• 陽子 石田

医療政策としてのSAS健診

最終更新: 2020年11月18日

ACCJ–EBC 医療政策白書2017年版

在日米国商工会議所(ACCJ)は、米国企業40社の代表により1948年に設立された日本で最大の外国経済団体の一つで、欧州ビジネス協会(EBC)は、16カ国からなる在日の欧州商工会議所および経済団体の貿易政策を担当する機関です。

在日欧州企業の貿易、投資環境改善について、1972年設立以来、活動を続けていて、2年に一度、エビデンスに基づく世界のベストプラクティスを紹介することにより、今後日本政府が適切な政策を策定し、その政策を実行していくことを支援するために白書をリリースしてくれています。

05 睡眠時無呼吸症候群の検診の普及

現状①

睡眠時無呼吸症候群患者の健康維持管理にとって、早期発見は最重要課題である。2015年時点、日本には300万人を超える睡眠時無呼吸症候群患者(成人人口の有病率は2~4%)がいるにもかかわらず、わずか354,000人(有病者の約12%)しか治療を受けていない。 これは自らの健康状態に気付かず、病状も認識していない「潜在患者」が、多数存在しているということである。


睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングを、ポピュレーションに対して行なった研究がないので、真の有病率を知るのは困難です。

検査を受けて新たに睡眠時無呼吸症候群と診断される人のほとんどは、なんらかの自覚症状があって受診しているからです。


株式会社心陽が独自に行なった、企業または健康保険組合の健康管理業務に関わる、まったく自覚症状のない従業員32名(女性9名、平均年齢48.3歳)を対象にした研究では、簡易型PSG検査の結果、正常はわずか5名(16%)、軽症12名(38%)、中等症10名(31%)、重症5名(16%)の睡眠時無呼吸症候群が観察されました。 これは成人人口の有病率が2~4%では済まないことを示唆するもので、まだまだ睡眠時無呼吸症候群の放置による大きな生産性の損失が隠れていそうです。

現状② 睡眠時無呼吸症候群は睡眠を分断し、慢性的な眠気を引き起こすばかりか、高血圧、心臓麻痺、脳卒中、心臓不整脈のような深刻な循環器疾患を引き起こす要因となる。 いくつかの研究では、適正な治療を受けていない場合、睡眠時無呼吸症候群患者の累積生存率は、治療を受けている患者と比べると大幅に低くなるということが立証されている。 日本で提供される治療は先進国と同等であるにもかかわらず、潜在患者に睡眠ラボで検査を受けさせるための努力は、不十分である。 未診断・未治療の睡眠時無呼吸症候群は社会に大きな損失をもたらす。未治療睡眠時無呼吸症候群患者は、睡眠時無呼吸症候群に罹患していない人に比べ、自動車事故率が7倍も高いと推定されている。 日本では、2003年に起きた新幹線運転士の居眠り事故がよく知られている事例である。 心臓と脈管からなる循環系は、身体のすみずみにまで酸素を届けるために発達しています。 充分な呼吸がないために酸素が不足しているのに、体は血液の循環が不足していると誤解して、どんどん循環系に負担をかけます。 負担をかけて仕事が増えるのに、そのエネルギーとなる酸素が不足しているのですから、循環系のあらゆる障害が起きます。 循環系にあらゆる障害を受ければ、全身に障害が及びます。 CPAPによる睡眠時無呼吸症候群の治療をはじめれば、心筋梗塞を発症留守リスクが10分の1になり、寿命が10年延びるという研究結果もあります。 心身の障害による体調不良と、睡眠不足による眠気によって、日中の生産性は著しく低下します。 運転しないからよいというものではありません。 治療抵抗性の慢性疾患の多くは、睡眠時無呼吸症候群の治療によって解決します。 治療開始直後から、見た目がみるみる若返り、明らかに生産性の向上を自覚できます。

現状③ 現在米国で持続陽圧呼吸療法(CPAP)を受けている睡眠時無呼吸症候群患者数は300~500万人おり、日本の20~30倍に相当する。 この数字は米国で睡眠検査が幅広く普及していることによる。 人口1万人につき、日本では睡眠ラボ1床であるのに対し、米国では5~10床であると推定されている。 また米国では睡眠時無呼吸症候群の睡眠検査に対し、医師に診療報酬として平均1,000~1,500ドルという大きなインセンティブがある。 睡眠時無呼吸症候群が引き起こす合併症の深刻さを考えれば、その予防と治療は公衆衛生に必要な投資といえる。 睡眠分野の国際学会では、米国はじめ各国のスリープフィジシャン(睡眠専門の医者)やスリープクリニック・スリープラボ(睡眠専門の医療機関)の不足が、よく話題になります。 日本は、2010年の調査で1000人あたりの病床数が13.6床と他のOECD諸国から抜きんでて多く、米国は3.1床でした。 つまり、一般病棟のベッド数が4.4倍にもかかわらず、睡眠ラボの病床数が10~5分の1しかない、ということです。


米国の簡易型PSG検査供給の大手企業、NovaSom の公開したデータでは、自宅で行なう睡眠検査の件数が、2012年から2017年までで約5倍に増えていることがわかります。 米国におけるインセンティブは、日本円で12万円~16万5千円の計算になり、米国には日本のような公的保険はないので、基本的には自費診療です。 医療機関の言いなりになりがちな日本の受診者と異なり、医療サービスの受け手側も非常にシビアなのが米国の特徴ですが、これだけ検査数が増えるということはそれだけの利益があるということです。 米国では10万円以上の高額でありながら、これだけの検査数のある睡眠検査は、日本では、診断料を入れて9000円の診療報酬です。初診料の2880円を加えても、最大の3割の自己負担額で3560円です。 高い社会保険料を支払い、体に悪いバリウムを飲み、高額なDNA検査に自らの唾液を送る日本国民が、どうしてこれだけすばらしい検査を積極的に受けないのか、私には不思議でたまりません。 医療機関が宣伝しないのは当然で、検査受託料をメーカーに支払うと、実際の対面診療やそれに伴う人件費を含めた諸経費はほとんどまかなえず、完全に赤字になる診療だからです。 ACCJが提言してくれるように、ここは医療機関にもっと大きなインセンティブを与えた上で、国を挙げて睡眠検査と治療の必要性を喧伝し、多くの国民が治療にアクセスできるようにしなければなりません。 もちろん、自費で20,000円程度の検査として一般化すれば、メディカルツーリズムとしても芽があります。 これからオリンピックで多くの外国人がやってきますし、皆さま、必ず「宿泊する」のですから、自国では高価な睡眠検査を日本品質で安価で行えるオプションとして、大きな需要があるでしょう。 検査のために、夜はおとなしくゆっくり眠るはずですから、騒音や部屋の汚れの防止にもなりそうです。

現行政策① 現在、厚生労働省は終夜睡眠ポリグラフィー、および簡易式の携帯終夜睡眠ポリグラフィー(脳波計測機能なし)による睡眠検査の診療報酬を認めているが、終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査の診療報酬金額は1検査当り、わずか33,000円(一泊入院)で、これには部屋代や睡眠ラボ技術者の人件費は含まれていない。報酬レベルの低さは医師にとって診療の十分な動機付けになっておらず、もう一方で、患者にとっては自己負担額の多さが阻害要因となり、睡眠時無呼吸症候群検査を受ける機会の減少につながっている。 健康保検制度によるCPAPの導入基準に関しては、欧米の多くの国では1時間当たりの無呼吸・低呼吸指数が5以上で導入が可能なのに対して、日本では20以上と基準が非常に高く、他国では治療を受けられる患者でも、日本では適切なCPAP治療が出来ない。 米国から見ると、日本の診療報酬制度はまったく意味がわからないと思います。私自身、麻酔科医として大病院の手術室で専門性だけを発揮して人々の命を救う日々を送っているときには、まったくこの不条理な世界を知りませんでした。 ちなみに、終夜睡眠ポリグラフィーは少し改正されて、スリープラボで専門のスタッフが夜通し管理を行なう場合は47500円、自宅で行なう場合は35700円になりました。それまではどちらでも同じ33000円でした。 現在、自宅でできる簡易型睡眠検査の精度がどんどんよくなり、フルPSGとの相関も科学的に認められていますので、皆さまはまず、保険利用3560円、または自費11000円で、簡易検査を受検して下さい。 診断基準としては、簡易検査でもフルPSG(終夜睡眠ポリグラフィー)でも、1時間のうち、一定以上の低呼吸~無呼吸が起こる平均値(起こったすべての低~無呼吸イベントを検査中の睡眠時間で除します)である「AHI(無呼吸低呼吸尺度)」が5以上なら、睡眠時無呼吸で、AHIが15未満なら軽症、30未満なら中等症、30以上なら重症という診断基準です。 この基準は、ほぼ、世界共通です。 ところが、ACCJに記載されている20以上はあくまでフルPSGの基準で、簡易検査では40以上(重症の基準が30なのに!?)で保険診療の適用となります。 つまり、簡易検査で重症と診断されても、AHIが39.9だったら、もう一度、入院費を払って高額なフルPSGを受けるか、自費で治療せよ、ということです。 参考までに、日本の高血圧の基準は収縮期血圧140mmHg以上か、拡張期血圧80mmHg以上で診断されますが、国際的な基準は130と80が一般的です。 それはさておき、日本の降圧薬の投与基準としては、上腕でのマンシェット測定により140か90を上回ったものという制約はありません。つまり、医師が「高血圧症」と診断すればそれでよいのです。 もちろん、正常血圧の人でも血圧を下げれば心血管イベントのリスクが下がることが科学的に明らかになっていますので、高血圧症の診断がまちがっていたとしても、あまり有害な事象は起こりませんから、それ自体はよいことだと考えます。 実際、「過去、一度も血圧を測定しないまま、降圧薬を投与され続けて、不信感を覚えた」という声をよくききます。 高血圧には何の症状もありませんが、数値が高いほど心筋梗塞や脳卒中になるリスクが高まるので、そのような非生産的なイベントを避けることを目的に、数値は115/65を目指して降圧します。 数値さえ下がればリスクは減ります。どんな手段でもかまわないから、数値を下げさえすればいいんです。 治療薬は効果はもちろん、普段、私たちが摂取する食物より、ずっと安全性が確立されています。 規則正しく服用しても、数値が目標に達しない場合は、お薬の量や種類を変更、増量して、目標を達成する処方を見つけます。それは医師である私の仕事です。 しかし、規則正しく服用するのは、患者であるあなたにしかできません。 また、喫煙や食事の塩分、肥満などのあなたにしかコントロールできない生活習慣が血圧に影響します。 こんなふうに治療をしますが、睡眠時無呼吸症候群もまったく一緒で、AHIを5未満になるようにコントロールして、5未満になる設定さえ決まればあとは自動運転です。 睡眠時無呼吸症候群の治療は降圧薬以上に安全で、症状の全くない健康な方が用いても健康が増進するだけで、いっさい有害作用はありません。 米国のメディケア・メディケイドという低所得者向けの社会保障では、AHI20以上の国民は無料で3ヶ月間、睡眠時無呼吸症候群の治療が受けられます。 7割以上の国民が3ヶ月の無料期間終了と同時に治療をやめますが、残りは継続します。 なぜ継続できるのか、参考にした論文では追っていませんでしたが、もちろんその方が生産性が高まり、治療を継続できるだけの収入を得られるからでしょう。 多くの中断する人々も、治療の継続までの収入には至らなくても、治療の重要性は感じられたはずです。 同じような取り組みが、なぜ国民皆保険の日本でできないのでしょうか? 日本ではコストパフォーマンスの高い検査はもちろん、純国産のグッドデザイン賞を受賞した美しいCPAPをはじめ、世界中で使われるすばらしい治療のすべてを、どの国よりも安価に受けられます。

現行政策② 定期的に行われる健康診断は、様々な生活習慣病の早期発見の重要な機会となっている。 睡眠時無呼吸症候群を治療しない場合、多くの生活習慣病に結びつくことが懸念されている。 健康診断における睡眠時無呼吸症候群の検査については、国土交通省より2003年に出された事業用自動車の運転者に対する通達のみで、一般従業員に対する指針はない。睡眠時無呼吸症候群罹患率が20%程度といわれている成人男性に対しては、何の指針も示されていない。 さらに女性においては、閉経後に女性ホルモンの分泌が低下する事により、閉経前に比べ閉経後は睡眠時無呼吸症候群の発症率が2~4倍程度高くなるという報告がある。 また、女性の睡眠時無呼吸症候群は男性の睡眠時無呼吸症候群と異なり、日中の眠気やいびきを伴わない場合が多く、自身や第三者に指摘されない事も多い。 放置すると様々な生活習慣病の引金となり、患者の健康リスクが高くなるため睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング検査に対するさらなる取組みが必要である。 私の論文でも触れたとおり、日本には「恥の文化」があり、他国以上に、「夜のいびき」をオープンに相談しにくいです。 ベッドパートナーに対しても、はっきりとものを言えないことが多いのですが、それが、愛する相手の健康障害を引き起こすとわかれば、態度は変えられるはずです。 制度化するのには多くのハードルがあるかもしれませんが、企業単位で従業員の健康と生産性のため、睡眠検査をしてみるのは大いにメリットがあると言えるでしょう。

政策提言

  • 睡眠時無呼吸症候群検査の公的医療保険制度の診療報酬レベルを引き上げる。

  • 睡眠検査がより充実している他の先進国に肩を並べるために、CPAP治療の導入基準の見直しを行う。

  • 定期健康診断時の取組みとして、成人男性と閉経後の女性へ睡眠時無呼吸症候群検査を導入する。

外国と比べた睡眠の質への満足度とパフォーマンスと睡眠の関係

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: 以降 SAS)の88%以上の日本人が治療を受けていない、米国の30分の1しか治療を受けていない、検査によって医師が得られるインセンティブが5分の1以下・・・・・・これらの情報を知ってあなたはどう感じましたか。 サノフィの調査では米国だけでなくフランスと日本、3国の睡眠を比べていますが、満足度や日中のパフォーマンス、不眠や眠気を感じた際の解決の仕方、専門家へのアクセスなどで日本が大きく2国の下流にいるという格差が明らかになりました。 また、以前のブログでもお伝えし、ACCJ白書の24)でも触れられているとおり、日本は諸外国に比べ異常に多い量のベンゾ・非ベンゾの処方を行なっています。サノフィの調査をみると、米仏と日本では医師への相談、医師の診察の意味合いが異なっているように思えます。 MSDの調査では不眠症の疑いのある層は日中のパフォーマンスが3割以上ダウンするようですが、ファイザーの調査による不眠の自覚とAISによる不眠の測定による解離をみると、ホンモノの不眠とパフォーマンスの関係はさらに大きくなる可能性が高く、睡眠質問紙とPSGの結果の解離をそこに載せるとなると、耳を塞ぎたくなるような睡眠時無呼吸や不適切な処方によるパフォーマンスの低下率が見えてくるようで恐ろしくなります。 まずは検査をして、自分の睡眠と向き合ってみてはいかがでしょうか。

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