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間違いだらけの健康経営 ③プレゼンティーズム

体調万全とはいえない朝は日常?!


健康経営とは、従業員が健康になると企業の社会的価値が上がるという理を活かして、企業が主に健康という従業員の人的資本に投資する結果、企業価値や業績等、その生産性の向上というリターンを得る経営戦略です。


健康と生産性、睡眠時間と生産性に関係があることは明らかなのですが、そのからくりについての研究も進んできています。

人の伸びしろ、ポテンシャルは無限なので、健康な人が、もっと健康になったときに、どれだけパフォーマンスが上がるのかを、正確に予測するのは難しく、必ず過小評価されてしまうことがわかっていますが、働く人の体調が悪くなると、どのように業績に響くのかについては、かなりエビデンスが積み上がっています。


毎年、増え続ける医療費が話題になっているので、健康の問題による経済損失のからくりの多くは、医療費によるだろうと考える方が多いでしょう。医療費を誰がどう負担するのかについては、国ごとの医療制度に大きく依存しますが、日本は国民皆保険制度のおかげで、企業の負担割合は大きくありません。

それではなぜ、健康の不調が企業の経営活動に負の影響を与えるのかは、皆様自身の体調や気分がいまいちな勤務日の行動を振り返るとわかります。


起床直後から、あきらかに出勤できないほど具合が悪い場合は、仕事を休んで、受診するかもしれません。 もっとヤバければ、救急車を呼ぶでしょう。 とはいえ、全く具合が悪くなくて元気いっぱいの朝と、あきらかに出勤できないほど具合の悪い朝の「間の朝」は、まあまあ、あるのではないでしょうか。

それどころか、毎日、起床直後からやる気が漲って、心身が元気いっぱいという方のほうが稀です。


実を言うと、睡眠マネジメントを身につけるまでの私も、どこか体調が悪いのが日常的で、それを気にも止めていませんでした。ましてや、仕事を休もうとか、受診しようとかなんてアイデアは、思い浮かんだこともありませんでした。

多くの方にとって、万全ではないけれど休むほどではない、という朝は日常なのではないでしょうか。


ちょっとした体調不良こそ、受診の好機


産業医面談で明らかに医療が必要な方に受診を勧めると、しばしば、「まだ、病院に行くほどではない」と返答されます。 有給を消化しない理由によく上がるのは、「病気になったときに取っておきたい」です。 そういう人ほど、不定愁訴の塊を抱えたまま、勤務している場合が多いです。


別の機会に、受診の作法についても皆様に、ぜひ、お伝えしたいのですが、プロの私に言わせれば、「受診は早ければ早いほどいい」です。ちょうど、ボヤなら消せるのに、燃え広がった火は、どうにもならないのに似ています。火災による被害を防ぐ最善の手は、火の用心の心がけによる防火ですが、万が一、火が出てしまったときにも、被害が小さければ、素人でも消せます。コップ1杯の水で消し止められるような事故の場合には、消防車を呼ぶ人もいず、ヒヤリハットにすら数えないかもしれません。


おそらく119番に通知しないような火の事故と同じような意味合いで、ちょっとした不調は専門家に依頼するまでもないと考えるのかもしれませんが、医療機関の場合は、119番の前に、通常診療時間内の受診という選択肢があります。 小さな変化をきっかけに受診をして、救急車を呼んだり、救急外来を受診したりするリスクを低減していただくことは、皆様の健康はもちろん、医療従事者の健康にも好都合なウィンウィンのユニバーサルな行動です。


プレゼンティーイズムとはなにか


さて、「万全ではないけれど、休むほどではない」という日に出勤すると、当然、自覚的にも他覚的にもいつもの実力は発揮できません。

産業医として日本の企業を俯瞰すると、いつもの実力を発揮できない状況が日常的すぎて、自覚も他覚も鈍っているようにも見えますが、勤怠管理上は、通常通りの勤務をしていても、パフォーマンスが充分に発揮できていない場合、会社が期待する売上と、実際の売上にギャップが出ています。


もちろん、職種によっては売上で測れない仕事もありますが、ここではわかりやすく、1時間に100円、1日8時間労働で800円を稼ぐことを期待されていると仮定しましょう。会社は800円を稼いでくれる従業員に、人件費として200円の給料を払う他、家賃など業務のための諸々の経費をかけるとしても、800円稼いでくれたら会社としては充分儲かるという設定で、人員を配置しています。


ところが、万全の状態の8割の実力しか出せなければ、640円しか稼げません。このとき、期待との差額の160円の仮想コストを、健康経営領域では、「プレゼンティーイズム(Presenteeism)」と呼んでいます。プレゼントは出勤しているという意味ですので、実際に具合が悪くて休んでしまったときのコストは、「アブセンティーイズム(Absenteeism)」と呼ばれます。アブセントは欠勤しているという意味です。アブセンティーイズムとは、健康の問題で欠勤、遅刻、早退等、通常通りに勤務することができずに、契約上の通常勤怠に穴が空くことによる損失額を指します。たとえば半休を取れば400円、全休を取れば800円の損失になります。


企業の「健康経営」ガイドブック(経済産業省)によると、健康関連総コストのうち、77.9%をプレゼンティーイズムが、4.4%をアブセンティーイズムが占めています。永田先生、レプケ先生らがコラボヘルス研究会のデータをもとに行った研究では、64%がプレゼンティーイズム、11%がアブセンティーイズム、外来医療費と薬剤費を合わせて21%、入院医療費が4%という結果でした。


たとえ具合が悪いのに出勤したとしても、欠勤するよりは貢献できるのだから、出勤した日の経済損失が、欠勤した日の18倍とか6倍とかいうのは、ピンとこないかもしれませんが、塵も積もれば山となるです。

自分の胸に手を当てて考えると、おそらく皆様、思い当たる節があると思うのですが、少なくともパフォーマンスが半分以上出せそうだったら、惰性で出勤してしまうのではないでしょうか。そんなとき従業員が、しっかり休んで受診し、療養して、100%のパフォーマンスで出社したほうが自分にとっても会社にとっても便益があると考えやすい職場環境を形成することこそが、健康経営です。

出勤さえすれば、本人が受け取る給与は減りませんし、療養や受診でかかる費用が惜しいと思うのも当然ですが、8割のパフォーマンスを継続するなら、しっかり3日間を受診と療養に当てたほうが、1ヶ月の経済損失は少なくなるのです。


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