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健康になる技術大全

発売当日に増刷が決まったといいますから、すでに手に取った方も多いのではないでしょうか。

2000円という価格のコスパも高いと思います。

集団、社会の健康はもちろん、個人の、医療ではなく誰でもできる健康維持増進と疾病予防策に興味のある方は、ぜひ、参考にしてください。


3月1日の「パワハラ上司を科学する」の書評では書ききれず、次回はローカルルールについて書きますと締めたのに、昨日まで更新しなかった理由はまさに、この「健康になる技術大全」を読んでいたからです。

結構、ボリュームあります。

津野先生、ハナさんと連続して、ハーバード大学イチロー・カワチ先生のおかげで巡り会えたイチロー・チルドレンの著書を紹介できるのは非常に嬉しいです。ハナさんは渋幕卒業の才媛として、「あいつ今何してる?」というテレビ番組に出たんですよ!ちょうど2019年11月に、妊娠中のハナさんとイチロー先生とお寿司を食べたときに、翌年2月放映の番組の話題が出ました。私が会う人ごとに配っている、イチロー先生の「命の格差は止められるか」をプロデュースしたことでも有名ですが、当時のイチロー先生は、今ほど日本語ペラペラじゃなかったので、ほとんどハナさんが書いたようなものです。

大全という名称にふさわしく、巻末には索引と引用文献が掲載されています。うちわうけですがあとがきに知っている名前がどんどん出てくるのは楽しかったですし、文献を自分で当たれるのは、本当にありがたいです。


私も「公衆衛生をやっている」わけなのですが、実家の家族からはずっと「なんだかわからない」と言われ続けています。本書は8章から成り、まえがきで公衆衛生、第1章でエビデンスについての解説をしてくれた上で各論中も、公衆衛生やエビデンスの解説を具体的に示してくれるので、うちのかーちゃんも本書を読んだら「わけのわからないことはやめて、ちゃんとした病院に就職してほしい(泣)」なんて愚痴らなくなるかと期待はしたけれど、読んでくれる気はしません(笑)

せめて私や心陽に関わってくれる人々はぜひ、まえがきを読んで、心陽の主張する「臨床医療と公衆衛生の強みを活かす」という立ち位置に接してもらえたら嬉しいです。


本書には、エビデンスを知らずに公衆衛生施策を行うのは、免許を持たずに医療を行うのと同じくらい愚行だという表現が登場しますが、反対に、医療を行うには公衆衛生ほどエビデンスは重要ではなく、公衆衛生を行うのに免許は重要ではないことを示唆します。

つまり、医師だからといってエビデンスに基づいて集団を好ましい方向に誘導できるとは限らないので、会社など組織の従業員の健康に関する取り組みを支援させるのなら、医療資格ではなく公衆衛生の専門性に価値を置いて人選をすべしということです。

前回紹介した津野先生も、今回のハナさんも、帯を書いている西内先生も医師ではありませんが、公衆衛生や統計の専門性があり、臨床診療ではなく公衆衛生施策を行うときに専門性を発揮するのは医師ではなく彼らです。

ちなみに、両方あるからベストバイ!というのが、心陽のキャッチフレーズなのです。



たとえば、本書中にあるこちらのランキング(石田作図)ですが、毎日の生活の中で自分でコントロールできるファクターは、右側のリスク因子です。リスク因子の1位から7位までのほとんどが、左側の死因のほとんどに影響します。

タバコや酒や塩分、運動不足が健康に悪いなんてことを知らない人はいませんが、私たちは死亡リスクを下げるためではなく、人生を楽しみ、社会の役に立つために生きているのですから、リスクを避けることだけを求めることはできません。好物を食べたり、酒やタバコをたしなんだりすることを、死亡リスクのために我慢する人生が幸せでしょうか? 動画「健康診断の意義と受診後の行動変容」などで、日々、主張しているとおり、上記の項目では、リスク3位の高血圧と7位のピロリ菌を、医療の力を借りてクリアすることがおすすめです。高血圧がリスクというのは、高血圧症と診断されることがリスクなのではありません。普段の血圧が高いことが問題で、測定時の血圧はそれを予測しているにすぎません。降圧薬を内服していても、内服しないで放置している人と血圧が同じなら、リスクも同じです。血圧×拍動が血管壁に与える物理的なストレスの積分値(蓄積量)と血管が持つ固有の脆弱性との兼ね合いによって、動脈硬化の進行や血栓の形成、血管壁の破綻が決定するんです。個人の持つ血管の性質なんて変えられませんから、今すぐ内服で血圧を下げて血管のダメージを最小限にするほうがいいというのが、公衆衛生×臨床医療の私の主張です。

7位のピロリ菌は、いるかいないか検査して、いたら除菌する、That's ALL です。陽性だったらショックだから検査しないというのは、もったいないですよね。ましてやバリウムを飲むなんて無意味どころか有害です。


公衆衛生がベースにあるハナさんや,、健康保険組合の保健指導をする保健師たちは、私のようにズル(?)して医療を使いません。本書はメンタルショートカットを、「十分な情報がないまま、直感的にどう感じているかで素早く判断をすること」、「精神的近道」と説明していますが、私の山廃的主張は、いわばロジカルショートカットで、ズルかもしれませんが違反でもありません。山廃を手抜きという人もいますし、確かに手抜きなのですが、どのプロセスをやみくもに省いても、すべからくおいしい酒になるわけではありません。

ナッジを用いた健康施策は、メンタルショートカットで正しい選択をさせるように誘導するということで、安い、うまい、早いはまさに、システムⅠが行うメンタルショートカットに最も訴えかけるファクターです。しかし、そのためには普段より知恵や工夫や時間やお金などのコストをかけて、省プロセスで結果を出す仕組みを構築しなければいけないわけで、それが本書のタイトルにある「健康になる技術」なんだと私は思います。


保健指導について、皆さんがどれだけご存じか知りませんが、成人病健診の結果に応じて、保健師による保健指導を行うのは、健康保険組合の努力義務です。事業者(会社等)に労働安全衛生法で義務付けられる法定健診は事業者が従業員に受けさせる義務と同時に、従業員に受ける義務があり、受けなければ法令違反です。どんな雇用契約でも、上流の法令を破ってはいけないと明示してありますので、受けなければ懲戒の対象になるということです。でも、保健指導は受けなくてもいいし、そもそも、事業者(会社)とは関係ありません。

そして、保健指導によって、期待された効果は出ないことが科学的に証明されています。効果が出ないことが証明されることと、むしろ有害であることは異なりますので、勘違いはしないでください。

だからこそ私は、この本を保健指導を行う保健師たちのマニュアル本とするよう、厚労省が通達すればいいと思います。私が接する従業員も患者も、理論的な説明には一目置きます。科学的エビデンスの有無や詳細を伝えるだけで、自ら行動を選択できるのです。

食事の部分には、同じくイチロー・チルドレンである、津川先生の「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」も教科書として追加してほしいですね!


睡眠の項目は私が公衆衛生×臨床医療のさらに洗練された解決策を提案しますので、直接、心陽にどうぞ!

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