2019/6/19
こちらのブログ記事は2017年1月に公開したものです。
2017年9月にヒルドイド配合クリームを美容目的で使う場合に健康保険を利用している場合がある、それにより国民医療費が、60億円や93億円などの額で膨らんでいるという報道が出て、適応拡大や偽のレセプト病名をつけることに警鐘が鳴らされました。(関連記事:ヒルドイド「1度に50本以上処方」も―厚労省が対策検討 「保険から除外」提言に賛否図があってよくまとまってます)
そのため2019年6月19日に修正・追記したものを、再掲します。
美容目的で処方を臨む、特に女性の患者に対してかなり批判的な報道が飛び交いましたが、多くの場合、医療者が集患の目的で「保険で出しておきますね~」と迎合しているだけで、当の患者は自分に「血行障害に基づく疼痛と炎症性疾患(注射後の硬結並びに疼痛)」とか、「血栓性静脈炎(痔核を含む)」とかの病名が足されているなんて、知らないでしょうね。 たとえばインフルエンザや風邪に抗生剤を出してもらいたがる患者は多いですが、インフルエンザや風邪では抗生剤は保険適用になりませんので、これもまた別の病名がついています。保険診療でなにか医療サービスを受けるときには自分の医療記録になんらかの病名が記録されるしくみをサービスを受容する側も理解しておいてよいと考えています。弊院ではすべての患者にレセプト病名を開示し、ご説明しています。医師である私も過去の自分のレセプトにどんな病名がついているのか、知ることはできません。
ヒルドイドローションを使っている女性を犯罪者のように叩くSNS投稿まで見られましたが、保険で出せと脅迫するモンスターペイシャントならともかく、国民医療費の0.2%足らず、抗生剤の不適性使用の結果、年間医療費が1900億円増えていることのほうが罪深いし、いずれにせよ、医師がしっかりとルールを守れば患者だけで暴走できる内容ではありません。
私自身は、自費診療で購入したビーソフテンローションを、日々のスキンケアに補助的に用いています。
ヘパリン類似物質の組織修復能力や抗炎症作用についておおいに期待していますが、保湿はあくまで病的な乾燥を防ぐためのものであり、生命活動を維持するために必須ではない美容目的の化粧水に比べると、治療を要する乾燥をケアする本来の目的外の使用では、その効果は限定的だと考えています。
私はスキンケアの最初には美容のためにビーソフテンよりお勧めしたい、アスタリズムを、その後は資生堂のクリニック専売ライン、ナビジョンDrのTAホワイトローションを使っています。どちらもカルテのある方には、送料無料でお届けしています。
美容はワークエンゲージメントやパフォーマンスにつながる重要なファクターですから、美容のためにお金や時間を投資することに批判的なのはおかしいと感じます。健康保険を使うのはむろんルール違反ですが、企業の福利厚生や健康管理、健保の保健事業やコラボヘルスの対象として従業員や組合員に美容目的に用いる化粧品やエステなどに補助を出すのはたいへんよいアイデアだと考えます。50億円、90億円といっても総医療費の0.2%ほどで、1000億円市場で12兆円の生産性損失をもたらす睡眠薬を取り締まるほうがよっぽど意味があるとは思うのですが、ぎゃーぎゃー文句をいわれるよりは、さくっと自費に切り替えて美容もコンプライアンスも手に入れる方法をオススメします。
ヒルドイドローションは薬品として認定されるだけ、効果や安全性は保障されています。しかし、病名がないのに予防や健康維持目的で保険を用いるのはルール違反です。医療機関にはそれをしっかりご説明する義務があるとは思うのですが、知った以上は、凜として「自費で」と言えばいいだけのことです。
自費で美しくなる分には誰にも文句は言えません。
ヒルドイドローション以外にもここでご紹介しているビーソフテンをはじめとするジェネリックもありますし、最近では処方が不要で薬局で買えるヘパリン類似物質配合率が処方薬と同等の製品の選択肢も増えました。美しくなることを遠慮する必要はありません。
ビーソフテンローション0.3%
ビーソフテン(一般名:ヘバリン類似物質)は1954年から発売されている「ヒルドイド」というお薬のジェネリック医薬品です。
本家ヒルドイドローションは白濁した乳液状なのに対し、ビーソフテンローションは少しとろみのある透明な化粧水です。
れっきとした医薬品なので、外観性状を記す義務がありますが、添付文書によると「無色~微黄色の澄明なローション剤で、においはない」とあります。
どちらがよいかは好みの問題ですが、私自身は乳液タイプより化粧水タイプが使いやすく、容器のかたちや固さなどもこちらが最も好みです。
また、ビーソフテンは後発品のため、ヒルドイドより安価です。
この化粧水を愛用している医者は老若男女を問わず非常に多く、顔にはビーソフテンで体にはヒルドイドとか、夏はビーソフテンで冬はヒルドイドとか、使い分けているパターンも多いですね。
最初に唯一といってもいい欠点をあげると、いずれにしても、肌にすーっとなじむということがありません。これも病的な表面の乾燥を防ぐ目的には理にかなっています。いわゆる美容目的の化粧品は、治療効果より塗ったときの感触に重きをおいて開発されています。
それでもなじむスピードはビーソフテンに軍配が上がります。
ビーソフテンは基本的には保湿剤ですが、その他も様々な作用があり多くの皮膚疾患の治療に用いられています。
ヘパリン類似物質配合ローションの作用
難解ですが、また添付文書を引用します。
【効能又は効果】
皮脂欠乏症、進行性指掌角皮症、凍瘡、肥厚性瘢痕・ケロイドの治療と予防、血行障害に基づく疼痛と炎症性疾患(注射後の硬結並びに疼痛)、血栓性静脈炎(痔核を含む)、外傷(打撲、捻挫、挫傷)後の腫脹・血腫・腱鞘炎・筋肉痛・関節炎、筋性斜頸(乳児期)
先行品であるヒルドイド、しかも性状の異なるクリームでの報告ですが、同一成分での有効率が報告されています。
皮脂欠乏症 91.2%
進行性指掌角皮症 71.6%
凍瘡 90.8%
肥厚性瘢痕・ケロイド 75.5%
血行障害に基づく疼痛と炎症性疾患 100%
血栓性静脈炎 78.0%
外傷後の腫脹・血腫・腱鞘炎・筋肉痛・関節炎 75.5%
筋性斜頸 88.3%
ビーソフテンは、「保湿」「血行促進」「傷痕を綺麗にする」という3つの作用を持つ塗り薬です。
医薬品なので、効果も安全性もしっかり確認されています。
「ヘパリン類似物質」は、その名の通り「ヘパリン」という物質に類似している物質で、ヘパリンには血の固まりを溶かす作用があり、身体の中に出来てしまった血栓を溶かしたり、血栓を予防したりするために投与されます。 血液を超サラサラにして血行を良くする即効性のある物質です。
ですから出血部位に塗るのはやめましょう。
皮膚表面の血管に炎症(静脈炎)や皮下血腫などが出来てしまったときは、この血栓溶解作用による血流改善が威力を発揮します。これが血行促進による抗炎症効果です。
ビーソフテンの主成分であるヘパリン類似物質は構造的に硫酸基、カルボキシル基、水酸基などの多くの親水基を持っているため、水分を保つ力が強いのです。ここからビーソフテンは皮膚の乾燥を改善させる効果があります。
保湿力という表現はあまり医学的ではなく、保水力というべきなのですが、やはり単体では少し心細いところもありますので、保水・血行促進・抗炎症などの効果を期待して、たとえばヒアルロン酸が豊富な化粧水などと併用すると、より優れたお肌の水分鎧となるでしょう。
ビーソフテンは繊維細胞の元となる繊維芽細胞の増殖を抑えるはたらきがあり、これにより傷跡を綺麗にするはたらきが期待できます。
副作用はほとんどありませんが、局所的なものであり、使用の中止で解決します。
なんだかイヤだな、と思ったらすぐに中止しましょう。
一般的に化粧品には明確な使用期限が記載されていないものが多いですが、ここは医薬品、底部にしっかり日付があります。
また、1本が50gと小さなサイズなので、旅行にも便利です。 医薬品なので、男性にも持ち歩きやすいようです。
男性医師も多くが利用しています。
自費診療で処方しても、1本あたり450円に処方料や調剤料、各医療機関における自費診療の規定による料金になりますので、一度に多めに処方してもらえば、1本あたり1000円を下回る金額になります。心陽クリニックでは自費診療では1本あたり550円で販売しています。
また、上記の適応症があれば、保険診療内で処方することができます。収入の10%以上の保険料を毎月支払っているのですから、妥当な理由があれば堂々と利用しましょう。
美を求める多くの方々はつい化粧品の値段が効果に比例すると思い込みがちですが、一番おいしくて体によい一皿と同じで、なにより大切なのは相性です。
「アレルギー体質だからオーガニックじゃなきゃダメ」 なんて驚きの発言をする方がいらっしゃいますが、アレルギーのある方こそ、化学的に安定した単一成分の化粧品を使う必要があり、オーガニック化粧品は最も危険です。
肌の細菌叢によっては、有名なピテラなどが思いがけず悪さをすることもあります。(20000円の化粧水です)
ビーソフテンローションは安価すぎて不安という方もいらっしゃいますが、効果があるので、ほとんどの方がリピートします。 物足りない場合は化粧ラインに加えるかたちで用いてください。
同じように後発品(ジェネリック)に対し、どんなお薬でも疑念を抱く方が多い(「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」など)のですが、理論上はまったく問題がありません。むしろ使用感(剤形や容器など)改善の工夫がなされている場合が多いのです。
ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。
発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです。では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか
先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです。 新規開発に要する費用は1品目300億円以上に対し、ジェネリック医薬品の場合は1億円程度に収まっています。(厚生労働省のパンフレットより)
ちなみに開発期間も先発では9~7年間、ジェネリックでは3~5年間です。(同上)
心陽では詳細なカウンセリングをして、適応があれば保険診療、適応がなければ自費診療として、ビーソフテンローションを取り扱っております。
ぜひ、ご相談ください。
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