残念な三大欲求神話
日本人なら誰でも、三大欲求とは「食欲、性欲、睡眠欲」だと知ってますよね。
実は私の50年の人生には、あまり「三大欲求」って単語は登場しなかったので、意識していませんでしたが、最近、知ったというか、睡眠の話題で引き合いに出されるのを耳にする機会が増えました。
おそらく生殖や摂食や睡眠は、ないと死んでしまう生理的なもので、だからといって本能のまま貪ったら、不健全だというノリだと察します。
実際にショートスリーパー育成講座の冒頭では、「人間の三大欲求である食欲を貪れば肥満(=不健康、病気)になり、性欲を貪れは性犯罪を犯す、すなわち睡眠も理性ある人間なら制限してしかるべきだ」的なことを強調します。
そもそも、睡眠の定義は意識がないことですから、睡眠は欲求の対象にはならないような気がしますが、どうでしょうか?
気絶欲求とか、失神欲求とか、意識不明欲求とかないでしょ?
食事や性行為は、意図せずにするのは難しいですが、眠りたいのに眠れないという不眠の症状はあっても、欲望に任せて睡眠を貪って犯す罪は、せいぜい遅刻くらいのもんではないでしょうか?
それが罪になるのも社会のルールがあるからで、生物学的な不健康はありません。反対に不眠症や睡眠不足は心身の健康、そして社会的な健康にも、多大なる悪影響を及ぼします。
そもそも「眠気」と「睡眠」の関係もはっきり科学的にはわかっていません。眠気を睡眠欲と仮定しても、「眠いな」と感じて、その場で眠っちゃう人のほうが稀ですよね?
しっかり睡眠をとっても、眠くないのに起きていなければいけないときに眠ってしまう、という病気はあります。その場合は、スリープクリニックを受診してください。
ウィキペディアによると、七つの大罪(七つの罪源)は、七つの大罪(七つの罪源)は、4世紀のエジプトの修道士エヴァグリオス・ポンティコスの著作『修行論』に八つの「人間一般の想念」として現れたのが起源で、下記のとおりだそうです。
「貪食」食欲ですね
「淫蕩」性欲ですね
「金銭欲」金の亡者ですね、金銭欲にかられると、失敗しそうな気がします
「悲嘆(心痛)」なるほど、理性でいつまでも悲しみたいという感情も断ち切らなければいけない場面はありますね。
「怒り」怒りも、悲しみ同様、欲望に任せて溢れ出させ続けてはいけない感情なんですね。
「アケーディア(嫌気、霊的怠惰)」怠惰が休息だという意味なら、睡眠がいけないというふうに無理くりつながりそうですが、どうやら安息日を守らない、つまり仕事を休まないことが宗教的怠惰なようなので、睡眠とは関係なさそうです
「虚栄心(自惚れ)」「傲慢」これも確かに貪り続けたくはないですね、嫌われます
第30回行動医学会学術総会
昨日、今日と、近所の伊藤記念で行動医学会総会に参加しました。番頭さんは、赤羽のヘルスプロモーション学会に行ったので、私は写真を忘れました。
そこで二重過程理論のシステム1は、非常にプリミティブで、恒常性の維持で、本能的で、、、という自分ではわかりきったつもりでいたことを聞いていたら、睡眠はどっち?となって、混乱しちゃったのです。
行動科学は、象のように大きいシステム1を動かすためのコミュニケーションが大切だと教えてくれます。
不衛生な食事や危険なセックスに感染のリスクがあるとわかっていても、目の前にあるおいしいとか、楽しいとか、気持ちいいとかに比べて、未来に病院に行かなければ知ることもない「感染症」というワードは、あまりに遠いです。こうしてシステム1はシステム2に勝っちゃうんです。
ところが、少なくとも日本の社会人に限定すれば、システム1は睡眠ではなく、睡眠を犠牲にして◯◯することを選択しているようにみえます。
仕事や趣味の時間を優先して睡眠を削っていると、人生の最後の時間からどんどん削られていくんだと説明しますが、それはシステム1が選択する食べ過ぎ飲み過ぎタバコに危険なセックスという不健康な生活習慣と同じです。
睡眠は、生殖行動や摂食以上に人間の生命活動にとって本質的で、睡眠に求められる規則性も大きいです。
生殖活動をしなければ子孫は残せないけれど、病気にはなりません。
長期間、摂食をしなければ、飢餓状態になり、死に至ることもありますが、多くの日本人は栄養過多ですから、週単位の断食には耐えられます。
しかし睡眠は1日1回8時間という規則性を保ってはじめて健康のスタートラインです。
タバコと同じように、睡眠不足の害やブルーライトの悪影響、カフェインが眠気に影響することなど、睡眠不足や不適切な睡眠がバイオ、サイコ、ソーシャルの健康に悪いことを、大勢の皆さんが知っているのに、眠い目を擦って資格試験の勉強をしたり、動画を見たり、クラブで踊ったり、酒を飲んだりして睡眠からシステム1で遠ざかるのはなぜでしょうか?
いや、「資格試験の勉強で睡眠不足」となると難しすぎて、システム1なのか、2なのかわからないけど、おそらく睡眠不足でシステム2がバカになっちゃってるんでしょうね。 そうそう、確かに睡眠不足はシステム2を1化します。
文明象を眠らせる魔法
象を眠らせる「麻酔」なら簡単なんですけどね(笑)
いわゆる知の呪縛的なアプローチで、適切な睡眠が健康によい証拠を並べ立てるのは簡単だし、皆さん、勉強は好きなんです。それどころか、その勉強をしてて眠らないんです。
もし人間が象(システム1)だけだったら、もっと簡単かもしれません。
昨日、奥原先生の教育講演で大矢先生が、僕は小児科医で、子供は生理的欲求が中心だから行動変容させやすいんだけど、親はそうはいかないとコメントしてらしたように、人間って生物学的な尺度だけですまないシステム1があるから、難しいんですよね。同じ生物でも、子供すら守ろうとしない種も多いし、配偶者や親の面倒をみるなんてめったにありません。
私は子供の頃から奇妙だな~と思っているんだけど、休み時間を決めて、一斉に排泄させるという文化も気持ち悪いですよね。排泄なんて、我慢しないほうが絶対に健康的な気がします。集団としても有利です。
そもそも、学校法とか労働基準法とかに一斉に休憩しろ、とあるのが不思議です。
まあ、休憩時間じゃなくても大人は排泄できるでしょうけど、小学生の頃、仲のよい友だちが授業中のトイレをからかわれて、それだけでものすごく傷ついているのをみて、こんなルールになんの意味があるんじゃ?とものすごく憤ったのを覚えています。
話が逸れまくりましたが、人間が難しいのは、システム2があり、そのシステム2が熟考した上にユニバーサルな正解を出すわけじゃないってことです。そんなに考えてその結論だったら眠ったほうがまし、というようなどうでもいいシステム2の無駄遣いが睡眠を蝕むのです。
そして、知の呪縛というのは受け手もけっこう同様で、たとえば患者の立場、生徒の立場、非専門家の立場だと、彼らのシステム1的なシステム2が、やたらと知識を教わりたがるのです。
眠れない人間はいないので、正しい眠り方が分からなくても、ほとんどの人は適切な睡眠をする能力があります。せっかくのその能力、どんな言葉で伝えれば、活かしてもらえるのでしょうか。
8時間✕4日間の睡眠
私は、4日間以上続けて8時間以上睡眠する経験を推奨しています。
実践できた方は、皆さん、なんらかの驚きを感じてくれます。
睡眠の潜在力を、誰でも必ず感じられるはずです。
ぜひ、体験してみてください。
その体験ストーリーの一部を、紹介しましょう。
ある女性は、「先生に、『騙されたと思って』って言われたから、『騙された』って文句言おうと思ってやってみました。2日めまでは腰も頭も痛くて、やっぱり騙されたと思ったけど、3日めから世界が変わりました。毎日8時間は現実的には無理だけど、以来、1分でも長く眠ることを意識しています」と話してくれました。山のような不定愁訴のあった方で、会社に対する不満がすごく強かったのですが、それすらも一切なくなってしまいました。
別の女性は締切仕事を抱えるクリエイターで、到底間に合わない依頼に頭を抱えたタイミングで私のことを思い出し、間に合わなかったら先生のせいにしよう、と実行してくれたところ、結局、何が起きたのかわからず、信じられないけれど、間に合っちゃった、と話してくれました。軽度の睡眠時無呼吸症候群があり、治療には懐疑的でしたが、もっとパフォーマンスが上がるなら、とOA作製に前向きです。
自己啓発セミナーの内容を信じて、朝型になれない自分を責めていた女性は、夜にインプットし、しっかり眠って覚醒中に短時間で確認するというスタイルで、資格試験に合格したと喜んでいました。彼女は数年前、5時起きで出社前に勉強することに成功したのですが、数週間で倒れて入院したのに、まだ早朝勉強への欲があったのです。これはシステム2なのか、なんなのか、ほんと、わかりませんが、合格おめでとうございます。
ほとんどの方のほとんどの睡眠関連の課題は、4日以上連続して8時間以上の睡眠を取ることで解決します。1日2日では、頭や腰が痛くなるかもしれませんが、それは「眠らないほうがいい」というメッセージではありません。
反対に、毎日8時間近く眠っているのに、睡眠課題の強い方は、治療の必要な睡眠障害を抱えていることが多いです。
そのときこそ、私たち医者や専門家の出番です。
前述の、どうしても日中、勝手に眠ってしまうという方は、その一例です。
しっかり眠っても、睡眠の課題が残っている、何らかの「生物学的な」理由で4日✕8時間が達成できない場合は、スリープクリニックを受診してください。
ある男性はもともとしっかり眠っていて、日中の眠気もなく、周りからも生産性が高いと評判で人望も厚かったのですが、会社で受けた検査で重症の睡眠時無呼吸症候群を診断され、CPAPを始めました。なんと4人のお子さんと奥様と6人で眠っているので、みんなに嫌がられないかな~と話していましたが、装着せずに眠ろうとすると子どもたちが、「着けて!着けて!」とマスクを当ててくるそうです。チューブが当たっても、器械の音がしても、パパのいびきがなくなるのでみんなの睡眠の質も上がるんでしょうね(笑)これは子どもたちのシステム1と言えそうです。自覚的には治療の効果をあまり感じないようですが、子どもが喜ぶので続けていきたいそうです。
交通事故の原因はそのほとんどがマイクロスリープか居眠りですし、マイクロスリープや居眠りの原因のほとんどは睡眠不足です。
しっかり睡眠時無呼吸症候群の治療をしている多くの患者の名誉のために声を大にして言いたいのですが、睡眠時無呼吸症候群治療中の方が交通事故を起こした場合は、治療が不適切だったのではなく、睡眠時間が不足していた可能性が大きいです。
睡眠時無呼吸症候群があると、充分な睡眠時間を確保しても、不適切な睡眠になり、結果、時間が不足している人と同じ症状になります。しかし、適切な治療をして適切な睡眠時間を取れば、睡眠時無呼吸症候群のない人同様、眠気は起きません。治療しても効果を感じられない方の多くは、絶対的な睡眠時間が短いのです。
一方、検査で睡眠時無呼吸症候群がないと診断されても、睡眠不足は交通事故の原因になります。 安全に関わる職種を管理する皆様は、検査でしかわからない睡眠時無呼吸症候群ではなく、睡眠時間に注目した労働安全衛生管理を心がけてください。
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