株式会社心陽
最終更新: 2026/8/20
患者力

「標榜(ひょうぼう)診療科」って、知っていますか?

祝! 我が大ボス、内村直尚先生の悲願、
睡眠障害科標榜解禁を記念して、
2019年2月のコラムに加筆しました。

標榜科とは?

医療法6条の5第3項
医業や診療所では、文書その他いかなる方法によるを問わず、
何人も次に掲げる事項を除くほか、これを広告してはならない。

医療だけ他のサービスと区別して、広告を規制する理由は以下の通りです。

  1. 医療は人の生命・身体に関わるサービスであり、
    不当な広告により受け手側が誘引され、
    不適当なサービスを受けた場合の被害は、
    他の分野に比べ著しいこと。

  2. 医療は極めて専門性の高いサービスであり、
    広告の受け手はその文言から提供される
    実際のサービスの質について
    事前に判断することが非常に困難であること。

ーーー

とはいえ、情報の非対称性があるからこそ、
禁止事項が多すぎたり、
標榜診療科に局所的な制限があったりすると、
商業的な医療機関ほどその網目をくぐり抜けて、
ますます、むしろ受け手をミスリードしてしまうよな、
とも危惧します。
   ▶コラム「多様化する社会の情報の非対称性」を読む)

具体的に禁止されている事項の一部(医療広告ガイドライン

(ⅰ) 比較優良広告
   :「芸能プロダクションと契約」「不眠症治療実績関東第一位」
(ⅱ) 誇大広告
   :「うまくて安くて早い!」「美人が診察!」「◯◯専門外来」 
(ⅲ) 公序良俗に反する内容の広告
(ⅳ) 患者その他の者の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告
(ⅴ) 治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前後の写真等の広告

上記の例示の「専門外来」、
え? 誇大広告なの??
と思いませんでしたか?

医療広告ガイドラインによると、
専門外来という表記には、
広告が可能な診療科名と誤認を与えるので、NGなんだそうです。

そんな「診療科名」は、当然、広告可能な具体的な事項
医療広告ガイドライン)です。

広告可能な診療科名が、「標榜(ひょうぼう)科」です。
標榜とは、看板に診療科として書く、すなわち広告するという意味です。

よく誤解されますが、
専門医制度は無関係で、
原則としては認定制度等のルールがなく、
医師であれば、誰でもなんでも自由に標榜していい
という大前提があります。

日本は、「自由標榜制」なのですが、
その自由には制約があり、
選択肢が決められています。

広告可能な診療科名の制約は以下の2種類です。

  1. 麻酔科
     医療法第6条6第1項:医療法施行令第3条の2による厚生労働大臣の許可を受けていること
     医療法第6条6第4項:許可を受けた医師の氏名を併せて広告しなければない

  2. 麻酔科以外の診療科
    「広告可能な診療科名の改正について」
    (平成 20 年3月31日医政発第0331042号厚生労働省医政局長通知)

自由に標榜できない唯一の診療科が麻酔科医です。

私は国家資格である麻酔科標榜医を認定されているので、
文字通り、なんでも好きな診療科目を標榜できます。

自由標榜性の課題

先日、FBで勝俣先生が、自由標榜制について、
「日本は世界にまれにみる自由標ぼう性を認めている国です。
自分の専門外の科でも、勝手に標榜してしまうというものです。~~」
と投稿しているのをシェアしました。

つまり、世界の他の国とは異なり、
日本の医師は、自分の診療科について、
好きに名乗っていいという意味です。

そもそも、その事実を、日本の皆さんは知っていますか?

医者は院長ひとりしかいないのに、
たくさんの診療科の載っている医療機関の看板を見たことはありませんか?

むしろ地方では、看板に単一診療科しか記載されていない
医療機関を探すほうが、難しいのではないでしょうか?

これが世界に稀に見る、「診療科の自由標榜制」です。

受診しない理由として、
よく、「何科がいいのかわからない」という声を聞きますが、
実は、その「何科」って、誰でも自由に標榜できるので、
専門性や腕前を保証するものではありません。

その結果、勝俣先生が危惧するように、標榜診療科によって、
本来標準的ではない医療を専門性の高い個別医療のように宣伝できてしまいます。
いびきのレーザー治療などが典型的です。

さすがに
「何でもやる科」や
「美人女医科」、
「ブラックジャック科」などを見ないのは、
冒頭の医療法を守るためのマニュアル的な医療法施行令で
具体的に標ぼう可能な診療科名が定められているからです。

つまり、標ぼうは自由だけど、その具体的な表現に自由はない、ということです。

具体的な標榜のルールは、
このコラムの「2008年の医療法施行令改正」をご覧ください。

2026年6月、18年ぶりの医療法施行令改正

2026年6月、とうとう睡眠障害診療科の標榜が可能になりました!

近年の睡眠障害に対する社会的ニーズの広がりを受け、
新たに「睡眠障害」を基本の診療科名と組み合わせて
標榜することが正式に認められました。

単独「睡眠科」が成立しなかったのは、ちょっぴり残念ですが、
内村先生始め、関係者のご尽力の賜物です。

心陽クリニックも早速、「睡眠障害内科」を標榜しました!

医療機関の標榜を確認するのには、医療機関ネットナビイが便利です。

しかし、これは医療機関が保健所に登録したことを反映するのではなく、
年に一度、医療機関が手入力する情報を反映するものなので、
まだ当院の標榜も反映されておりません。

修正しようとG-MISにログインしたところ、
まだ、「睡眠障害」が、標榜可能な診療科の選択肢にないことが判明。
お役所あるあるです。

ひきつづき、
「睡眠×クリニック」、
「睡眠時無呼吸症候群×クリニック」

2008年の医療法施行令改正

2008年改定では、2006年の医療法等改正の趣旨にかんがみ、
患者や住民自身が自分の病状等に合った適切な医療機関の選択を行うことを支援する観点から、
広告可能な診療科名の改正を行ったそうです。

具体的名称を限定列挙して規定する方式を、
身体の部位や患者の疾患等、一定の性質を有する名称を
診療科名とする柔軟な方式に改めました。

2008年以前は、以上27診療科目のみ、標榜が認められていました。

2008年の改正後は、上記の単独の名称で診療科名にできる13項目と、
以下の各事項とを組み合わせた診療科名の標榜が許可された。

組み合わせられる事項

(1) 部位、器官、臓器、組織、又はこれらの果たす機能

(2) 患者の特性(性別、年齢を示す名称)

(3) 医学的処置(特定の領域を表す用語)

(4) 特定の疾病若しくは病態の名称

とはいえ、(1)~(4)まで、好きなように命名できるわけではなく、
以下のように単語は決まっています。

「患者や住民自身が自分の病状に合った適切な医療機関を選択することを支援する」
という観点は、めちゃくちゃステキだとは思うんですけど、
そのための制度が表現は不自由だけど標榜は自由
という現在のかたちに落ち着いた意図は、全然、意味わかりません。

心陽クリニックが得意なのは、
生産性を高めるためにスリープヘルスを増進することですが、
生産性向上内科とか、睡眠心療内科とかは、標榜できません。

「いんこう」はOKだけど「咽喉」はNGです。
「のど」や「口や鼻の奥のほう」に違和感を覚えても、
「いんこう」という単語は、一般の方から遠いです。

たとえば「性病科」は標ぼうしてはいけなくて、
新しく「性感染症内科」が認められたんですけど、
おそらく、性行為についても外性器の異常についても
オープンに誰かに相談しにくいこともあり、
「性病×医療機関」って検索するんじゃないかと思います。

婦人科かな? 
泌尿器科かな? 
内科じゃないよな? 
性病科なんてないよな? 
という期待を込めた逡巡の先に「性病科」があるような気がするので、
性病科でいいと私は思います。
「性感染症内科」なんて検索する人いますかね?

勝俣先生の指摘の通り、現状の自由標榜制は、
病状に合った適切な医療機関を選択することの支援より、
専門性のない医者の金儲けのためのインチキな診療や営利行為に有利です。

同じように◯◯教授の中にはお金で買えるものもあり、一般の方は騙されやすいと感じます。

自分の不調をできるだけ専門性の高い先生に解決してもらいたいと考える気持は良くわかりますが、
それならなおさら、日本の標榜性は原則自由で、専門性とは完全に無関係であると知ってください。

FBで書いたとおり、皆保険という国家特有の制度にもかかわらず、
義務教育で医療制度や受診スキルを学ばないので、
医療資格の悪用が横行しているのだと私は思います。
医師向け求人には、「年収3000万円、経験不問」みたいな表現が多発します。

制度化するのなら、悪徳医師をくじき、
誠意ある医療従事者を支援するかたちにしてほしいものです。

少なくとも国民に「標榜科と専門性は関係ない」ことを大々的に告知するべきです。
そして、不自由な標榜名称の限定を継続するなら、
非典型的な標ぼうをしている医療機関を厳しく罰するべきです。

ただし、本当に患者の受診支援のために
わかりやすい標榜をしている医療機関の何が悪いのかわかりません。

とはいえ、反対に悪くないならどうして
不自由な標榜を続けさせられるのかもわかりません。

ちなみにこちらは東京女子医科大学病院の「睡眠科」のホームページです。
「当科は睡眠障害を専門とする診療科です」と書いてあるので、誰にでも理解できます。

睡眠に課題を感じて「睡眠科」と検索して、
このページを見つけて受診して、なにがいけないのでしょうか。
睡眠に困っている方々は、
「睡眠外来」、「睡眠センター」、「睡眠クリニック」
と検索するのではないでしょうか?

医師が臨床診療上、または基礎研究上の専門性を習熟するには非常なコストがかかりますので、
一人の医師が複数の専門性を習熟するのは不可能とは言いませんが、簡単ではありません。
ちなみに日本の専門医制度は、専門性ではなく専従性を評価しています。
それはそれでよいのですけれど、
標ぼう科も専門医制度も専門性の習熟と直結しないことが、
特に非医療者である患者に周知されてほしいと思います。

自由標ぼう制をやめることが唯一最適解だとは言い切りませんが、
「標ぼう」と【専門性】、【スキル】や【情熱】が独立因子だという事実は、
もっと浸透してほしいものです。

先日、FBで、長野県佐久市立国保浅間総合病院の「スマート外来」を紹介しました。
このように専門外来にはユニークな名前をつけている医療機関が数ありますし、
医療法にも抵触しないようですから、この方法で
患者の医療機関選択を助ければ十分ではないかという気がします。

「美人女医外来」や「ブラックジャック外来」を検索したところ、
子供の医療者体験を「ブラックジャックセミナー」と名付けている企画がいくつかありました。

さきほど「睡眠科」の例を出しましたが、
現在のところ、「睡眠科」という標ぼうは国に認められていません。
そこで、2023年2月17日、第211回通常国会衆議院予算委員会において、
睡眠議連の古川元久先生が、睡眠科の標ぼうを認めるよう質問しましたが、
加藤勝信厚生労働大臣の返答は渋かったです。
日本睡眠学会も睡眠科の標ぼうを目指しているようですが、
睡眠科の標ぼうが許されることで、本当に国民の睡眠衛生が増進するのでしょうか。
(2019年記載)

睡眠だけでなくあらゆる専門性と受診者をマッチングするためには、
標ぼう制度そのものを廃止して、
「◯◯外来」という表現で受診者に
診療の得手不得手を伝えていけばよいのではないでしょうか。
そのネーミングセンスも相性を知るために有効な気がします。

治療関係って、結局はマッチングで、
専門性より人間性のほうが大きいです。

何科のトレーニングを受けてきていても
少なくとも医師であれば、
患者との情報の非対称性の上流にいて、
コネクトできる適切な専門家の数も多いわけだから、
まずはかかりつけ医とかかりつけ患者がマッチングして、
必要に応じて、かかりつけ医経由で、
専門家にリファーしていけばいいでしょう。

たとえば心陽クリニックなら、
「働く人のための外来」、
「オンライン外来」、
「睡眠外来」、
「CPAP外来」
「生産性を高めます!」、
「勤務先企業とのコミュニケーションを取ります」、
「医療制度を教えます!」、
「持続可能な健康知識を授けます」、
「事務手続き苦手です、ごめんなさい」などと表記したいですね。

「ラグビー部出身」とか、
「学生時代、全国の山に登っていたので、転院先の紹介も任せてください!」とか、
「漢方を中心に処方します!」とか、
人となりや診療の特徴を伝えるメッセージのほうが
標ぼうする価値がありますよね。
最近では、SNSなどで特色を伝えるクリニックも多く、素敵なことですよね。

ストレスチェックの制度化当初、
身体科(精神科以外を指す表現)出身産業医の多くが、
「メンタルヘルスは専門じゃないから、高ストレス者面談をしたくない」
と駄々をこねる社会現象が起こりました。

それなら法定健診結果による就業判定も
出身科によって制限されてしまいます(笑)

産業医は産業保健の専門家で、
そのための認定を受けている、
いわば産業医標ぼう医なのですが、
産業医の多くが標ぼう制度も診療制度も産業保険制度も
よくわかっていないことを反映するエピソードです。

人間はひとりひとりちがうし、
同じ人間でも時と場合によって求める相手は異なります。
人間同士の関係だから、
人間同士として接して、
ともにありたい人にめぐりあういつもの方法で、伴走医とマッチングしてください。

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