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【心電図異常】 健康診断異常所見シリーズ(1)

このコラムは働く人をターゲットにしているので、最もメジャーな健康診断は、労働安全衛生法66条に示される事業者と労働者の義務である健康診断、通称「法定健診」でしょう。


  1. 既往歴及び業務歴の調査

  2. 自覚症状及び他覚症状の有無の検査

  3. 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査

  4. 胸部エックス線検査及び喀痰検査

  5. 血圧の測定

  6. 貧血検査(血色素量、赤血球数)

  7. 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)

  8. 血中脂質検査(LDL・HDLコレステロール、TG)

  9. 血糖検査

  10. 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)

  11. 心電図検査


「右脚ブロック」や「ST低下」など、謎の所見が多く、所見の意味も、求められる事後の行動も、わからないランキング上位なのが、「心電図異常」ではないでしょうか。


健康診断で心電図異常、心電図所見が見つかったら、その健診結果を主訴に保険診療を受けることができます。私はいつも、「健診の有所見は7割引きクーポンの当選ですよ!」と伝えています。心電図だけでなく、どの項目の有所見が、どの検査のクーポンになるのか、今後、シリーズ化してお伝えしたいと思います。


心電図所見だけじゃなくて、胸部症状や高血圧症等動脈硬化性疾患の既往や家族歴がある場合は、必ず循環器専門の医療機関を対面受診してください。循環器専門の医療機関を受診して、心エコーで直接心臓の動きを確認してもらったり、聴診してもらったりしてください。

特に、昨年まではなかったST変化などの所見があった場合は、循環器専門の医療機関がお勧めです。


特に症状はなく、毎年同じ所見で、産業医にも心配ないと告げられている場合のお勧めは、自宅で簡単にできるホルター心電図検査による再検査です。

日本人の皆さんは、基本的に検査が大好きですよね。

自宅で検査&オンライン診療で完結しますので、生産性への影響も少ないです。

本日は最新のメドテック、自宅に届くホルター心電図を2種類、紹介します。


ホルター心電図はCVHRという尺度で睡眠時無呼吸症候群を予測することもできます。

心電図で睡眠時無呼吸症候群が予測できる通り、心電図異常、特に「心房細動」は睡眠時無呼吸症候群との関係も深いので、同時にSAS検査を受けることを強くお勧めします。


ストレスがかかると脈拍が増えます。ホルター心電図を着けて過ごす日は、イラっとしたり、ほっとしたりというエピソードをメモっておくのがお勧めです。ストレスチェックよりリアルですよ!


ホルター心電図、SAS検査、心エコー、聴診はすべて、侵襲のない安全な検査で、命にかかわる次の健康行動提案につながる優れた診療です。

もし、心配することがないとわかればラッキーですし、なにもなかったときの定点観測結果としても有用です。症状があってはじめて医療機関に来る方が多いので、症状のないときの検査結果と比較できると、貴重な情報になることがあります。

一度、お世話になっておくと、次に何かあったとき、受診もしやすいですよね。


面談していると、「本当にダメになったら、自分でわかるので、そのときに医者に行きます」とおっしゃる方、すごく多いんですけど、毎日出かけている会社にも行けないのに、はじめての医療機関を、探して、選んで、受診するって、相当ハードル高いですよ。 急ぎじゃないときに、余裕をもって、いざというときに相談できるかかりつけ医との人間関係をつくっておきましょう。


従来、ホルター心電図を受けるためには、医療機関で電極を貼ってもらい、まあまあ存在感のあるお弁当箱のような本体を、ポシェットみたいなものでぶら下げるという、かなり病人感のある見た目を覚悟しなければいけませんでした。見た目だけでなく電極と本体をつなぐ線によって、動きも制限されます。

ところがテクノロジーによって、着けていることが外からもわからず、自分でも忘れてしまうような、スタイリッシュな装置が開発されています。



e-skinはなんと、シャツ型心電図です。

電極の位置の都合上、襟ぐりがある程度、浅いので、デコルテを見せるカットソーなどは着れませんが、ワイシャツにネクタイなら外から検査中とはわかりません。



心電図は本体装置に皮膚上の電極からの情報を届けるための導線が必要で、一般的には水濡れもまずいし、引っ張ると断線してしまうのですが、なんとPCFという技術によって、洗濯できて伸縮性のある着心地の良いシャツ型エレクトロニクスが誕生したのです!! 

自宅にシャツは2枚届きますので、検査中に着替えることもできます。



e-skinはシャツの下に5枚の電極シールを貼りますが、ePatchは一体型で、貼るものは1枚のシールだけです。

最大の特徴は5日間連続で記録できることです。

不整脈等、心電図で記録できるイベントはいつ起こるかわからないし、その頻度も診断的価値があります。

健診中にたまたま起きた異常なのかどうかを確かめるのもホルター心電図の意義です。

何度もホルター心電図をつけているけど、検査中は胸部症状などのイベントがなぜか起こらないということも多いのです。それでも5日連続しているとイベント発見の確率は上がります。

装着したまま、シャワーを浴びることもできます。

とはいえ、汗もかくし、体も動かすし、5日間、もたないこともありますのでご注意ください。



ちなみに、ホルター心電図の保険点数は、以下のとおりです。

  1. 30分又はその端数を増すごとに:90点

  2. 8時間を超えた場合:1,750点

つまり、8時間以上なら、12時間でも5日間でも料金は一緒です。

長く着ければ着けるほど、イベント発見にかかる料金はお得になるというわけです(笑)


そもそも「心電図」は、心臓の電気的な活動を見る検査です。

電気的な活動を3次元で解釈して、心臓の動きを予想することもできます。

医療者として以上の2つの検査の優れている点は、電極の位置がブレないことです。

産業医としてたくさんの症状のない健康な労働者の心電図所見を見てきた経験から、労働者の心電図所見は、ほとんどが「電極の位置」によるものではないかと考えます。


医療者なら最初のトレーニングでだれもが習うのですが、電極を貼る位置にはルールがあります。いわゆる一般的な心臓が、いわゆる一般的な体形の中にあることを想定したルールなんですが、体形や解剖には個性があります。健診機関の技師は、朝から晩までたくさん電極を流れ作業でつけるので、いちいち個性に対応してられない、かもしれません。つまり、心臓には変化がないのに、技師が替われば所見が変わる可能性があるのです。


ある事業場で、同じ日に心電図を受けた全員が右脚ブロックだったことがあります。医療機関に乗り込んで、電極を貼る位置を指導し、再検査したら、全員、右脚ブロックが治りました。名医です(笑)

もちろん、シャツ型や一体型には、従来の検査に比べた限界もあります。しかし、その簡便さや電極の位置による干渉がない点は評価でき、何より、生産性への影響が少ない点は、働く皆さんにとって理想的と言えるでしょう。


ある事業場では、検査業者が変わった年度から、心電図有所見者が10倍以上に増えました。エビデンスを示して指摘し、電極を貼る位置に気を付けること、自動読みだけでなく目視すること、「心筋梗塞」など極端な所見には注意を払うこと等を伝えたところ、翌年度から

前前年度の水準に戻りました。


自宅でできるホルター心電図に興味を持った方は、ぜひ、心陽クリニックにご連絡ください。

健康経営施策として、心電図有所見者のホルター心電図費用を負担している企業もあります。

企業担当者からのご連絡も、お待ちしております。



最後にちょっとだけ、おまけとして心電図を解説しましょう。


最も簡単な心電図の役割は、心臓が動いていることを確かめることですが、健診機関で心電図を受けられる人の心臓が動いていないわけはないので、一番簡単な検査値は「心拍数(bpm)」でしょう。

心臓が1分間に何回拍動しているかという数字です。

1分間に60回~100回の拍動が一般的で、それより少ない場合を徐脈、多い場合を頻脈と言います。

徐脈や頻脈だからと言って、即治療が必要な場合は珍しく、呼吸や緊張、普段のトレーニングなどによって、心拍は変わります。

ストレスがかかると心拍数は増えます。このとき、血圧も上がっています。眠っている時は、ストレスがないので、心拍数は減るはずですが、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害でストレスがかかると、心拍数が下がりません。心拍数が下がらないと、血圧も高くなり、どんどん血管のダメージが進みます。


心臓には伝導路という電気的な信号が伝わる電線のようなものがあって、その伝導路を伝わる電気信号で心臓は拍動しています。

基本的には電気信号は決まった道を一方通行で規則正しく伝わりますが、その規則性が崩れると不整脈になります。


だから、心電図の役割のひとつは、不整脈の発見です。

不整脈は誰にでもあって、検査中に不整脈があったら病気確定、即治療というわけではなく、むしろ、治療の不要な不整脈が圧倒的に多いです。


図のように一般的な伝導路は洞結節から開始するので、一般的な伝導路を通るとき「洞性」といいます。一般的な伝導路を通る徐脈、頻脈、不整脈を、「洞性徐脈」、「洞性頻脈」、「洞性不整脈」と言います。洞性は英語で sinus(サイナス)なので、医療現場や医療ドラマなどで「サイナス」や「サイナスリズム」というセリフを耳にしたことがあるかもしれません。


また、一般的な伝導路を通ると心電図の波形は似たような形になるのですが、何らかの理由で一般的ではない道筋で伝導が伝わると、一般的ではない波形になります。

特徴的な伝導異常があると不整脈や、ごくまれに突然死のリスクがありえます。

心電図は「伝導異常」を見つけることができます。


電気信号は最初、筋肉の薄いところを伝わり、最後に最も筋肉の厚い部分に届きます。そのため、波形によって、筋肉の動きを予想することができます。過去の心筋虚血や心筋症を見つけるきっかけになることがあります。

また、弁膜症や肺高血圧症、先天性心疾患なども一般的な波形とは異なる波形を示します。


健康診断の心電図所見が気になったら、ぜひ、気軽にご相談ください。



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