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ビジネスパーソンのための使える行動経済学

石田陽子 Yoko Ishida

「ビジネスパーソンのための使える行動経済学 - ナッジ理論で人と組織が変わる」竹林正樹(大和書房)

 

津軽弁のナッジでメディアでも大人気の竹林正樹先生とは、公私ともに、たいへん親しくしています。 竹林先生との交流は、私にとって自慢できる数少ないエピソードのひとつです(笑)


実は私が専門にする社会疫学と行動経済学は重なる部分が多く、私の恩師であるイチロー・カワチ先生とのご縁が、竹林先生と私がぐっと親しくなるきっかけでもありました。


竹林先生は、生活の中で役立つ具体的なナッジを教えて下さいますが、この本は満を持して、更に私の専門である、産業保健、健康経営に歩み寄って、ビジネスパーソンのための働き方ナッジをテーマにしています。


私はビートルズが好きです。


最近は、めっきり本を読まなくなりましたが、10代の私は本の虫で、毎日、睡眠時間を削って、貪るように本を読んでいました。そして気付いたひとつの法則は、「優れた書籍は書き出しの一文が秀逸である」です。


書き出しの一文で、本書が名著であることを確信しました。読了後、その確信は裏切られませんでした。

だから、この書評コラムを読むより、ダイレクトに本書を読んでいただくほうが、有効に時間を使えます。


どなたでも本書から、きっと、なにか、働くヒント、生きるヒントを、得られるはずです。

「正論通りに行動できる合理的な人間なんていない」と気付くだけで、いろんなことが楽になります。

普段から、職場で困っている人を、ほんの少しでも楽にするために活動している私にとっても、たくさんのヒントがありました。

行動経済学をそれなりに分かっている人も、初めて触れる人も、きっと楽しんでいただけます。


スマホ依存を防ぐには?


125ページでは日本人の睡眠不足を示すデータとして、米国のシンクタンク、RAND研究所のデータが用いられています。これは私がよく引用するので、竹林先生との会話でも話題にしたことがあり、もしかしてこの部分は私の影響ではないかと期待してしまいます。まさに竹林先生に教えていただいた、「自分が参加している(ように錯覚する)と、その創作物に対する愛着が何倍にも増す」効果によって、ますます宣伝意欲が増しました。


ここで竹林先生は「依存」という言葉を用いていますが、睡眠不足はじめ好ましくない行動の

背景には、まさしく「依存」があることが多いです。


先日、ある企業のセミナーで、20代の若い独居の従業員が、「帰宅後、夕食を摂り、入浴して、洗濯してからではないと寝れない」と発言しました。


私は驚いてポカンとすると同時に、こんなふうに人は、知らぬ間に自分に呪文をかけて、なんらかに依存してしまうのだな、と感じました。


「〇〇しないと、□□できない」という感覚は、依存です。


「夕食も入浴も洗濯も、睡眠には必須じゃない」と私が説明しても、全く共感してもらえませんでしたが、家族と同居している50代の先輩従業員が、「最近、私は帰宅直後にシャワーを浴びています。そうすることで、今まで、こだわっていたいろいろな順番が、さほど重要じゃないことに気付きました」とコメントしてくれたときには、少し表情が動いていました。


よく知らない専門家の言葉より、身近な先輩の言葉のほうが響くのですね。


これも一種のナッジかな、と思います。

竹林先生は、寝床に入ってから、くよくよ余計なことを考えるのを防ぐため、ご自宅の天井に、「それ、今、必要?」というメッセージを貼っているそうです。


私たちが、「〇〇しないと、□□できない」と超常識のつもりで信じ込んで疑わない行動の中には、本質的でないものがたくさんあります。

「◯◯しなきゃ(・_・;)」とテンパってしまったとき、「別に必要ないんじゃない?」、「今日は〇〇しないで、□□してみるか」と発想を転換できると、少し気持ちが楽になるかもしれませんね。


生産性が向上するハラスメント対策


最近、ハラスメントに関する仕事が重なっています。「パワハラ上司を科学する」の書評でも書いたとおり、職場のハラスメントを撲滅するためには、トップマネジメントの強すぎる本気が不可欠ですが、国内のほぼすべての企業に、そんなトップマネジメントはいません。


多くの被害者は直接というより間接的にモラルに欠ける言動に傷ついています。これは直接的なハラスメントを肯定する発言ではありませんが、多くの加害者は、私は相手を選んで、空気を読んでやっているからハラスメントじゃない、と言いがちです。


法律が変わり、特定の言動は、法的に、「ハラスメント」と認められるようになりましたが、法的にハラスメントと認められない行為がハラスメントではないわけではないこと、それどころか世の中のハラスメントのほとんどは、法的にはハラスメントと認められないことに注意が必要です。


それなのに、法的にハラスメントと認められる要件を解説するハラスメントセミナーが多いのは残念です。私たちが目指すべきは、法的に真っ黒なハラスメントではないのはもちろん、グレーな部分さえない、真っ白なコミュニケーションです。


「叱責を受けた人は事務処理能力や想像力が60%低下」(130ページ)するそうです。それどころか実際には、叱責を受ける人をそばで見ていたことが、休職のきっかけになる場合もあります。ハラスメントは職場の生産性を大きく損ねるのです。


同じ130ページによると、「説教が長い人」が最もハラスメントで訴えられているそうです。私が研修医だった頃、感染を防ぐには施術のスピードを上げることが一番だと主張する指導医がいました。ちょっとユニークな上司でしたが、確かにプロセスが少なく、時間が短ければ、感染リスクは減ります。

ハラスメントで訴えられるリスクも同様で、どんなコミュニケーションでもリスクはありますが、コミュニケーションがコンパクトであれば、ハラスメントで訴えられるリスクは減ります。


ところが「パワハラ上司を科学する」にあるとおり、パワハラ上司には、長い説教で武勇伝を語るタイプの傍若無人な専制型の他に、多様性尊重や自由放任の仮面を借りたネグレクト型がいます。後者の場合、必要なコミュニケーションが不足して、業務支援が得られない部下は、孤独に苦しみます。

長い説教と同様、ネグレクトもリスクです。


それを解決する竹林先生の神アイデアが「指導は2分以内」です。

PREP法で最初と最後に重点を置き、あえてゆっくり話すことで、認知バイアスが作り出した言葉が暴れ出すのを防ぎます。

実はこの部分を読んだあと、実践しようと練習しているのですが、非常に難しいです。

もしうまくできなくても、実はこういう挑戦をしてみているんだ、と素直に部下に共有してみるだけでも悪い空気にはならないと思います。どうでしょうか。


・・・・・


さて、不親切でよくわからないから購入して読んでみようと思っていただけるのが、私の書評の持ち味です。

決して後悔させませんので、ぜひ読んでみてください。


心陽でサイン入りの書籍を扱っております。お問い合わせください。

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