株式会社心陽

COMISAという概念

上田晋也のサンデーQで知った方も多いのでは? 

テレビで私のボスである内村直尚先生が、「100年に一度の大改革」というほどの、驚きづくしの診療報酬改定が今月から実施され、正直なところ、うちのような弱小クリニックは、痛切な悲鳴をあげております。

睡眠関連ではAHIの基準値が下げられました。詳しくは、書き直したこちらのコラム「睡眠時無呼吸症候群診療の保険適用について」をご参照ください。

COMISAとは

CO-morbid Insomnia and Sleep Apnea

つまり不眠症+睡眠時無呼吸症候群の併存のこと。

OSA患者の30~50%に臨床的な不眠症状があり、不眠患者側から見ても30~40%にOSAが見つかると報告しているのがこちら。
2017年に「COMISA」という概念を提唱したSweetman本人が2023年にまとめた総説。
Co‑morbid Insomnia and Sleep Apnoea (COMISA): Latest Research from an Emerging Field

ちなみに別の論文では、合併率は60~90%とも言われます。

重症の睡眠時無呼吸症候群では自覚症状が乏しいというエビデンスもあり、私の臨床の印象でも、不眠を合併する睡眠時無呼吸症候群は軽症例です。

軽症だから放置していいというわけではなく、軽症のAHIを40%しか改善できなくても、AHIを大幅に(たとえば90%)下げる以上に、適切なケアで本人のQOLロスを90%以上改善する期待が持てるのです。

① COMISAは「OSA+不眠」ではなく、独立した病態として考える時代

論文では、 COMISAはOSA単独や不眠単独よりも、睡眠・日中機能・身体健康・精神健康・QOLが悪いと書かれています。

つまり、「AHIは改善したから終わり」ではなく、「不眠が残っていれば、まだ治療途中」という考え方が必要です。

米国の不眠症治療の第一選択は、不眠認知行動療法です。

今月の診療報酬改定で日本においても保険収載されましたが、私の臨床スタイルでは睡眠時無呼吸症候群の除外および診断から始めます。

不眠症の背景で最も多い認知が睡眠誤認です。

他覚的に睡眠を可視化されることで、不眠が単なる思い込みだったと腹落ちして、すっと不眠が治る方は非常に多いです。

一方で他覚的な睡眠検査で不眠症状について、さもありなんと感じるパターンも非常に多いです。

特に若年、非肥満、健康的なライフスタイル、高インテリジェンスなUARS(Upper Airway Resistance Syndrome:上気道抵抗症候群)の症例に顕著な傾向です。

軽症なのでOA(閉塞性睡眠時無呼吸治療用口腔内装置)を処方することが多いですが、私はこれまでもCBT-Iを併用していました。

★ CBT-I(不眠症認知行動療法の保険収載)

対象となるのは、うつ病や不安障害が合併した不眠症症例、または、2種類以上の睡眠薬を投与した上で治療効果が不十分であると医師が判断した症例のみなのが残念なところです。

米国のガイドライン(参照コラムはこちらから)のように、本来は第一段階でCBT-Iにしてほしいですよね。

どういう利権が絡んでこうなったのか知りませんが、診療報酬が得られなくても、私はこれまで通り、初診からCBT-Iを実施していきます。

診療報酬点数は、以下のように設定されています。

  • 医師による場合 480点
  • 医師及び看護師が共同して行う場合 350点
  • 公認心理師による心理支援を伴う場合 330点

30分を超える治療・面接が行われた場合に、8回まで算定することができます。

② COMISAのアドヒアランス

論文には、COMISA患者は、「CPAPを受け入れにくく、使用時間も短い」とあります。

確かに重症者は覚醒閾値が高く不眠症状が少ないため、特に改善を自覚していなくてもCPAPのアドヒアランスが高まりやすいです。

自覚が強く軽症のCOMISA群は、私の臨床の印象では半々で、「人生が変わった」とどハマりするパターンと、やったほうがいいとはわかっているのだけれどなぜか外してしまう群に分かれます。
Sweetman先生の指摘は後者かな、と思います。
後者群はマスクやCPAPの音が眠りを邪魔するなどCPAPのせいで眠れなくなる、CPAPが合わない、CPAPをしないといけない、CPAPはちゃんと装着できているか……、いろいろな邪念が結局、不眠のもとになってしまうという悪循環ですね。

となると、AHI15未満の軽症例だとOA+CBT-I・睡眠衛生指導がベストかな、と思う今日このごろです。

不眠症状とはすなわち睡眠へのモヤモヤ、そして睡眠へのモヤモヤを知覚するのは覚醒中、覚醒中の近くを改善するには、第一にしっかり睡眠することと、第二に思い込みを整えること、つまり、OAやCPAPなどの物理療法とCBT-Iや睡眠衛生指導等の心理療法の両輪が必要だということです。

③ 覚醒閾値(Arousal threshold)の話

論文では、不眠による過覚醒(hyperarousal)が呼吸性覚醒閾値を下げる可能性についてかなり詳しく議論しています。

つまり、不眠という思い込みが、むしろ、少しの呼吸刺激でも覚醒する状態をつくり、結局、それが理由で睡眠が浅くなります。

これ、なにがおかしいかわかりますか?

なんらかの理由で私の睡眠は浅いと思い込むことによって、本当に睡眠の浅い状態を創り出してしまう、脳の素直さが裏目に出てしまった状態なのです。

その上、ほんの少しでも呼吸障害があると、低酸素になるほどではない、呼吸リズムのちょっとした不安定性ですぐに目が覚めてしまう、目が冷めなくてもノンレム睡眠の深度が浅くなったり、REM睡眠に移行してしまったりします。

結果として、その状態がRERAとして観測されるものの、目が覚めてしまうとREIにしか数えられない、もしくはREIとしてもカウントされないため、不眠も呼吸障害もあるのに、見過ごされてしまいます。

いいか悪いかは別として、論文ではこんな面白いRCTを紹介しています。

対象は、不眠症+未治療の中等症〜重症OSAを併存する145人で、4セッションの心理士によるCBT-I群と無治療コントロール群を比較したRCTで、結果として、6週間後に、CBT-I群はAHIが平均5.5低下し、コントロール群はAHIが平均2増加というものです。
睡眠姿勢や睡眠段階を調整しても、CBT-I群のほうがAHI低下が大きかったという内容です。
CBT-Iは気道を広げる治療ではないのに、AHIが少し改善したことがおもしろいポイントです。

  1. 過覚醒 hyperarousal が下がった
  2. 睡眠がまとまり、浅い移行睡眠が減った
  3. 客観的な覚醒回数・覚醒時間が減った

論文ではこんなふうに、眠れない脳が呼吸イベントを増やしている可能性があると考察しています。

睡眠時無呼吸症候群は、喉の奥で、生肉と生肉がはりつく状態で、気道の解剖学的な狭さ、咽頭筋の開大性、loop gain、覚醒閾値、過覚醒みたいな複数因子で決まりますが、この研究が示唆するのは、睡眠時無呼吸症候群の治療において、「眠れない気持ちを楽にする」という手法に大きな効果がありそう、ということです。

おっと……うちの外来ではずっと前からやってます。なんちゃってw

④ OA派へのインパクト

UARS、覚醒閾値低い、AHI低い、自覚症状強い……こういう特徴を論文では、"non-anatomical trait"として、骨格の解剖学的な問題だけじゃなくて、覚醒閾値、Loop gain、過覚醒も治療ターゲットにするべしとしています。

診療報酬改定でCBT-Iやアプリによる介入が解禁されたことで、歯科医科連携をうまく進めるきっかけにもなるのかな、と期待しています。

歯科と医科、つかず離れずうまく伴走できればベストなんですよね。

⑤ 睡眠は呼吸障害と不眠の両輪で診よ

論文の最後に、睡眠時無呼吸症候群外来では、全員にISI(Insomnia Severity Index)を配布して、不眠をスクリーニングするべきであると提案していますが、普通にやってますし、X-checkでも測定しています。

常々主張していますが、睡眠中は意識がないので、人間は、睡眠の質をリアルタイムに評価することはできません。

睡眠に対するあらゆるモヤモヤは覚醒の質が下がっている事実を根拠とするクレームであり、そこに睡眠が本当に関連しているのかどうかは状況証拠でしかありません。

もし、あなたの睡眠時間が8時間未満だったり、不規則だったりしているのなら、まずは連続して5日間、同じ時間に10時間ベッドで横になってみてください。
それでもあなたの睡眠に対するモヤモヤが一切晴れないのなら、すぐに睡眠外来を受診してください。

AHIが正常になっても『眠れない』は終わっていない。

最近、とてもおもしろい事例がありました。

看護師の母から勧められて、OAを開始した司法試験を受験する若い女性、それこそ「人生が変わった」と大喜びしているのに、「効果判定はしない」と言います。

その理由は、効果は私が一番実感して、満足している、効果判定で数値を告げられる意味がないから、だそうで、私の大好きな若者らしい合理性で、拍手を送りました。

医者はAHIを下げることではなく、皆様の社会参加を活発にするために診療しています。

医師法第一条 医師は、医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。

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