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Yoko Ishida

ただの人にならない「定年の壁」のこわしかた

ベストセラー作家で公認会計士の田中靖浩先生の新刊新書、【ただの人にならない「定年の壁」のこわしかた】に、なんと私、石田陽子の名前が掲載されました!


もちろん、好ましい文脈で!(笑)

悪徳産業医としてではありません。ちなみに田中先生には以前から、「家政婦は見た」的なイメージで、「産業医は見た」事件簿を書籍化してはどうか、とオススメされています。


私の名前が登場するのは、本編最後の第3章【定年後は「助けられ力」がものを言う】の15節あるうちの13節という、エピローグまで残り10ページを切ってからなので、ぜひ皆さんは最初からじっくりと読み進めて、私の出番をお待ち下さい。


医師というのは伴走するコーチであって、かわりに走ることはできません。専門的な知識や技術、そして経験によって、よい走り方を提案し、解説し、実行を支援するコーチングはできますが、命令することも、禁止することも、結果を保証することもできません。

そんな私との診察中の会話をヒントに、元気なうちに主治医を見つけておくことの重要性を宣伝してくれました。


田中先生の診察では、こんな話もしました。

医療保険や生命保険は、病気になったり、亡くなったりしたときに、どうしてもかかってしまう金銭的なコストを補うための投資です。いくら優れた保険に多額の保険料を払っていても、病気になったり、亡くなったりしたときに、本人や家族が払う犠牲は、金銭だけではありません。健康や命はプライスレスで、いくら保険で補填されたとしても、病気になったり、亡くなったりしたほうがラッキーだったと思う人はいないでしょう。


この本のメイン・ターゲットになるのは、「定年」にリアリティが出てきた40代後半から、前期高齢者くらいかな~と思いますが、となると国民の死因第3位の老衰は心配無用です。 日本人の死因の多くを占める心臓病(第2位)や脳血管疾患(第4位)等の心血管系イベントの9割以上は予防可能だという科学的エビデンスがあります。私が、この9割を防ぐ意識を働く皆様に持っていただきたい理由は、心血管系イベントは予防が可能で、症状なく突然起こり、生活習慣を容認していた家族を自責させるからです。働く者たるや、自分の仕事の責任は自分で取りたいものですが、心血管イベントは余命宣告もなにもなく突然訪れ、仕事を中断させ、生活を奪い、医療費がかかり、ときに後遺症が残り、仕事や命を失ってしまいます。

主治医探しは、いつはじめてもよいですが、会社で行う健康診断結果の、高血圧、脂質異常症、糖尿病の項目に所見があったら必ずはじめましょう。こちらの動画は、ちょっと前半が硬いですが、ぜひ参照してください。

死因第1位のがんの中にも予防や早期発見が可能なものはあり、可能な予防はオススメですが、がんとまとめても、その病態は臓器や種類や進度によって多様です。「悪性新生物<腫瘍>」というカテゴライズに課題あり、という気がしますが、どんなに進行の早いがんでも、心血管イベントのような突然死はしません。

また、老衰が関係ないわけではなく、Dモードで働く人の多くが行う睡眠不足のように健康から遠ざかる行動の影響は、寿命の先から響いてくることも忘れてはなりません。今は会社に尽くしておいて、定年後は、のびのびしようと思っても、会社のための睡眠不足が、会社と離れたあとの貴重な時間を蝕んでいることを忘れないでください。


死なない人間はいませんが、できるだけ健康寿命を伸ばして、人生を楽しむための戦略を、専門職コンサルタントである主治医に練らせて伴走させるのは、妥当な選択です。

ひとたび医者なんかに助言を求めたら、科学的エビデンスをかさにきて、酒や煙草やグルメや恋愛などなど、楽しいことからやめろ、やめろとガミガミ言うのにちがいない、と思っている方も多いかもしれません。

あしからず、医者は、好ましくない、不健康な行動を取り締まる警察官ではありません。

私は、健康上は有害なことが明らかでも、好きでしている行動を無理してやめるのはオススメしません。

私たちは、つまらなく寿命を伸ばすためではなく、人生を楽しむために生きているはずです。

ていねいに振り返ってみると、好きでもないのに習慣になっている不健康行動は必ずあります。

それをできるだけやめて、同時に医療の力を借りるだけで、多くの方は目に見えて結果が出てきますので、あとは、その気になってどんどん健康行動を進めていけばいいだけです。


ちなみに著者の田中先生も、治療をはじめてから、書籍中に出てくるCPAPのアドヒアランスがたいへんな優等生なだけでなく、全然勧めていないのに運動習慣を自ら獲得し、睡眠時間を伸ばして、みるみる健康になっています。

不思議なもので、医療機器や薬の力を借りて、あきらかに治療効果が出てくると、みんなひとりでに健康行動を足していきます。

この現象は、私のような専門家には不思議です。私なら、「薬でリスクが下がったんだから、酒は増やしちゃおう」って思いますが、「せっかく薬でリスクが下がったんだから、酒も控えてみよう」と考え、行動する人が、非医療者に、圧倒的に多いのです。


さて、書評になっていないので、書評に戻ります。

タイトルは「~~こわし方」ですが、全然、破壊的な内容ではありません。それどころかむしろ、壁があるなんてのは、思い込みだよ、と、教えてくれているように思います。

ノミの実験をご存知ですか? 瓶に蓋をして、ノミを置いておくと、蓋を開けても瓶の蓋の高さまでしか飛ばなくなっちゃうんです。(動画はこちら

「定年の壁」なる概念も、Dモードな人々が作り上げた都市伝説のようなもので、とっくに蓋はあいているのかもしれません。


第一章は【ただの人にならない「定年後」のすすめ】で、私は自分に一切Dモード的な要素がないことを痛感すると同時に、現在、仕事で付き合うことの多いDモードな方々のトリセツを教えていただいたようで、非常にすぐに使える知識になりました。

その気になって新しい名刺のデザインをあれこれ考えるのは楽しかったです。

そしてこの章でも、 病気にならなければ、医療費と時間の節約ができますから、これは貯金と同じ意味を持ちます。

「健康な身体」は貯金と同じ金銭的な価値を持つ

と書いてあります。

健康とお金はトレード・オフの関係です。健康になるためには、お金がかかるし、貧困は健康を障害する大きな社会的要因であることが、社会疫学研究で明らかになっています。

ただし、健康への投資が掛け捨て保険と異なることは、健康な身体はお金をつくることができる、貯金と同じ金銭的な価値を持つということです。

つまり、保険は疾病リスクそのものには影響せず、運悪く、疾病に罹患した場合に確実にかかる高額支出を補うための積立で、疾病による生産性の低下は防ぎようもありません。最高の結末は、疾病に罹患しないことですが、その場合は掛け捨てになります。心理的には、高い保険をかけたほうがリスクを下げるような気がしましますが、それは幻想です。でも、その心理の背景には、お金と健康がトレードオフという科学的な事実があるかもしれませんね。 一方、受診を含む健康行動は疾病リスクそのものを低減し、生産性の低下や中断とは無縁に、お金を稼ぎ続けることができる未来への投資であり、リターンは無限に拡大できるのです。 もちろん、最大限にリスクを低減しても、不運にも疾病に罹患することはありえます。そのときには、「助けられ力」を発揮しましょう。そうなったときのためにも、社会において、できるだけ「助けよう力」を発揮して、その「助けよう力」で、お金も作っておくのが賢明です。

保険をかけても健康にはなりません。繰り返しになりますが、医療保険の審査を通すために、必要な治療をあとまわしにするなんていうバカげた発想を捨てて、世界一、費用対効果の高いお得な専門職コンサルを、7割引きで受けてください。


第2章【現役世代のための「フリーランス思考」のすすめ】で嬉しかったのは、重富さんとおなじ書籍に載れたことです。と、とんちんかんな感想ですが、まあ、私の書評を読んでも健康にはならないし、実際の書籍を読むほどおもしろくもないので、本編はご自分で読んで下さい。


田中先生は、これまで多くの著作があって、恥ずかしながら、私は全部読んでいるわけではありませんが、私の一番好きな作品は、【会計の世界史】です。いつか、こんなスケールで「睡眠医学の世界史」を綴れたら、どんなに気分がいいでしょうか。

そして、一番、参考にしている作品が、【米軍式人を動かすマネジメント: 「先の見えない戦い」を勝ち抜くD-OODA経営】です。もともと、病院から出てビジネスの世界にやってきたときから、世間のPDCA信奉が苦手だったので、PDCAじゃなくてもいい、っていうだけで、すごく自由で幸せな気分になったのを、よく覚えています。


もちろん、はじめて読む方はぜひ、【ただのひとにならない「定年の壁」のこわしかた】をどうぞ!



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