【健康経営セミナー】ご質問への回答 ③行動変容のエビデンス
- 石田陽子 Yoko Ishida
- 7 日前
- 読了時間: 7分
本日、オンデマンド用の動画をチェックしました。
オンデマンド配信の期間は6月17日(火)~7月7日(月)予定となっております。 あの興奮が再び!というわけで、ぜひ、オンデマンドもご覧ください。
私のポスター発表もオンデマンド用データをアップしますので、ぜひ、ご覧ください。
質問を全部で18問いただいて、これまで7問に答えてきましたが、一番多かったのが、竹林効果でしょうか、行動変容に関するご質問でした。
健康好行動を促す! これはとても素敵なことです。
しかし、私たちの役割は健康にとって好ましくない行動をしている人や、健康にとって好ましい行動をしない人を警察のように取り締まることではありません。
その点は、注意してくださいね😉
行動変容にエビデンスがある面接技法(動機づけ面接、motivational interview )はご存知ですか
いいえ、知りません。ご質問をきっかけに、2本、信頼性の高そうな系統的レビューを読みましたが、どちらも2005年、20年前のものでした。私自身はこの領域に明るくありませんが、エビデンスの探求は、それぞれが向き合ってこそ意味があると思います。ぜひ、ご自身の探求を進めてください。
睡眠クリニックに行こうとしない人へのアプローチ方法を教えてください
おそらく、産業保健の文脈でのご質問だと思うのですが、受診は非常に個人的な行為です。受診の便益をヘルスリテラシーとして伝え、産業保健スタッフが住居や勤務先からアクセスしやすい医療機関を伝えるのはすばらしい介入だと思います。
それ以上は、会社でよほど明確な規定を設けない限り、難しいとは思います。
睡眠クリニックでは実例を知りませんが、たとえば、企業や健保の単位で、法定健診項目については基準を設け、上司の責任などを規定して、受診を服務規程や組合員規定に、上手に加えている組織もあります。
当社の介入例としては、運輸業において、運転業務の従業員全員に医療睡眠検査を実施し、会社の設けた基準によって医師(私)との診察(会社が支払う自費オンライン診療)を義務付けている企業があります。診察の場で、検査結果を説明し、主治医や通いやすい医療機関を相談し、治療をしてくれる歯科や医科に紹介状(診療情報提供書)を発行し、支店長を介して、本人に渡します。
その後の受診行動や治療内容に関しても会社がフォローします。
そこまでやると、治療率は上がりますが、費用もかかります。
現時点では、多くの企業で、明らかに受診が必要なのにかたくなに拒む人よりも、「ちょっと気になるけど踏み出せない」人が多数派ではないでしょうか。睡眠に一定の課題を感じているけれど、何科に行ったらいいのか、いびきなんかで病院に行っていいのか、病院に行ったことが会社にバレると不利益取扱いをされるのではないか、などなど、いろいろなモヤモヤで、ほんのり興味はある、だけど受診に踏み出せない、というレベルの人が一番多いのではないでしょうか?
頑なに行こうとしない人にアプローチするのは最難関なので、一旦、諦めて、行く気はあるけど行かない人からアプローチしてみましょう。
それには、単純に、睡眠治療は安価で、簡単で、いろんな点で本人にとって便益が大きいですよ、だから、受診してくださいね!と宣伝することです。
従業員の生産性が高まり、健康が増進することで、会社にとってもいいことづくめだから、会社は受診を推奨していますよ! なんなら受診行動を何らかの方法でポジティブに評価しますよ! という本気感を示してください。
方法としては、受診した従業員に診療費を補助するのが、一番効果的です。
健康経営度調査のSAS検査の費用補助、という項目もクリアできます。
一番、難しい、絶対受診しない群ではなく、軽いナッジで受診しそうな層からアプローチしてみてください。
睡眠の行動として、寝る90分前に入浴というのはわかっていますが、実際には21時半の入浴は難しいです。エビデンス通りの行動ができるにはどうすればよい?
寝る90分前に入浴するとなんらかの健康リスクが低減する、というようなエビデンスを私は知りません。私の勉強不足かもしれませんが、エビデンス通りの行動をしたいのならすればいいし、できないのが当たり前だとも思います。
多分20年以上前に読んだものなので、出典は忘れてしまったのですが、ベニヤ板で寝るのが一番いい、みたいな論文を読んだことがあります。アウトカムが何であったかも忘れてしまいましたが・・・
でも、ふかふかの布団で寝るって、素敵なことですよね?
ふかふかの布団で寝るって、素敵なことだけど、ふかふかの布団で寝たほうが健康になるってエビデンスがあるかどうかは知りません。
科学的なエビデンスは、宗教の経典でも、法令・掟でもなく、ただの科学的エビデンスで、100年以上、科学的に正しいままであり続けるエビデンスなんて、ほぼない、と言い切っていいくらいです。
睡眠のための臥床の数時間前に入浴、運動、食事など、体温の上がる行動をすると、恒温動物の私達が上がった体温を戻そうとする体温低下勾配と、生理的なサーカディアンリズムによる体温の低下勾配、自律神経の副交感神経が優位になる体温低下勾配、脳の電気活動が弱まっていく体温低下勾配が重なるので、良い寝つきが期待できます。
コラム「睡眠のプロが教える冷房術」を参照してください。
でも、入浴というのは生命活動というよりは文化に近いもので、浴槽に浸かる習慣を持たない地球人のほうが圧倒的多数です。入浴して溺死する人は山ほどいるけど、入浴しないで死ぬ人はいません。私は死にたくないなら入浴しない方がいい、とまで言っていて、よく、言い過ぎだと叱られています(笑)
エビデンス通り(?)の行動(?)をする方法(?)を私は知りませんが、まずは、「エビデンス」について、もう一歩、踏み込んでみてはいかがでしょうか?
ブレーキが壊れている車を選びますか?
本日は3つの質問を取り上げました。答えは一つもわからなかったので、答えたとは言えませんね(笑)
収縮期血圧が200mmHgを超えていても、それが原因で脳卒中を発症する人って、100人中6人程度なんですね。言ってみれば、94%の人は大丈夫なんです。(こちらのコラムを参照してください)
でも、収縮期血圧が100mmHg未満の人の8倍以上なんですね、その発症率は。
まあ、たかが100倍か、と思う方もいるでしょう。
私はまだまだ、生きて、やりたいことがたくさんあります。だから、自分の収縮期血圧は100mmHg未満にコントロールします。
それって、ブレーキが壊れている車に乗らないことと一緒です。
ブレーキが壊れている車に乗った瞬間、事故に遭うわけでもないし、なんかすごいテクニックのあるドライバーだったら、すごい状況でもくぐり抜けちゃうかもしれないし、ブレーキが壊れていない車が絶対に事故に遭わないわけでもありません。
でも、私は、ともかく生きて、やりたいことがたくさんあるから、どんなに素敵な車でも、運転しているのが有名なF1ドライバーでも、超イケメンでも、ブレーキが壊れているっていう情報があったら、絶対に乗りません。たとえ「教習所の中で200メートル進むだけ」と言われても、私は、躊躇します。
まあ、でも、こう、趣味の世界で、一億円とか払って、ブレーキの壊れている車を買う富豪もいると思うんですよ。
でも、それは、自分の稼いだ一億円を、そのブレーキの壊れている車に使う美学ですよね。
私は共感しないけど、自分が共感できないからといって、誰かの価値観を否定するつもりはありません。
大谷翔平さんのユニフォームも1億円とか、それ以上とかの値がつくじゃないですか。私だってほしいですよ、大谷翔平さんのユニフォーム。でも、1億円払えないし、払う気も微塵もないです。ただ、どこかの誰かが1億円払ったってニュースを知ると、やっぱり大谷翔平さんってすごいんだな~って、なんだか嬉しいです。
話が逸れているようですが、研究者がエビデンスを作り出すのも、実務家がエビデンスを引用するのも、単なる価値観の発現の一つであって、誰かを折伏しようとしているわけでありません。
ほとんどの人間が合理的な判断なんかしていないことを科学的に証明したのが、行動経済学のはじめの一歩です。
エビデンスのとおりに行動できないなんて、非常にヒューマンでハートフルなエピソードです!
そして、その“人間らしさ”を前提にした支援こそが、私たちの役割なのかもしれません。
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