株式会社心陽

ストレスチェックは「やって終わり」でいい?集団分析を職場改善につなげる方法

「今年もストレスチェックを実施しました」

受検率を確認する。
高ストレス者には医師による面接指導を案内する。
集団分析のレポートを受け取る。
そして、ファイルに保存する。

もしここで一年のストレスチェックが終わっているとしたら、少しもったいないかもしれません。

ストレスチェックの目的は、従業員一人ひとりに自分のストレス状態を知ってもらい、それをきっかけとして、メンタルヘルス不調予防行動につなげてもらうための制度です。

しかし、それだけの制度ではありません。

その結果を集団として分析することで、
「この職場では、働く人にどんな負荷がかかっているのか」を考え、
より働きやすい職場をつくるために活用することも大きな目的の一つです。

石田先生
石田先生

実は、科学的には、職場改善による効果のほうが大きいことがわかっています。

もちろん、高ストレス者を産業保健職や医療につなぐことは意味がありますが、
法令によって高ストレス者は10%~15%くらいと決まっているので、
働く人のほとんどが非高ストレス者です。

高ストレス者も含めて、
全従業員に影響する職場改善のほうが効果が大きいのは、
驚くべきことではありませんよね。

ストレスチェックの目的は「高ストレス者探し」ではない

ストレスチェック制度の目的は、メンタルヘルス不調の未然防止、
つまり一次予防です。

現在、ストレスチェックそのものは50人以上の事業場で義務とされており、
2028年4月1日からは50人未満の事業場にも義務化されます。

一方、ストレスチェック結果の集団分析と、
それを活用した職場環境改善は、現在のところ努力義務です。

しかし厚生労働省は、ストレスチェック制度を、
集団分析や職場環境改善まで含めて活用していくことを重視しています。
2026年6月には労働安全衛生規則が改正され、2027年4月1日から、
集団分析は「特定の個人を識別できない方法」で実施することが明文化されます。

つまりこれから問われるのは、
「ストレスチェックを実施したか」
だけではなく、
「得られた結果を、どう職場に返したか」
なのだと思います。

集団分析は「部署の成績表」ではない

集団分析の結果を見ると、
「この部署は高ストレス者が多い」
「こちらの部署は仕事の量的負担が高い」
「上司の支援が低い」
といった数字が並びます。

すると、つい部署をランキングしたくなります。

しかし、集団分析は職場の成績表ではありません。

もちろん、管理職を評価するための通信簿でもありません。

数字が教えてくれるのは、
「ここで何かが起きているかもしれない」
というサインです。

例えば「仕事の量的負担」が高かったとしても、その原因は一つではありません。

本当に仕事量が多いのかもしれません。

繁忙期だけ一時的に高くなっているのかもしれません。

仕事量そのものではなく、業務の進め方や役割分担に問題があるのかもしれません。

あるいは、同じ仕事量でも、裁量や周囲からのサポートによって感じ方は違います。

だから、集団分析の数字だけを見て、
「この部署は仕事を減らそう」
と決めるのは少し早い。

厚生労働省も、集団分析の結果だけではなく、
その部署の業務内容や労働時間など、ほかの情報と合わせて評価し、
職場環境改善につなげることを示しています。

大切なのは「数字」から「仮説」をつくること

集団分析を職場改善につなげるとき、私は次のように考えます。

はかる。

わかる。

かわる。

まず、ストレスチェックで職場の状態を「はかる」。

次に、数字の背景で何が起きているのかを考え、「わかる」。

そして、実際の職場を少し変えてみる。

「かわる」です。

この真ん中にある「わかる」が、とても大切です。

集団分析の結果から、すぐに対策を決める必要はありません。

まず、
「なぜこの数字になったのだろう?」
という仮説をつくります。

そして、残業時間、勤務時間帯、休暇取得、業務内容、繁忙期、組織変更などの情報と照らし合わせます。

必要なら、働いている人にも聞いてみます。

そこで初めて、「この職場なら、ここを変えてみよう」という具体的な打ち手が見えてきます。

職場改善は、大改革でなくていい

「職場環境改善」と聞くと、大がかりな制度改革を想像するかもしれません。

でも、必ずしもそうではありません。

  • 会議の時間帯を変える。

  • 朝礼を短くする。

  • シフトの組み方を見直す。

  • 集中して作業する時間には声をかけないルールをつくる。

  • 業務が集中している人の仕事を分散する。

  • 上司と部下が短時間でも定期的に話せる時間をつくる。

こうした小さな変化も、立派な職場環境改善です。

重要なのは、
「何となく良さそうだからやる」
のではなく、
「集団分析からこういう課題が見えたので、この部分を変えてみる」
とつなげること。

そして翌年、もう一度はかることです。

そうすればストレスチェックは、年に一度提出するレポートではなく、職場を改善するPDCAの一部になります。

職場改善には本当に効果があるのか

ここは少し慎重に考える必要があります。

2026年に発表された、従業員参加型の組織介入に関する最新のシステマティックレビュー・メタ解析では、
メンタルヘルスや仕事のパフォーマンスについて、全体として統計学的に有意な改善効果は確認されませんでした。

つまり、「職場改善をやれば必ず成果が出る」というほど単純ではありません。

一方で、良好な結果が報告された研究では、
従業員が主体的かつ構造化された形で参加していること、
実際の従業員ニーズに合っていること、
その組織特有の状況を考慮していることなどが特徴として挙げられています。

ここが、とても重要です。

正解の職場改善策が、どこかに一つ用意されているわけではありません。

その職場を知り、その職場で働く人を知り、その会社に合った方法を探していく。

そのためのスタート地点が集団分析なのです。

ストレスだけでは、職場の問題が見えないこともある

もう一つ考えておきたいことがあります。

働く人のパフォーマンスを左右しているものは、ストレスだけではありません。

例えば、睡眠です。

  • 寝つけない。

  • 夜中に目が覚める。

  • 十分寝たはずなのに、昼間に眠い。

  • 平日と休日で生活リズムが大きく違う。

こうした状態は、本人が「ストレスを感じています」と答えなくても起こります。

そして、仕事中の集中力やパフォーマンスにも影響します。

そこで心陽では、法令に対応した職業性ストレス簡易調査票に、
睡眠、不眠、日中の眠気、生活リズム、生産性などの指標を組み合わせた
X-check(クロスチェック)を開発しました。

ストレスだけを見るのではなく、
ストレス × 睡眠 × リズム × 生産性
を重ねて見る。

例えば同じようにストレス反応が高い職場でも、

  • 仕事の負荷が大きいのか。

  • 睡眠に問題を抱えている人が多いのか。

  • 生活リズムに問題があるのか。

  • それが実際に仕事のパフォーマンスと関係しているのか。

見えるものが増えれば、考えられる仮説も増えます。

そして、打てる手も変わります。

「やって終わり」から、「職場を変える」ストレスチェックへ

ストレスチェックには、少なくとも年に一度、働く人たちの状態について考える機会があります。

これほど多くの従業員から、同じタイミングで職場についての情報が集まる機会は、そう多くありません。

だから、その結果を保存して終わってしまうのは、やはりもったいないと思います。

数字を見て、問いをつくる。

働く人の声を聞く。

小さく職場を変えてみる。

そして、もう一度はかる。

職場は、働く人々を健康にします。

働く人々が健康だと、会社は強くなります。

強い会社は、さらによい職場をつくります。

ストレスチェックの集団分析は、その循環を始めるための道具の一つなのです。

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