休暇を与えると、生産性が上がる?! インフルエンザで考える
Potential Economic Benefits of Paid Sick Leave in Reducing Absenteeism Related to the Spread of Influenza-Like Illness
インフルエンザ関連の古いブログを整理していて見つけた面白い研究を紹介します。
有給の病気休暇(paid sick leave)があると、本人の欠勤はむしろ増える。
でも、感染拡大による職場全体のアブセンティーイズムは減る。
ここでいう paid sick leave(PSL) は、
厳密には日本の「年次有給休暇」そのものではなく、
病気のときに給与を失わず休める制度です。
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研究概説
米国のMEPSという全国代表データを使い、2007〜2014年の民間労働者を分析しています。
解析対象は38,924人、延べ71,244観測です。
病気・けがによる年間欠勤日数
PSLあり:推定 4.58日
PSLなし:推定 3.48日
つまり、PSLがある人のほうが、調整後で年間 1.10日多く休んでいた。
発生率比は IRR 1.32 でした。
著者らは、この1.10日の差を、
「PSLがなかったために、本来休むべきなのに出勤していた日」
と解釈しています。
つまり、
PSLなし → absenteeism ↓ だけど presenteeism ↑
という構造です。
インフルエンザ感染による仮説検証
著者らは、病気による欠勤のうち 10〜12%が influenza-like illness(ILI) と仮定。
するとPSLのない労働者は、年間およそ
0.11〜0.132日、感染性のある状態で余計に職場に出ている
と推定されます。
さらに、
成人→成人への感染確率
ワクチン接種率・有効率
1日に接触する同僚:3〜5人
感染した同僚の欠勤:2〜3日
を組み合わせてモデル化しました。
その結果、
PSLを持たない労働者1人が、年間0.0405〜0.081人の同僚をILIに感染させる
と推定。
米国全体では、PSLのない労働者が約4,514万人いたため、
PSLを全員に提供すれば、職場内感染によって失われる労働日を年間366万〜1,097万日減らせる
という計算になります。
CDCが当時推定していたインフルエンザによる年間欠勤1.11億日と比べると、
ILIによるアブセンティーイズムを3.3〜9.9%減らせる
という結果です。
金額換算では、
年間6.3億〜18.8億ドルの企業損失を回避できる
と推計しています。
2016年末の全米就業者数の1億5,000万人で割ってみると、
一人当たり42~125ドルです。
これを日本円にすると、
年間988億〜2949億円節約できる
となります。
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病気でも休めない
→ 本人は出勤する
→ 一見 absenteeism は少ない
→ presenteeism + 職場で感染
→ 同僚が発症
→ 職場全体の absenteeism が増える
一方、
給与を失わず休める
→ 感染者本人は休む
→ 本人の absenteeism は増える
→ 職場内感染が減る
→ 組織全体の absenteeism は減る
「欠勤率を下げよう」とすると、短期的には病人を出勤させる方向にインセンティブが働き、
その結果、長期・集団レベルでは逆に欠勤が増える可能性があるという点。
ただし注意点もあります。
この研究は「PSLを導入した会社としなかった会社を無作為比較した研究」ではありません。
MEPSから求めた 1.10日の差に、既報のILI割合、感染率、接触人数などを掛け合わせた経済モデルです。
著者自身も「preliminary estimates」と呼んでいます。
特に職場内感染率を直接測ったデータがなかったことを限界として挙げています。
病気休暇は「本人の欠勤を減らす制度」ではなく、病気の人をちゃんと休ませることで、感染による“周囲の欠勤”を減らし、職場全体のアブセンティーイズムを減らす可能性があります。
アブセンティーイズムを減らすには、アブセンティーイズムを許容する必要があるのです。
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有給制度の国際比較
日本では労働基準法第39条にしっかりと有給休暇の支給義務が定められています。
日本の有給取得率の低さを論じる際に、必ずと言っていいほど、
「休みを取るのが心苦しい(罪悪感)」
という従業員のメンタリティーが指摘されるんですが、
むしろ会社のコンプライアンスを高める行為なので、
長時間労働の減少と同様に会社のためになるんです。
会社に貢献したいと考えるマジメな従業員こそ、積極的に有休を取得するべきなんですよ。
労働時間は各社員レベルでなかなか調整するのは難しいかもしれないけれど、
代休や振休で調節せず、有給休暇をどんどん取って、取得率を上げることも、会社への貢献になるんです。
労働時間の削減で貢献できなくて悪いな~、
本当はもっと会社に貢献したいのに~~~
と考えるマジメなあなたは、せめて有給を取得してあげましょう。
日本の有給取得率はとても低いのですが、付与日数もとても少ないんです。
1988年の労働基準法改正により、最低6日から最低10日に引き上げられても、世界最低水準です。
100%取得しても世界的には充分働いています。
米国では有給休暇に関する法的拘束はありません。
休暇に関する法律だけを見ると、日本は世界でも非常にすばらしいです。
休暇先進国であるフランスの有給休暇に関する法を参照すると、
1930年代には全ての労働者が毎年連続2週間の有給休暇を付与される、
通称「バカンス法(正式名称:マティニョン法)」と呼ばれる法律が定められていました。
それ以後、有給休暇の付与日数は時代を追うごとに増え、
1982年に現在の水準である年5週間の有給休暇を、
さらに連続12労働日を超える長期有給休暇を1年に1度以上与えることが定められ、
企業の側に有給を計画的に取らせる義務もあるのです。
日本と北米を除いたすべてのOECD(経済協力開発機構)加盟国では、
最低でも20日間の有給休暇付与が定められています。
ポルトガルやオーストリアにいたっては35日間です。
国際労働機関(ILO)によって1970年に採択されたILO第132号条約で、
労働者の有給休暇は、1年勤務につき3労働週(5日制なら15日、6日制なら18日)以上とされていますが、
日本はこれを批准していません。
ちなみに、世界の働き方を提言するILOの193条約のうち、日本が批准しているのはたった26.4%の51条約です。
労働時間に関するILO条約を一つも批准せず、
WHOからは女性が奴隷のように扱われていると警告され、
「KAROSHI」が外国でも通じる、そんな国が日本なんです。
ドイツでは6週間までの病欠のみを対象にした有給休暇がが認められています。
デンマークでは病欠期間中、最大120日間まで100%の給料もしくは手当の支払いが定められています。
オーストラリアでは従業員本人だけでなくその家族の看病や緊急事態に対する有給病気休暇まで用意されています。
有給の病気休暇を取り切ってしまった後は無給病気休暇としてさらに2日間会社を休むことも可能です。
この辺、各国の労働の違い、医療の違いはいろいろな資料がありますが、
私はマイケル・ムーア監督の「シッコ」をお勧めします。
アメリカでは法規制がありませんが、年間で10日間の有給休暇(paid holidays)が一般的、
そのほかの休暇として、有給無給は企業ごとに異なりますが、
概ね2週間のバケーション、
2日間の特別休暇(忌引きとか、結婚とか、宗教上の休日とか、そういう個人的な休暇)、
8日間の傷病休暇というパターンが多いですね。
国の法律はないのですが、州ごとの条例では有給の定めがあります。(冒頭引用研究の付表1参照)
研究で言及されている有給は最後の有給傷病休暇についての話題です。
アメリカには法規制がないといっても、半年働いて初めて10日という日本の基準、
そしてその最低ラインを選択している日本企業が多いという現状を鑑みると、
やっぱり日本のほうが少ないんじゃないかな~~~って思います。
休暇に対する感覚も違いますから、日本ではPSLとPTOと分けて考えるような習慣はないですよね。
また、誤解のなきように最後に強調しておきますが、
この研究ではインフルエンザ及びインフルエンザ様疾患のアブセンティーイズムに限定してその価格を計算したものです。
有給休暇によって削減されるアブセンティーイズムはほかにも多くの原因がありますし、
プレゼンティーイズムに至っては言うまでもなくアブセンティーイズムの10倍以上の可能性もあります。
また、研究中に引用されているとおり、
そもそも有給傷病休暇を設けている企業はそうでない企業に比べて42%も多く
職場での集団インフルエンザワクチン接種をしています。
健康経営に関わるまともな制度を設けている企業が儲けているってなことが言えそうです。
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