生命が奏でるリズム
- 石田陽子 Yoko Ishida
- 4月13日
- 読了時間: 4分
先日、FBにこんなことを書きました。
1日のリズムは人の一生に似ていると気付きました。
睡眠中に生まれて、起床後12時間まで生産性の高い成人で、その後は認知機能等あらゆる生体機能が低下して眠りに就く・・・睡眠で生き返るという「ことわり」にあらためて納得しました。
久々の書評です。竹林正樹先生のビジネスパーソンのための使える行動経済学の書評で「優れた書籍は書き出しの一文が秀逸である」という法則に話をしましたが、この本の書き出しは、
「朝」、「月曜日」、「冬」―――。
この3つに共通するのは、病気になりやすいタイミングです。
なかなかおもしろい書き出しです。

読み進めるうちに、この本が「生命のリズム」への深い敬意と、美しい世界観に満ちた一冊であることに気づかされました。
まず驚いたのは、体内時計や時間生物学という分野の歴史が意外にも浅いということ。
私たちが当たり前のように感じている「朝起きて夜眠る」というリズムも、科学的にはまだ十分に解き明かされていない部分が多いのです。
さらに、私たちの体には、概日リズム(24時間周期)だけではなく、実にさまざまな周期の体内時計が存在していることにも驚かされました。呼吸、心拍、さらにはホルモン分泌など、無数のリズムが、知らず知らずのうちに私たちの生命を支えています。
各章の冒頭には、シェイクスピアの『ハムレット』など文学作品からの引用がさりげなく添えられており、科学だけでなく、人間の文化や哲学にまでリズムというテーマが浸透していることを感じさせます。この小さな演出に、著者のセンスと遊び心を感じました。
ハムレットのセリフがこちら。
【むつかしい病気はむつかしい手段によってしか癒やされぬもの、ほかに道はないのだ。】
そのとおりですね、だからこそ、難しい病気にならない社会づくりが大切です。
【生命の中には多様な体内時計が整然と刻印されていて、リズムとメロディーとハーモニーを変化させながら、"生命のシンフォニー"を奏でています】
こんなおしゃれなポエティックな表現があるかと思えば、ガンガン理論派なところも面白いです。
また、宇宙飛行士が宇宙に滞在すると体内時計がリセットされ、ある種の「若返り」が起こる可能性があるという話も、未来への想像力をかき立てられるトピックでした。重力や昼夜のない世界で、私たちのリズムはどのように変わるのか。生命と宇宙の関係に、新たな視点を与えてくれます。
時間治療はプレシジョン医療(精密医療)で、EBMのような疫学データに則るのではなく、個別最適化を測る医療です。
まあ、実臨床もEBMは前提だけど、現実的にはプレシジョン医療です。
EBMが浸透した結果、エビデンスがないからと治療を諦める医者が実際に出てきています。
それでいて、エビデンスとガイドラインの違いもわかっていないような・・・
実は我々医者はけっこう自由で、好きなだけプレシジョン医療をしていい立場だと私は思っています。
そういう普段の臨床スタイルの背中を教えてもらえたような気もします。
一般の方(非医療者)には、やや難しいところもあるかと思いますが、ロマンティックな部分もあり、何より正確で、膨大な参考文献はWEBで参照できるので、勉強になります。
私の書籍でも、参考文献問題は編集者とだいぶモメたんだけど、実際に、読んでくださった方から、 「私には、引用文献リストがないのがちょっと残念でした。P34 OECDやP47 GDPはちょっと検索すれば出てきますが、P72 図9やP74ランド研究所の損失、P79カナダの研究などは、リストがある方がずっと早く参照できます。」というご指摘をいただきました。
こういう方法があったか、と膝を打ちました。
ただ、私の編集者は、書籍には、URLを入れることもできないと言ってたので、どうなったかはわかりませんが・・・
話がそれましたが、体内時計の神秘を知る良著ですので、オススメです。
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