1⃣ 科学的エビデンスがある、2⃣ 社会的推奨があるか、少なくともどちらかを満たす社内施策で、健康経営を実践しましょう。
健康経営施策のKPIは、その実施率、浸透率に設定しましょう。 健康診断受診率、ストレスチェック受診率、年次有給取得率等、法定項目の実施で連続100%を達成するころには、ノームの力が浸透して、組織の正義にコヒージョンを高めた従業員たちが、自律的に企業の健康経営を後押ししてくれます。(「ノームの力」については、こちらのコラムをごらんください)
高額なヘルスケアアプリ等、法定外施策の利用率は数%にとどまることが多く、コストを投じたキャンペーンによる成功例でも15~数十パーセントの報告しかありません。仕事の手を止めてでも利用させる価値があるのに科学的エビデンスのないアプリなら、就業規則で義務付けるなどして、社会的妥当性を追加してから採用して、使用率をあげましょう。
【簡単なルールを守る】
健康経営施策のような社内プロジェクトを評価するためには、科学的エビデンスがあるか、法令等による社会的推奨がある施策を選択して、その実施率(浸透率・受講率など)向上、つまり100%の継続を目指しましょうと、前回のコラムでお伝えしました。
ルールは簡単で、科学的エビデンスがあるか、社会的推奨のある施策を選択するだけです。
『法定健康診断の実施』はOKです。すばらしいですね。
「健康診断なんて義務じゃないか?!」って、そのとおり、「社会的推奨あり」ですね。ちなみに、従業員の科学的増進に科学的エビデンスがあるかどうかは、私は知りません。たとえ、なくてもいいでしょう、社会的推奨があるんですから。
『健康診断のKPI』は、当然、『受診率』です。毎年100%なら、来年も100%を目指して、毎年、達成しましょう。
なにかをするときに、ルールを守るのは大切ですよね。
オリジナリティー、独創性は同様に大切ですが、会社の施策においては、絶対にルールが優先します。
将棋盤に碁石やチェスのコマを置くのは、インテリアとしては芸術的かもしれませんが、対戦中ならルール違反で失格です。
会社というのは、そもそも社会のルールに従って存在しているものなので、社内施策でもルールを重んじましょう。
ルール上、義務事項は実施しなければならないし、禁止事項は決してしてはいけません。オリジナリティーを発揮したいなら、実施義務事項をクリアして、推奨事項で検討しましょう。禁止事項に違反しないようにオリジナリティーを発揮して、実施したとみなされなかった場合でも法令違反ではありませんし、実施と評価されれば、ラッキーです。
だからストレスチェックなら、セルフケア支援のリテラシー提供や職場環境改善などで、会社の個性を出すことを推奨します。
皆さんの健康経営を支援しているとき、この前提が理解されなくて困っちゃうことがよくあります。簡単なことですが、つまづきやすい入り口でもあるので、くりかえし解説します。
最初の設定がうまくいけば、そのあとはどんな方法でもうまくいくことが多いです。
科学的エビデンスがあるか、法令による社会的推奨があること、または両方の施策を選択するよう提案したときに多いのが、「先生の意見はわかりましたが、うちではこういうことをやりたいんです」という反応です。
もちろん、私はコンサルタントですから、クライアントの希望する施策に科学的エビデンスや法令による社会推奨がなくても、依頼に応じて、その実行を支援します。
とはいえ、私のコンサルタントとしての専門性が、臨床医療と公衆衛生学に基づくものなので、その妥当性を検証するプロセスをすっとばすわけにはいきません。
当たり前ですが、傷害や盗難に加担しておいて、「お客様のご依頼に従ったまでです」という言い訳は酌量されません。そもそもコンサルタントは専門性が高いから意思決定から支援しているのですから、お客様の犯罪は止めましょう。
明らかな犯罪ならわかりやすいですが、科学的あるいは社会的なバックグラウンドでNGな施策をクライアントが選択しようとしているときには、少なくとも、その自覚があるのかどうかは確かめておかなければ、プロ失格です。
ちなみに、科学的エビデンスや社会的推奨は、私の知識ではありますが、意見ではありません。施策決定のあと、KPIの達成しやすい具体的な対策提案の優先順位設定では、意見に近いコメントが出るかもしれませんが、基本的には意見は述べません。 一方、自社内では意見しか述べませんので、メンバーは苦労しているでしょう。ごめんね!いつもありがとう。
【公衆衛生家と医師の役割】
国や企業など、特定の集団を管理する組織に対して、その特定の集団に対して、社会全体をより良い方向に変えていくような健康関連の具体的な介入策を提案し、その実行を支援するのが公衆衛生活動です。
私の関わる社会疫学や労働衛生は、公衆衛生の領域です。
この具体策がユニバーサルで持続可能な全体最適解であると、管理組織に納得させるための根拠となる知見が、科学的エビデンスです。
また、企業に必要なコンプライアンスを強化する目的に、管理組織に提案するのが法令や政策等による社会的な推奨です。
医師の仕事は、その対象が患者個人主体ですが、家族や所属企業等、患者個人の属するコミュニティーの力を借りることもあるので、完全に公衆衛生家と区別はできませんね。私は患者個人の診療で、社会全体をより良い方向に動かしたいと思っているので、目的は同じです。このへんは医師によって多様かもしれません。
人は多様なので、他人である患者の人格を完全に理解することはできないので、私は患者という個人に対してもユニバーサルな最適解かつ制度設定内の方法を第一選択にしますね。もちろん、ユニバーサル系、「私だけ特別」系、とにかく安い系、化学的な薬はMG系など、好みがわかればプロとして寄せていきます。ただし、それは集団相手でも同じです。
ルール上、医療行為には資格が必要ですが、公衆衛生家には不要という大きな違いがあります。
これが企業がヘルスケア事業に参入するときに最高に羨ましい点です。全世界をよくする新事業の提案では、科学的に正しくなくても、法令で禁止されていなければ、自由に挑戦してください。
「おなかが痛いから痛み止めをください」と診察室を訪れた相手に、代金と引き換えに麻薬を渡すのは、医者ではなく「ヤクの売人」です。傷害や盗難同様、明らかな犯罪ですね。
それでは、依存性や耐性がなく、副作用が少なく、最も一般的な痛み止めである非ステロイド性消炎鎮痛剤を処方するのは、医者でしょうか。少ないとはいえ、胃炎など頻度が高く、患者の背景によっては重篤な転機にもつながる副作用はありますから、喘息やアレルギーなどを含め、しっかりと病歴を聴取した上で、胃粘膜保護薬を一緒に出せば充分でしょうか。その説明の途中で、お腹の痛みの原因として胃部が疑われてはじめて、別の薬を選択するのでしょうか。
痛みの性質や期間、関連するイベントやライフスタイルなど、細かく話を聞いていって、はじめて医者としてするべきことが見えてきます。希代の名医ではない私には、「おなかが痛いから痛み止めをください」の一言で、ユニバーサルな処方はわかりません。
話を伺っているうちに、「先生にお話していたら、気持ちがスッキリして、おなかの痛みがなくなりました」とおっしゃる方もいます。だからといって、その場で心因性だと決めつけて、それ以上、診察しないで帰してしまうのでは足りません。
消化器が動いていないことが原因の場合は、動かす治療が必要になりますが、物理的な原因で動いていない場合は、化学的に動かそうとすることで症状が悪化します。
消化器が動きすぎている場合には、何か積極的に排泄したい理由があるのかもしれず、これもまた動きを抑えて症状を止めるだけだと、体によくない影響を与える原因が残存、蓄積してしまうかもしれません。
おなかといっても消化器だけでなく、腎・尿路系や性別に特有の臓器、皮膚や筋肉や脂肪がありますし、心臓や脳など、おなか以外の部分の異常で起こる場合もあります。
正しい診断と処方をしても、その薬を本人が正しく服用してくれない限り、効果は現れません。本人が正しく服用してくれる、生活習慣を改善してくれるためには、どうしたらいいかというところまで、考えなければなりません。
腹痛の原因が締め付けのきつい仕事のユニフォームで、サイズ変更にはお金と時間がかかるので、とにかく我慢して働かなければならないときは、着るなと指示しても無駄です。
交代勤務で1日3回服用のタイミングがわからなくて、治療をやめてしまう場合もあります。自己中断後に再受診するのは勇気がいります。
医療にはルールがあって、診断名と処方が決まっていて、原則として、そのルールに従わなければなりません。ルール内で、患者ごとの多様性に対応します。
医療のルールは、会社のルールより、だいぶ厳しいです。実診療では科学的エビデンスよりルールのほうが優先されるので、ルールをかいくぐる知恵を、かなり要求されます。
だからこそ会社の健康増進施策ならなおさら、はじめから、どういうやり方をしても社会的なルールに違反しないような施策をおすすめしているのです。
【ノーブラで買い物に行く】
今、「ひろゆき流ずるい技術」という本を、番頭からの宿題で読まされていて、賢いという社会的コンセンサスの高い西村博之氏とシンクロニシティが多いので、非常に機嫌がいいです(笑)。
そこで、極端な例を当てはめるという戦法が紹介されていました。私も極端な数値を代入して説明することが多く、本日は休日でもあり、どうせ誰もコラムを最後まで読んでくれていない疑惑もあり、少し、ふざけてみます。
ひろゆきさんの本の紹介は、またの機会に詳細にお届けしましょう。
さきほど、着衣の締め付けがなんらかの不快感や愁訴の原因になることがあるという例をあげましたが、ブラジャーって、けっこう窮屈なものです。最近ではかたちを整えることを目的に、眠っている間のブラジャーが販売されていますが、健康増進や疾病予防の科学的エビデンスがあるかどうかは知りません。たぶん、ないでしょう。睡眠衛生の専門家としての視点ではおすすめしません。
さて、私は自宅でくつろいでいるときは、鬱陶しいのでブラジャーをしませんが、ちょっとおつかいに出るときにブラジャーをするのも、ひじょうにめんどくさいです。冬だと、ダウンジャケットや分厚いコートを羽織るという必殺技があるので気にしませんが、夏になると迷いますし、冬でも宅配便の受け取りなどでは、ブラジャーをするか、コートを羽織るか、迷います。室内でコートは不自然だけど、ブラジャーより動作は楽です。でも、どうせ不自然ならノーブラも同じで、配達員がノーブラかどうか気にしている可能性は極めて小さく、バレたところで通報されるわけではありません。むしろ、室内でコートを羽織っているほうが、ノーブラばれや不審者扱いのリスクは高いのではないでしょうか。
ちなみに、欧米では日本ほどブラジャー装着率は高くなく、トップレスという文化があり、アフリカには常識的な装いが日本の裸に近い民族もいます。ただし、今、この話題のためにネット検索したら、そういう民族の写真を性風俗的な目的に使う日本のページがたくさんあったのは不愉快だし、残念です。反対に、バングラデシュ出身の方にすれば、日本の銭湯で裸になるのは相当な屈辱だったそうです。
ところが先日、このどうでもいい話題で、「ノーブラの中年女性が外出してたら、どう思う?」と訪ねたら、「モデルか帰国子女かと思う」って答えた青年がいました。たしかに、前述のように日本以外ではノーブラは珍しくありませんし、パリコレのモデルは確実にノーブラです。以前、テレビで見ましたが、パリコレのバックヤードではすごいスピードで衣装チェンジが行われているそうです。洋服は、ありのままの体が美しく見えるようにデザインされているのだから、洋服に合わせて矯正するのはおかしな話なのかもしれません。デザイナーの本領は下着なしのほうが発揮できるでしょう。たしかに私は、和服のときは、ラインが出るので下着をつけません。
それにしても! ノーブラはだめなこと、ズボラの象徴と感じていた私にとって、「モデル(スタイル抜群の超美人)」とか、「帰国子女(海外在住経験ありの語学堪能なセレブ)」とか、大枚はたいてでも手にしたいハイスペックにつながるアイテムだとは目からウロコでした。
「エッチな気持ちにはならないの?」とおそるおそる尋ねたところ、「ならない」と即答でした。たしかに、モデルか帰国子女なら、チャラいナンパの成功率は低そうです。
なんでこんな話をしているかというと、「ノーブラで外出する」という施策は、ブラジャーの装着が体にいいという科学的エビデンスやノーブラの禁止法令がないからといって、わざわざそのプロジェクトを行う妥当性が感じにくいので、万が一、そういうオリジナリティーを出したければ、「モデルか帰国子女に見えてかっこいいから!」というNORMを浸透させてからじゃないと、従業員はついてこないと思います。
もうひとつ激しくどうでもいいエピソードを加えますと、私は16歳くらいまでひどい偏食で牛乳とマグロの刺身とユッケビビンパとてっちりの雑炊以外は積極的に食べなかったんですけど、それくらい大好きな牛乳を、ある日、やめました。それは、新谷酵素の新谷弘実先生が、「牛乳なんて、牛でも子供しか飲まない」と著書で書いていたからです。正直なところ、新谷先生のシンパでもなく、新谷酵素も飲んだことありませんが、この表現だけ微妙に刺さって、牛乳に対していっさい魅力を感じなくなってしまいました。
まあ、このくだらないエピソードからわかるように、ひとりひとりに腹落ちする理由を与えるなんてたいへんなことで、「全員が心から納得したい当社らしい施策を実践したい」と思うんだったらまず、貴社らしいほうほうで、ユニバーサルな施策を実践してみましょう。
【もっと妥当な例示:Googleにきいてみる】
ちょっとふざけすぎたので、この記事を紹介します。
"What KPIs should we use?" We get asked this more often than “How are you?”.
「どんなKPIを設定するべき?」って質問は、「こんにちは」より多いよね、という一文から始まるこの記事を読むと、ともかく、利用率を高めることをKPIにするべしってことがわかるのではないでしょうか。
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