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気力、体力が、あるうちに休もう

「あなたらしくないこと」は、休憩の合図


別の記事を探していて出てきた自分のFBの投稿に、「入浴事故死、秋田では交通事故死の5倍...厳寒期に6割発生」という題の読売新聞の記事に触れたものがあり、その記事の中の、

高齢者が入浴中、危険を感じても、

「症状が表れたときには既に自分で助けを呼べない状態になっている」

という部分を読んで、これって、どの疾病でもその通りだよな、と思いました。


毎日、産業医面談をしているので、ときどき、支援が必要な労働者と会話をする機会があります。

多くの人々は、業務上のストレスや疲労を感じながらも、元気に生命活動を営んでいて、産業医の出番なんて不要です。でも、人はだれでも、ときどき、自律神経のバランスをくずしてしまいます。


ときどき、自律神経のバランスをくずすのは、人生において、たいしたイベントではありません。

労働者でなくても、どんな環境や立場で生きていても、生きているうちには、ときどき、経験します。

たぶん、無人島で自給自足をしていても、ときどきそういう状態になるでしょう。

風邪をひいたり、失恋したり、食べすぎたり、徹夜したりで、アンバランスを経験をするのは、正常範囲内の、ひどく当たり前の、生命活動のうちです。

こういうアンバランスが発生したときは、数時間~数日程度の休養をしっかり取ると、たいてい復活します。


アンバランス発生時は、まだ、なんとか仕事ができちゃうので、私のような「医者」なんて嫌な名前のついた人間が手を差し伸べようとすると、

「まだ、大丈夫です。本当にダメになったら自分でわかるので、そのときはちゃんと、自分で休みます」

と言うまじめな労働者が実に多いんです。

でも、それでは間に合わないことがあります。


記事の中にも、「症状が表れたときには既に自分で助けを呼べない状態になっている」ので、「事故防止には、入浴中の人への頻繁な声かけが有効だが、実際には一人暮らしの人の方が入浴事故に遭いにくい傾向がある。同本部は、家族などの同居人がいることで油断が生まれるとみており、『体調が悪いときや飲酒したときは入浴を避けるなど、自分の身は自分で守ることを意識してほしい』と呼びかけている」とありました。

自分の身は、自分で守ることが大事です。


私は麻酔科医として術前の説明で、術後の疼痛管理について患者に話しておくことが多いのですが、我慢して我慢して我慢しきれなくなってから声を上げるのはやめてくださるよう、お願いしています。

そのときにはもう激痛になっているし、創部の炎症だけでなく、「こんなに我慢したのに助けてくれない」という心理的な苦痛も重なっていて、とても難しい、激しい、緩和しづらい痛みになってしまっています。


火事もボヤなら消しやすいよね、と説明して、痛みがあったらちょっと大げさに、早めに声かけしてくださるよう、お願いしています。

病棟では、残念ながら、「ちょっと待ってくださいね」と順番に対応しなければいけない場面が多いです。けっして後回しにしているわけではありません。

だからこそ、皆さん、始終、忙しそうなスタッフに気を遣って、何回か我慢をしてくださるのだと思うのですが、我慢して、痛みがよくなることは、絶対にありません。


わざわざ、看護師を呼ぶほどでもないけど、ほんのり痛いかな~、から始まって、次第に痛みが気になって、だんだん、痛みのことを考える時間が増えてきます。

そういえばさっき、我慢できない限界の痛みを10にするとどれくらいか聞かれて、3と答えたけど、今はもう倍くらいにシビア、でも、それって、6ってこと? さっきの答え間違えた?? 8くらいになるまで呼んじゃいけないのかしら、と悶々として、もう無理!と、最後の力を振り絞ってナースコールを押したとき、

「ちょっと待ってくださいね、順番に伺いますね」と、明らかに自分より切羽詰まっていない誰かが優先されるのを目撃しようものなら、痛みと怒りで爆発しちゃいます。

前半の、ほんのり痛いかな、で呼んでくださると、もっと具合の悪そうな誰かに譲るくらいの心の余裕がありますし、そうしていただけるとスタッフとしてもたいへん助かりますので、余裕をもって鎮痛できます。


さて、仕事によるアンバランスケアも、術後の痛みケアと同じです。

早めの手当が、誰にとっても一番オトクです。


少し前には、本当にダメになったらわかると笑顔でこたえていたけれど、そういうところに今はもう、きているんじゃないか?と尋ねても、アンバランス状態が遷延し、低空飛行が続いてくると、最近の不調で自分の評価が下がっている、自分はパフォーマンスを出せていない責任を取らなければいけないし、仕事ができていないのに休みを取るなんて権利はない、みたいなことを言い出します。


「大丈夫です、自分が悪いことはわかってるんです、自分がダメなことはわかってるんです、大丈夫ですから、ほっておいてください、会社には言わないでください、評価が下がります」と、かたくなになります。

もちろん、あなたの仕事を評価するのは会社の大切な役割ですが、仲間であるあなたが回復するまでの間、リマネジメントするのも、会社の重大な役割なんです。


あなたに期待されている100の成果があげられなくても、突然、永遠に0になるよりは、計画的に一定期間0になるほうがリマネジメントしやすいし、早いうちほど、短期間の、ゼロではなくて80とか、60とか、35とかの調整で、元に戻れる可能性が高いです。

会社としても、そのほうがずっと有利です。


もし、今の自分が、100の成果があげられていない、と焦ったら、あげられるまで休んで回復するのを待とうと考えてほしいです。エネルギーは使った分、チャージする必要があります。

回復や適応には普段以上のエネルギーを使うので、特別に疲れたときには、特別なチャージが必要です。

いつもと違う、スーパーチャージが必要ですよ、というサインが、自律神経のアンバランスなんです。


パワー回復のためのチャージです。

本来のあなたには、100の成果をあげるポテンシャルが確実にあります。

今、あげられないのは、風邪や二日酔いと一緒、一時的なパワー不足です。

そして、周囲の人に対しても、同じような視点を持ってほしいです。


仕事は複雑で面倒で責任があり、イライラしたり、憂鬱になったり、不安になったりする局面があって当然です。仕事の絶対量が増えたり、職位が上がったり、拘束時間が増えたり、時限性が厳しかったり、毎日の誰でも、どんな業種でも起きる事情で、イライラや憂鬱や不安の発現率が増えていくのは、仕事をしていれば当たり前のことです。

イライラするのは交感神経優位の証拠、つまり火事場のクソ力を発揮するパフォーマンス最大モードです。そうじゃなきゃ、こなせないくらいの仕事を、あなたはこなしてるってこと、すごいじゃないですか。


私は面談でよく皆さんに、イライラするのは当たり前のことだけれど、いつものあなたならイライラしないところでイライラしたり、いつものあなたなら当然イライラする局面でイライラする気になれなかったり、仕事でのイライラが、帰宅してくつろいでいるときにゆりもどしのように襲ってきて、ご家族にきつい態度を取っちゃったりしたときは、自律神経のアンバランスに気付いてくださいとお願いしています。


特に異動直後は、「いつものあなた」を知らない人が多いから、いろんな深刻な状況の前段階でもある「らしくない」状態に、気づけないことがあります。「らしくない」状態では、自分の「らしくなさ」に、自分で気づきづらいというのも「らしくなさ」の特徴なので、一番は、家族など、身近な人の言葉が役に立ちます。


まじめで仕事熱心な人ほど、仕事のことは家には持ち込まないと言いますが、社内の機密を共有するわけではないので、「異動後、楽しそうね」とか、「昇進後、痩せたんじゃない?」とか、家族の言葉には、素直に耳を傾けてみてください。もし、家族に「らしくなさ」を指摘されたら、ちょっと自分を振り返って、頑張りすぎていないか、無理していないか、自分の体と心に、甘く優しく、問いかけてあげてください。


「らしくなさ」への最高の手当ては、たくさん眠ることです。

週末を使うのもいいでしょう。1日1回、たっぷり眠ってください。

毎日、8時間以上、5日以上連続して眠っても、気分や体調のもやもやが一切軽減しない場合は、受診してみましょう。

もやもや以上のレベルの気分や体調の悪化の場合は、すぐに受診してくださいね。

我慢で解決するアンバランスは存在しません。

我慢はアンバランスを育てて、本物の病気にしてしまうこともあります。

早め早めに大げさな手当てを心がけましょう。




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