睡眠不足で仕事の生産性はどれくらい落ちる?プレゼンティーイズムとの関係
「睡眠不足だと、仕事の生産性は何%くらい落ちますか?」
睡眠について企業の方と話していると、よく聞かれる質問です。
できれば、
「睡眠が1時間短くなると、生産性が○%落ちます」
と答えられればわかりやすいのですが、実際はそれほど単純ではありません。
必要な睡眠時間には個人差があります。

睡眠に関する尺度は個人差が大きいと思われているようですが、
最適な睡眠時間は、他の生命活動に関する尺度にくらべて、極めて散らばりが少ないです。
最適な睡眠時間の分布に比べ、実際の睡眠時間の分布が噛み合っていないことが社会課題です。
睡眠、特に深睡眠によって認知機能が回復しますが、完全に回復しても、
覚醒時間に従って、枯渇していきます。
つまり、杯を重ねてお酒に酔っていくように、覚醒時間の経過で認知機能は下がります。
また、仕事のパフォーマンスに関係するのは、睡眠時間だけではありません。
眠りの質。
寝つき。
夜中の目覚め。
日中の眠気。
平日と休日の睡眠リズムのずれ。
最近の研究から見えてきたのは、
「何時間眠ったか」だけではなく、
「どのように眠り、昼間どのように目覚めているか」が
仕事のパフォーマンスと関係している
ということです。
プレゼンティーイズムとは?
会社の生産性を考えるとき、「欠勤」はわかりやすい指標です。
会社に来なければ、その人がその日に働けなかったことはわかります。
ところが、会社には来ている。
パソコンの前にも座っている。
でも、
眠い。
集中できない。
考えるのに時間がかかる。
ミスが増える。
いつもなら1時間でできる仕事に、もっと時間がかかる。
こうした「出勤しているけれど、本来のパフォーマンスを発揮できていない状態」を、プレゼンティーイズムと呼びます。
会社にとって睡眠が重要なのは、病気になるかどうかだけではありません。
今日、その人がどれだけ力を発揮できるかにも関係するからです。
79,048人の睡眠を調べたら、仕事のパフォーマンスとの関係が見えた
2025年、かなり面白い研究が発表されました。
日本で働く79,048人について、スマートフォンアプリで記録された約210万夜分の睡眠データと、仕事のパフォーマンスとの関係を調べた研究です。
使われたアプリは、なんと「Pokémon Sleep」です。
研究では、
睡眠時間
寝つくまでの時間
途中で目覚めていた割合
睡眠の時間帯
社会的時差ぼけ
などが分析されました。
その結果、睡眠時間とプレゼンティーイズムにはU字型の関係があり、8時間付近で仕事のパフォーマンスが最も良好でした。
(図の上段、一番右)

しかし、もっと興味深いのは睡眠時間だけではありません。
寝つきに時間がかかること、睡眠途中の覚醒が多いこと、睡眠時間帯が遅いこと、そして社会的時差ぼけが大きいことも、それぞれプレゼンティーイズムの悪化と関連していました。 (Nature)

この研究は、コラム「【徹底解説】睡眠が生産性を高めるしくみ」で取り上げました。
二代目AI編集長クロスの言う通り、睡眠時間が500分弱でプレゼンティーイズムが最も少ないです。
▶ 青い点線がプレゼンティーイズム、上下の赤い点線がその分布範囲、横軸(X)が睡眠時間(TST)
さらによく見ると、この「睡眠時間」はベッドの中で横になっている時間(TIB)ではなく、
TST(Total Sleep Time:実際に眠っている時間)です。
TSTはTIBより確実に短く、標準的な睡眠効率(TST/TIB)は90%くらいなので、
最もプレゼンティーイズムの少ない睡眠時間(臥床時間・TIB)は、9時間くらいです。
グレーのヒストグラムは、実測の人数です。
プレゼンティーイズムが最も少ないのは500分弱ですが、
人数が多いのは、400分弱ですね。
「夜更かし型」では、生産性損失が約3ポイント大きかった
この研究では、睡眠パターンから参加者を5つのグループに分けています。
その中で最もプレゼンティーイズムが大きかったのが、
「Social Jetlaggers」
つまり、平日と休日などで睡眠のタイミングが大きくずれている人たちでした。
健康的な睡眠パターンの人と比べると、プレゼンティーイズムによる生産性損失は平均2.96ポイント大きくなっていました。
寝つきが悪く、夜中にも目覚めやすい「Poor Sleepers」でも2.45ポイント大きくなっていました。 (Nature)
3ポイント。
一人だけなら小さく見えるかもしれません。
でも、100人、1,000人の組織で、それが毎日の仕事に積み重なるとどうでしょう。
睡眠は、福利厚生だけの問題ではなくなります。
6時間未満の睡眠と、勤務間インターバル
別の日本人13,306人を対象とした研究では、
前日の仕事が終わってから次の日の仕事が始まるまでの時間と、睡眠時間を一緒に調べています。
勤務間インターバルが15時間あり、睡眠時間が6時間以上だった人では、
強いプレゼンティーイズムがみられた割合は14.4%でした。
一方、
勤務間インターバルが11時間未満
かつ睡眠時間が6時間未満
だった人では28.4%。
約2倍です。
年齢や職種、収入、職場のストレスなどを調整した後でも、強いプレゼンティーイズムとの関連は残っていました。 (PMC)
ここで重要なのは、
「社員にもっと寝ましょうと言えばいい」
という話ではないことです。
そもそも仕事が終わる時間が遅ければ、十分な睡眠時間を確保することは難しくなります。
睡眠は個人の生活習慣であると同時に、働き方の影響も受けます。

睡眠時間は個人の問題、会社が口出ししにくい、という声もよく聞きます。
それなら健康診断後の受診勧奨や保健指導も同じではないでしょうか?
たとえば30%以上の有所見率の脂質異常症は症状がなく、健康診断でしか認識できず、
それこそアブセンティーイズムやプレゼンティーイズムへの影響はないのだから、
睡眠時間以上に個人の問題とも言えます。
しかし、脂質異常症は心血管イベントリスクを高め、
心血管イベントを発症してしまえば、当然、アブセンティーイズムの原因となるどころか、
その時点から永久に、労働力を失ってしまうかもしれません。
もちろん本人は、命を失うかもしれません。
だから治療意義を伝えて、受診を勧奨しているのですよね?
睡眠も同じです。
会社は当然、13時間以上の勤務間インターバルを確保すると同時に、
9時間を理想とする長い臥床をよびかけましょう。
「睡眠時間」だけ測ればいいわけではない
もう一つ、大事なことがあります。
日本のオフィスワーカー2,897人を調べた研究では、
5~6時間、あるいは5時間未満の短い睡眠とプレゼンティーイズムとの関連がみられました。
一方、複数の要因を同時に分析すると、単純な睡眠時間よりも、
睡眠の質
寝つき
睡眠中の問題
日中の機能低下
などがプレゼンティーイズムと関連していました。 (サイエンスダイレクト)
つまり、
「6時間寝ているから大丈夫」
とも、
「7時間寝れば生産性が上がる」
とも言い切れません。
睡眠時間は重要です。
でも、それだけでは足りないのです。
「眠れている」と「仕事ができている」の間を見る
ここまでの研究をまとめると、仕事のパフォーマンスを見るためには少なくとも、
どれくらい眠っているか。
眠れていると感じているか。
昼間に眠くないか。
生活リズムがずれていないか。
そして実際に、仕事のパフォーマンスが落ちていないか。
を一緒に見る必要があります。
だから心陽のX-check(クロスチェック)では、ストレスだけではなく、
ストレス
睡眠
リズム
生産性
の4領域を一度に測ります。
AISで不眠をみる。
ESSで日中の眠気をみる。
平日と休日の睡眠からSocial Jet Lagをみる。
WHO-HPQなどから仕事のパフォーマンスをみる。
さらにオプションのPVTでは、反応速度から覚醒レベルも測定します。 (株式会社心陽)
睡眠は、「何時間寝たか」だけの問題ではない
「睡眠不足で、生産性は何%落ちますか?」
最初の質問に戻りましょう。
万人に当てはまる一つの数字はありません。
そして、最新の研究を見るほど、
睡眠時間だけを測っても十分ではない
ことがわかります。
夜によく眠れているか。
昼によく目覚めているか。
社会の時間と、自分の身体の時間がずれていないか。
そして、それが仕事にどう表れているか。
睡眠を「何時間寝たか」から、「昼間どれだけ元気に活動できるか」まで広げて考える。
それが、睡眠を企業の生産性につなげる第一歩です。
