睡眠の構造も異なります。


ざっくりすぎるくらいざっくりいいうと、前半は深くて、後半は浅いんです。だから、前半は起きないけど後半は起きてしまうっていうのは、そんなに心配いりません。気持ちよく、二度寝してください。


ただ、寝つきのよさは心配ですよ。成人の標準的な寝つき、眠ろうと思ってベッドに入って横になってから、脳波で判断するところの睡眠状態になるまでの時間、この睡眠潜時は15分です。

秒で寝落ちしている場合、明らかに異常です。多くの場合、この異常の原因疾患は睡眠不足症候群です。

もし、毎日9時間以上眠っているのに、いつ眠ったかわからないほど、5分以内に、眠ってしまう方は、睡眠外来の受診を検討してください。


私たち人間は睡眠状態で意識を失い、生物としてはかなりリスキーな状態になるため、覚醒から睡眠に移行するときの安全確認プログラムが進化しています。だから、本来眠るべきなのに眠らなくていられるのですが、そのリミッターが外れ、寝落ちしている場合、それは睡眠ではなく、失神と呼ぶべき状態です。


ショートスリーパーと自称する社員に対して、無理に睡眠時間を確保するように提案する必要はないのでしょうか。


これ、前回取り上げるべきでしたね、ごめんなさい。


必要があるがないか、、、まあ、それは、社内規則とか関係性とかによるので、私にはわかりません。

たとえば、私の本を読んでいただき、「この本には、ショートスリーパーなんてめったにいないって書いてあったよ」と、友達として話しかけていけない、ってことはないと思います。

つまり、提案しちゃいけないってことはないと思いますが、提案するかどうかは、さまざまな状況から、ご自分で判断してください。私は、皆さんに向けて、提案しています。


私は睡眠時間は7時間程度でまずまず寝ていますし、仕事のパフォーマンスもまぁオッケーかと思っています。ところが、今日石田先生のあまりに素晴らしいトーク接し、もう少し眠りを工夫すれば、もっと仕事がぐんぐんうまくいくのか、と思ってしまいました。このような私でも、本当に仕事が更にぐんぐんうまくいく余地があるのでしょうか??


あります!!

もう、即答です。

しかも私のトークをほめてくださる方なので、本当に素晴らしい方です。

ぜひ、心陽のSleep Programを受けてほしいです。


ナッジに関連した手法は徐々に増加してきたように思いますが、啓発やヘルスリテラシーの向上といった、効果的なブーストの手法は文献が見つかりづらく、悩ましいところです。ブーストを学ぶよい教材などありますでしょうか?


おそらく、このご質問は、竹林先生に答えていただきたかったのだと思います。

一応、私も社会疫学者の範囲内で行動経済学を修めているので、そんなの知ってるよ~~~という範囲かと思いますが、紹介します。


ナッジ(nudge)に比べ、ブースト(boost)はまだ新しく、研究・応用ともに発展途上ですが、理論的背景と実践手法の両方を学べる教材はいくつかあります。以下のように段階的にご案内できます。


ナッジは「選好や判断は変えずに、選択環境を変える」のに対し、

ブーストは「本人の意思決定能力・スキルを育てて、自律的に判断できるようにする」ことを目的とします。


代表的な論文:

Grüne-Yanoff & Hertwig (2016). Nudge versus Boost: How Coherent are Policy and Theory?

👉 ブーストとナッジの理論的対比を提示。現状の文献を学ぶ最初の一歩に。


Google Scholarなどで、「boost behavioral interventions」「competence building」「heuristics」などのキーワードで絞ってみてください。


Ralph Hertwig & Gerd Gigerenzer (Eds.) “Taming Uncertainty” (2021, MIT Press)には、ブーストに該当する戦略が、リテラシー教育、統計理解、意思決定教育として紹介されています。


Gerd Gigerenzer “Risk Savvy: How to Make Good Decisions”も、職場におけるリスク認知と教育的介入(ブースト的要素)のヒントになりそうです。


睡眠環境をご提案する時に寝具やカーテンなどお金をかけることができないと言われることがあります。そのような場合の提案として何かアドバイスをいただけましたら幸いです。


睡眠は、あらゆる健康行動の中で、最もお金がかかりません。

睡眠をよくする唯一最善の方法が、「とにかく、たくさん、寝ること」です。お金は一銭もかかりません。

睡眠健康経営として、従業員の睡眠をよりよくしたいと考えるのなら、シンプルに「とにかく、たくさん、寝ること」を提案してあげてください。


会社の方針として高価な寝具やカーテンを、愛する人財に与えたいと思うのなら、ぜひ、会社が費用負担して従業員に高価な寝具やカーテンを与えてあげてください。

自分の財産を何に使うか、決めるのは個人の自由ですから、会社が自己負担で高価な寝具やカーテンを購入するように提案するのは好ましくないと思います。


与えられて喜ばない従業員はいないと思いますので、ぜひ、買ってあげてください。


*****


これで、すべてのご質問に答えることができました。


あらためて、ランチョンセミナー【睡眠健康経営】へのご参加、誠にありがとうございました。

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