FBに書いたんですが、長いので、こちらでも紹介します。
最近、睡眠関連の広告にひどいものが多いです。
いびき専門医はいません
日本睡眠学会では、睡眠診療の専門性の高い医療機関へのアクセスを上げるため、「睡眠」を標榜診療科に追加するよう、国に働きかけています。
私は、日本は世界でも珍しく自由標榜制なので、自分の専門外の科でも、勝手に標榜してしまえる一方で、標榜できる診療科名に制限があるという矛盾が課題だと思っています。それは「知る」ことで、解決する課題なので、皆さん、この機会に知ってください。
日本では、診療科を自由に標榜していいんです。
「何科で開業しているんですか?」ってよく聞かれますけど、標榜科を尋ねても、専門性は知れません。
新渡戸稲造は「センモンセンスよりコモンセンス」と生徒を指導したそうですが、そのとおりで、学問バカじゃなくて、社会のいろんなことや世の中の価値観の多様性を知っていて、友だちが多くて、高度専門性が必要な局面ではきちっと適切な医療機関につないでくれるのが、よい開業医です。
つまり、頼りになる友達みたいな存在が、理想のかかりつけ医です。
あなたの親友と誰かの親友が違うように、誰にとってもベストなかかりつけ医なんていなくて、あなたにとってベストなかかりつけ医の答えを知っているのは、あなただけなんです。
「友達に医者がいたらいいよな」と昨日も聞きましたが、そういう視点でかかりつけ医を選べばいいんですよ。友達だったら、自分の価値観についてわかってくれているから、適切な診療をしてくれると考えるのではないでしょうか? だったら、友達に対してと同じ気持ちで、かかりつけ医を尊重してください。
医者だからどーにかしてくれて当然だろ、みたいな態度では、友だちになりたくありません。
「センモンセンスよりコモンセンス」で、友として価値のありそうな医者を選びましょう。
「看板に書いてある」から専門性が高いかどうかもわからなければ、「看板に書いていい用語に制限がある」なんてことは、誰も知らないわけで、【こんなとき、何科に行ったらいいのか?】という疑問は、常に皆様の受診もやもやランキングの上位にいます。
より正確には「看板にはもっと好きなこと書いていい」のが事実で、標榜科の制限というのはあくまで「届け出」の話です。まあ、おかげで「睡眠外来」と看板には書いていいので、皆様に睡眠が得意ですよと伝えられるのはありがたいことです。
ここで紹介したら、面白かったので、コラム【「標榜科」って知っていますか?】から一部抜粋します。
たとえば「性病科」は標ぼうしてはいけなくて、新しく「性感染症内科」が認められたんですけど、おそらく、性行為についても外性器の異常についてもオープンに誰かに相談しにくいこともあり、「性病科」って検索するんじゃないかと思います。婦人科かな? 泌尿器科かな? 内科じゃないよな? 性病科なんてないよな? という期待を込めた逡巡の先に「性病科」があるような気がするので、性病科でいいと私は思います。「性感染症内科」なんて検索する人いますかね?
そのとおりで、いびきを治したい、中絶したい、抜け毛が気になる、、、一般の方が自分のリアルなモヤモヤをダイレクトに検索すればするほど、怪しいサイトに導入されてしまう仕組みを助長しているのが、標榜制度なのかもしれません。
だから、本日皆さんに伝えたいのは、「いびき専門」医療機関なんて、標榜してもいけないし、存在しないんだよってことです。
日本睡眠学会では医学部において睡眠についての授業をコア・カリキュラムに入れることも、標榜科同様働きかけているくらいです。睡眠の授業がないのに、いびきの授業なんてありません。いびきは症状であって疾病ではありません。
本日はとうとう「いびき専門医」なる広告も見つけましたが、そんな専門医はいません。まあ、実在する専門医に関しても専門性より専従性の意味合いが強いので、患者視点で「私にとってベストな医者」を探すうえでは、あまりあてにならないでしょう。
【いびき専門クリニック】とか【いびき専門医】とか、そんな表現は全部ウソです。
呼吸しやすい枕なんてない
これも、フェイスブックの広告から飛んだ、枕のページで、すごく大きく何度も「呼吸の通りやすさ170%にUP!」って書いてあります。
1回換気量は、文字通り、1回吸って吐いてする気体の量で、まあ、呼吸の大きさなんて毎回違いますが、だいたい、体重(kg)の7~8割の10倍(ml)くらいです。つまり、50kgだと350~400mlくらい。20代~40代(3人なら、年齢3つ書けばいいのに)の男性が78kgくらいの体重なら驚かないので、590mlは普通です。
一方、肺活量というのは思い切り呼吸した、MAXの1回換気量で、この被検者だと4L 以上です。だから、簡単に1Lなんて出るわけです。
また、検査結果をよく見る人なら知っている通り、このスパイロメトリーは非常に属人的というか、説明によって結果が動く検査です。換気障害診断のきっかけにはなりますが、一発で確定することはありません。睡眠時無呼吸症候群の診断に用いることはありません。
広告には、「呼吸が浅いままだと睡眠時無呼吸症候群につながる」と書いてあるんですけど、睡眠時無呼吸症候群は深呼吸で予防できるような病気ではないので、皆様どうか、高いお金を払って、枕を買ったり、診断につながらない検査を受けたり、レーザーで焼いたり、のどちんこを切ったりしないで、まず、国に認可された検査を医療機関の医師のもとで、3500円~で受けてください。
同じように、「CPAPがやめられます!」というキャッチフレーズで舌下神経刺激療法につなぐ広告もあったのですが、これは、国に認められた治療です。とはいえ、検査をしないで舌下神経刺激療法に至ることはやはりありえませんので、まずはちゃんと検査しましょう。
睡眠時無呼吸症候群は終夜睡眠ポリグラフィーという検査でしか診断できません。口を開けただけで、あるいは口さえ開けず、無料で診察して、「手術すれば、睡眠時無呼吸症候群が治りますよ」と言うのは、全部ウソです。
あ!うちの患者で、私に深呼吸を勧められている方は、ちゃんと意味があるので、嘘だったのか!?と努力をやめないようにお願いしますm(*_ _)m. 深呼吸で睡眠時無呼吸症候群は治りませんが、交感神経の興奮を抑え、副交感神経優位になるには良い方法です。
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