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インフルエンザ関連ブログ(2015)

12月18日 健康行動のきっかけ


インフルエンザワクチン接種の前に問診をします。

まず、「インフルエンザワクチン接種を受けたことはありますか」と伺うのですが、多くの方は「あります」と答えます。


「インフルエンザワクチンって毎年やったほうがいいんですか?」というのも皆様がしがちなご質問ですが、毎年やる前提でエビデンスが揃っていると考えてください。

つまり、毎年やっていない人にとっては、ワクチンの効果などのエビデンスがどこまであてはまるかわからない、ということです。

科学的エビデンスのある健康行動を取りたいと思っているのなら、毎年やったほうがいいと言えるでしょう。


労働者の場合、企業が接種を推奨したり、費用を負担したり、健保の補助があったり、そのすべてだったりという理由で受ける方が非常に多いです。


これまでの習慣を変えて接種する方の一番多い理由は「昨年、インフルエンザにかかって辛かった」である、という研究があります。これはわかりやすい行動変容のきっかけですね。


ただ、私が主張する +(positive) ×+(positive) の動機作りとは少し異なります。

要は、「インフルエンザ罹患が[イヤ]だったから、本当は[嫌いな]注射をする」ってことですからね。


ところが、先日の患者さんの、生まれて初めてワクチンを打つ理由はステキでした。

「もうすぐ子供が生まれるから」


以前、ここでも書きましたが、社会に生きる者としてワクチン接種を受けるのは、社会の衛生を守るためという意義もあるということ、そして、社会には何らかの理由で望んでもワクチン接種を受けられない人々がいるということ、そのときは免疫不全を例に取りましたが、多くの医療機関では妊婦にも接種しないんですね。その理由はよくわからないし、面倒だから。一般の方が健康好行動を取らない理由と、医療機関がまともな診療をしない理由は同じ、というところがおもしろいですね。もちろん心陽クリニックは大推奨しています。

ライフステージのステキなイベントを行動変容の理由にするって素晴らしい意識ですよね。


インフルエンザに罹患したときのネガティブなあれこれを脅迫に用いて接種行動を勧めるのはまちがっています。

当然、接種後の副反応リスクについても説明しなければならず、さんざん、インフルエンザ罹患の苦労をきかされたあとでは、その副反応がひどく恐ろしいものに思え、でも、接種しなきゃならないような気もして、接種、非接種どちらの行動を選択しても、結局不安を持ち帰ることになってしまいます。医療者の仕事は患者を元気にすることであって、脅迫して不安を当たることではありません。


たとえば、喫煙者を含む人々を集め、喫煙の害を延々と語る講習と、喫煙については全然関係のない健康行動についての講習を行った場合、講習終了後に喫煙行動を取る喫煙者の割合は前者のほうがずっと高くなるエビデンスや、肥満の人々を集めて、甘いものの悪口をする講習と、摂食とは関係のない健康行動の講習をした場合には、直後にお菓子に手をつける人の割合とお菓子の摂取量が前者で有意に高くなるというエビデンスがあります。

医療者が治療の際に冒しやすい過ちでもありますが、よくない行動のリスクを煽るより、よい行動に報酬を与えるほうが開始のきっかけにも継続の理由にも圧倒的になりやすいんですね。

治療の継続効果は、初回や開始時の効果よりも知覚しづらいです。

いろんな不安が、必要な継続を患者に中断させてしまいます。

健康行動も同じです。

産業保健も仕事も一緒です。

充分な報償、それがやりがいであったり、収入であったり、ねぎらいであったり、形は様々でも、それを得られて、不安が改善されてはじめて人は健康になれます。

何かをしない理由や避ける理由ではなく、よい行いをする理由を探す癖をつけましょう。

だから心陽はグッドプラクティスを採用しています。


父になる、だから俺はワクチンを打つ。いいじゃないですか。


12月13日 スタチンとインフルエンザ抗体価

皆様が知っているようで知らない、だけど、一番知らなければいけない、法定健診の目的のおさらいです。


【法定健診の目的】

  • 脳・心血管障害リスクの把握による就業制限および適正配置(健診事後措置)

  • 早期発見・早期治療による医療費および医療関連コストの削減

  • 健康リテラシーの向上および保健指導の活発化

ちょっと難しいですが、すべての検査の目的でもあります。 結果に介入して、よい結果を維持もしくはもっとよく、そしてよくない結果を改善することが最も重要です。


調べるだけでは意味がない

だからといって、調べることに意味がないわけではありません。 次の性質もすべての検査に言えることですが、たいへん重要な一面です。


調べるだけでリテラシーの向上になる

このブログを読んでくださること、「特保」と記載されているお茶を手に取ること、健診の予約をすること、などの行動はすべて自動的に皆様の健康リテラシー向上に貢献していることです。

やるだけなら意味ないならやらないほうがいいじゃん、と無視してしまうよりは、会社がやれって言うからしかたなくやるほうが「やる」だけ前進しているともいえます。だから、これまで無為に健診を受けてきたことは全くのムダではありません。


でも、もっともっとムダのない健康行動を皆様に獲得してもらいたいのです。

誰だって「オトク」が大好きなはずです。


現在、5年以上、ほとんど数値(32.7%程度)も変わらず有所見1位なのが脂質異常なのですが、さて、脂質異常にどう介入すれば、結果がよくなるでしょうか。

それを論じなければ意味がありません。


そもそも脂質検査が現在のかたちになったのは平成18年のことです。 それ以前の平成元年からトータルコレステロールなどの項目はありました。 脂質異常が取りざたされはじめたのは、アメリカで心筋梗塞死亡率が高まり、心筋梗塞発症率と脂質過剰の相関が発表されたことがきっかけです。 この研究については、学術上いろいろな反論もありますが、それは置いておいて、現時点でのおおまかなEBMとしては、「心筋梗塞」をターゲットにする場合は脂質について積極的にとりくんだほうがいいということになります。

脂質は他の健康因子や疾患ともさまざまな関連が先行研究として出されています。 当然、脂質が高いほうがかかりにくい病気というのもあるわけです。 だから、自分がどんな疾患を避けたいのかをイメージすることも大切です。 はやりの遺伝子診断や家族歴、生活習慣などを参考にするのもおもしろいですね。

そこまでわかった上で、心筋梗塞を避けようと決めたら、さあ、どうしましょう? 脂質異常の改善に、食生活があまり関係ないというのはくりかえしご説明しているとおりです。 血圧のコントロールや禁煙は、直接脂質を下げるわけではありませんが、脂質を下げる目的が心筋梗塞予防と考えると、非常に意義のある行動だと言えます。 心筋梗塞予防をターゲットにすれば、食生活の改善にも効果はあります。 摂る脂質の内容改善を強くお勧めします。


トランス脂肪酸はゼロにしよう。


魚の脂のほうが肉の脂よりいい、のは事実ですが、どんな脂でもトランス脂肪酸よりいいんです。また、良質な脂肪は健康にたいへん有用です。 まずは手軽にできる禁トランス脂肪酸、禁煙や運動などの生活習慣改善がお勧めです。 余談ですが、今、揉めている消費税、トランス脂肪酸含有食品にはたっぷりかけるようにすれば、国民の健康食習慣に直結すると思うんですけどね~~。


禁煙や運動はどんな健康不全にも効果あり。(※運動の方法には注意が必要です)


単純に脂質を下げる場合は、スタチンなどの服用が効果的です。 一昔前のステロイドのように魔法の薬ともてはやされたスタチンですが、脂質異常同様、これまでにスタチンと他の健康因子との関連もずいぶん、研究がなされています。 行動変容には行動開始と行動継続の二つのステップが必要で、エネルギーを要するのでもっと有意義なことに使ってほしいんですよね。 スタチンは安全で安価で効果の高い薬です。もし、心筋梗塞を発症すれば、最高の経緯をたどっても莫大な医療費とアブセンティーイズムが発生し、最高の経緯をたどる割合は高くありません。治癒寛解後も心身の後遺症に苦しむことはどんな疾患でもありえるので、やはり、発症しないのがベストなのです。

もちろん、仮説計算をくりかえし、自分で予防に支払うべき額に納得する必要があります。

健診→脂質異常→スタチン内服には、医療機関に行く場合のアブセンティーズムの発生、医療費の増加という二つの点でコスト面のデメリットがあると考えます。また、一度にたくさんの習慣変化が難しい中で、内服を加えることにより、禁煙があとまわしになってしまうとしたら、もったいないです。禁煙はタダです。そして喫煙していた時間を別のことに当てられます。つまりプレゼンティーズム削減が期待できます。

しかし、今ならオンライン診療で禁煙と同時にお得に治療ができます。


必要と納得のもとで飲んでいる方はよいのですが、「減量して数値が正常化したからもう飲まなくていいんだろうけど、せっかく知り合いに紹介してもらって○○大学の○○教授に出してもらっているから」となんていう理由の方は今すぐやめてください。治療するのは自分です。


スタチン内服がワクチンの効果を減弱させるかもしれないという研究がありますが、それでもワクチンをしないよりはずっとましなので、必要な内服とワクチン、どちらもしっかりやってください。

中高年期のスタチン使用がインフルエンザワクチンの効果減弱に関連


 中高年者の心血管疾患の予防に広く用いられるスタチンの使用が、インフルエンザワクチンの有効性減弱に関連するとの2つの報告が米国感染症学会(IDSA)の機関誌に同時発表された。スタチンには脂質低下作用の他に抗炎症作用があり、ワクチンにより惹起される免疫反応に影響するのかが注目されていたようだ。

 1つは米・Center for Global HealthのSteven Black氏らがNovartis Vaccines社による資金提供を受けて実施した研究(J Infect Dis 2015年10月28日オンライン版)。米国を含む4カ国で実施された65歳以上の高齢者約7,000人を含む2009~10年の2シーズンに行われたインフルエンザワクチン〔A/H1N1,A/H3N2,B/Brisbaneの3価でアジュバント(MF-59)あり、なしの両方〕の臨床試験データを統合し、スタチン慢性使用の有無による同ワクチン接種後の抗体価上昇の違いを比較した。

 解析の結果、スタチン使用群では非使用群に比べ、3つのワクチン株に対する抗体価上昇が38~67%減少していた。同氏らは「抗体上昇の減弱はアジュバント添加の有無にかかわらず見られた他、スタチンによる影響の差もあった」と述べている。

 もう1つは米・Hubert Department of Global HealthのSaad B. Omer氏らによる大規模医療保険データベースの後ろ向きコホート研究(J Infect Dis2015年10月28日オンライン版 )。2002~11年の9シーズンのデータから、導入基準を満たした14万人を抽出。インフルエンザワクチン接種者の、スタチン使用の有無によるシーズン中の同ワクチンの有効性(急性呼吸器疾患による病院受診率の減少)を比較した。 複数の関連因子を調整し、解析を行った結果、スタチン使用群では非使用群に比べ同疾患による病院受診率の減少に対する有効性は弱いとの結果が示された。 同氏らは、今後より強固な評価項目であるインフルエンザ確定診断による詳しい検討が必要と述べている。

 なお、IDSAは同日のプレスリリースで、2件の新たな報告は妥当な方法で実施され、重要な問題点を提起したが、臨床現場に影響を与える結論の段階ではないと説明している。


11月16日 ワクチン接種の費用対効果


心陽では、一人一人の体が異なる有機体である以上、ベストな健康維持方法も異なって当然という考え方をしています。

その上で、介入そのものが心身ストレスにならないポピュレーションアプローチを主な手段にしています。


どんな介入であっても、まず批判的に検討してみてから、自己選択で行動に移すことです。この手順そのものが最重要であることは常に変わりません。

リテラシーは3段階、まず、自分が理解する、次に相手に伝える、そして批判する、このステップの先に行動変容があるわけです。

リテラシー強化の素材として、いくつかお勧めのページを記載します。

わかりやすく、信用できるのは毎年厚生労働省が出してくれる「今冬のインフルエンザについて」 (2014/15 シーズン) 、そして、国立感染症研究所の諸資料です。


私はこの2カ所からデータを取ってくることが多いです。

国際派はこちらもどうぞ。


インフルエンザワクチン接種のリスクから考えましょう。

まずは医療機関受診や接種料金などの手間とコストです。

それを企業の福利厚生費や心陽の集団接種で解決する方法は個人にとってはアリですが、企業にとってはどれくらい投資の意味があるでしょうか。


まず、目的を考えましょう。社員のインフルエンザ罹患率を下げる、下げることで生産性の低下を避ける、下げることで感染の連鎖を避ける、社員が世間で感染源になるのを避ける、罹患後の症状による社員の身体ストレスの低減などなどを、まず明確にします。

効果を大きく見積もるのを避けるため、試算には効果の出づらい数値を使います。

実際は研究対象集団の年齢、地域、シーズン(年度)によってばらつきがありますし、顕在感染を受診歴でしか測れないという制限があるので、罹患率は現実の感染率より極端に低く見積もられる可能性が高いです(効果はより大きくなることが予想されます)。


今年、値上がりが予想されるワクチン接種料金は4500円、介入なしの場合の罹患率7%、ワクチンの効果30%、一回受診による検査・治療費が600点、健康保険3割適用で1800円、プレゼンティーズムは抜きにして、アブセンティーズムを3日分とします。


従業員数をn人、平均日給をp円とします。

ワクチン接種コスト 4500n円(出張によりアブセンティーズムはゼロと仮定)

接種により減少する患者数 0.049n人

削減できる医療費 294n円

削減できるアブセンティーズム 0.147np円

ワクチン接種コストを有給ではない場合の就業停止(就業規則への明記が必要)とした場合、平均日給が30600円以上なければあわないということになってしまいます。そんな会社は滅多にないですね。

ただし、社員の目線でみると、接種料金が会社負担であれば4500円分のサービスを受け、6000円分の支払いと強制休業を免れるという非常においしい状態ですから、企業の福利厚生に対する評価が高まり、愛社精神が上がることでしょう。

ここでは罹患率を7%と計算していますが(これは実際に発表された研究の罹患率、ワクチン摂取率、ワクチン有効率から計算した最も低い数値です)、学級の過半数が罹患して休校になるなんて報道が毎年ありますし、企業でそれが起こる確率が非常に低くても、絶対に起こしてはならない事態ですね。


過半数になれば罹患率は50%以上になりますが、実は、この罹患率をたった1%増やした8%にあげ、接種料金を心陽特価の3080円にして計算し直すと、元の取れる平均日給が国内の平均日給を下回るのです。そして協会健保による接種補助(1500~3080円/人)を利用すれば、最初の仮定でも国内平均日給でおつりがきます。


インフルエンザワクチン接種には手間やコスト以外のリスクもあります。穿刺による痛みなどのストレス、血腫、出血、感染のリスク、ワクチンによるアレルギー反応などです。ワクチンには精製卵黄レシチンが含まれますので、過去に卵黄によるアレルギーが明らかな方は注意するべきでしょう。鶏卵アレルギーの方に多い原因は卵白やオボムコイドなのですが、この機会に調べてみるのも一つの手です。(検査後の行動を規定して、予測して検査を受ける例)

エチル水銀系防腐剤のチメロサールを敵視する人もいますが、成人で問題になる量ではありません。心陽ではチメロサールやホルマリン無添加の製剤を使っています。

(チメロサールについてもっと知りたい人はこちら

参考として、医療従事者では必ず打つ人、決して打たない人がいますが、それぞれ持論を持って結論を出しています。医療機関では職員に対し、概ね接種を推奨しています。私自身は毎年打っています。

添付の図はラブレ菌による研究から引用しています。乳酸菌などいわゆる健康食品、バイオジェネティクスの効用を主張しているメーカーもあるようです。


企業側のリスクマネジメントとしては企業内パンデミックを防ぐ、社員の衛生配慮義務を果たす、愛する社員を高熱や痛みから守る、全体としての生産性低下を防ぐ、企業努力に共鳴する社員の士気向上などの点から、ぜひ、集団接種をご検討くださるのがよろしいかと思います。その際、接種を強要することはできませんので、ご注意ください。






11月15日


インフルエンザワクチン接種を受ける患者さんからの質問で

最も多いのは、ワクチンが、

「いつまで効いているのか」です。 接種1~2週間後に抗体が上昇し始め、 接種1ヶ月後までにはピークに達し、 3~4ヶ月後には徐々に低下傾向を示します。 したがって、ワクチンの効果が期待できるのは 接種後2週から3~6ヶ月までと考えられています。 私は「効くまで2週間、よく効いているのは3ヶ月」 と答えます。 実際に、効果が出るまでに罹患した患者さんを見ることはありますが、 あきらかに効果が切れて感染する患者さんは見たことがありません。 高齢になるにつれ、抗体価が上がりにくい印象を持つ臨床家は多い反面、 年齢と抗体価の関係をしっかりと示すエビデンスはありません。 性差についても同様です。 しかし、MBSRの8週間トレーニング実施中に、抗体価の変動と左前頭葉の脳波を見た研究で、 ワクチンの投与にたいする抗体の量は、MBSR 実行者において、 4週目から8週目にかけて増大が見られました。 MBSRはマインドフルネス瞑想に基づいたストレスマネジメント法です。 ストレスマネジメントの心理的効果は当然自明ですし、心陽では ストレスマネジメントと仕事上のパフォーマンスの関係を強調しています。 それだけでなく、身体的な免疫も高めるエビデンスがあるというわけですね。 だからこそ、インフルエンザワクチンをせっかく接種するなら、 あわせてストレスマネジメントを実践することをお勧めします。


11月11日

巷にはさまざまな医療情報やヘルスケアネタがあふれています。

アカデミックに証明されていないことが多いのはもちろん、たとえ研究的に嘘ではなくても、実験室で最もよい結果を出す条件が、私たちの社会的な生活にマッチするかどうかは別物です。知識としては評価しても、いたずらに非医療者を扇情する意見を私は評価しません。

インフルエンザワクチンは毒であり、副作用だらけで、有害以外のなにものでもないという主張もその一つです。医療者(医師)である発言者が「私は絶対に受けません!」と断言していると、疑問に思います。 もちろん、インフルエンザワクチンの有効性は100%ではありません。有効性に関してはさまざまな数値がありますが、予防効果の研究結果にそもそも信憑性はないと考えられます。たとえば法定義務にまでなっている「ストレスチェック」の予防効果、いったいどれくらいか、厚生労働省は発表していますか? インフルエンザのワクチンもウイルスも生ものである以上、毎年、人それぞれに状況は異なります。 たとえば解熱剤の効果を調べる研究なら、平熱(これにも難しい定義を決めます)から2度以上高く発熱した人を対象にして、解熱剤を飲んだ群と飲まなかった群を比較します。熱が下がる度合いや時間、副反応などを調べるわけです。平熱の人の熱まで2度下げては困りますから、その辺も当然、調査されます。 しかし、ワクチンを打つのはまだインフルエンザにかかっていない人ですね。その人が打たなければかかるのかどうか、それは誰にもわかりません。研究デザインの難しい理由、察せられますね。

インフルエンザワクチンナンセンス派の主張する、市井の感染症にはどんどんかかり、ときには思い切り発熱するほうが免疫力が上がり健康になるという理論には賛成です。もし私が社会と接点のない学生だったら、ワクチン接種代も惜しいし、学校も休めるし、わざわざ受けはしないでしょう。 しかし医者になってからは必ず受けています。職業上、感染者にも免疫不全者にも非常に接触しやすいからです。どんな疾患でも健康不全があれば免疫は低下します。それ以上に特殊な疾患や治療、先天性の原因で非常に免疫機能が低下していて、健常免疫の人間にはなんてことない感染が致命的になる人々も多く存在します。彼らはできることならインフルエンザでも何でもすべての感染症をブロックし、あらゆる日和見感染を避けたいのですが、ワクチンそのものがまさに一般の人には平気でも致命的になる行為のひとつであるため、受けることができません。 また、感染源の宝庫と知りながら、治療のため医療機関に赴かなければいけません。それなら、医療機関で働く医療職が、せめて自分のできる予防をしないことに理由があるのでしょうか。

仕事をしていれば誰にでも、絶対に休めない日があります。発熱して出勤するのはプレゼンティーズムの問題以上に、ひょっとしたら他人を重篤な健康不全に陥れるかもしれない原因を作る可能性があるのです。アブセンティーズムを避けるだけなら、インフルエンザ症状が出ても黙って、診断さえされなければよいかもしれません。職場にはワクチンを受けたいけれど受けられなかった免疫不全や妊婦の同僚がいるかもしれません。取引先のお嬢さんは大学受験を控えて外出を避け、あえて事務所兼自宅で勉強しているかもしれません。そして、あなた以外の従業員は全員自費できちんとインフルエンザワクチンを受けたかもしれません。 それでもあなたはワクチンの有効性の低さを理由に受ける人を馬鹿にするような姿勢が正しいと感じるでしょうか。

コラボヘルスの一環として多くの企業では健康保険組合がワクチン接種費用の一部または全部を補助しています。また各企業はやはり、接種費用の一部または全部の補助を福利厚生の一環として行っています。アブセンティーズムを生まないように、就業時間中、しかも昼休みの間にいっせい接種する企業もあります。

もし、社内パンデミックが起こったら、大切なお客様がどれだけ困るかを考えれば、経営者の決断は容易だと私は感じます。

医者の仲間では、実際、ワクチン接種をしない人数のほうが多いように感じます。周囲の非医療者でヘルスケアビジネスに関わる(ヘルスケアリテラシーが高い、又は高いと思われている)人々の中でも受けない人数が多いです。知識をもとに自分の行動を決定するのは尊いことで、それにいいも悪いもありません。しかし、一方聞いて沙汰するなのことばにあるように、単にワクチンの悪口だけを耳にして、受けた人までをそしるような態度は社会人としてありえません。

とにかく、ワクチンを受けようと受けまいと、かっこいい社会人でいなくちゃいけません。


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