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Yoko Ishida

オンライン・ソリューションへの期待

大うつ病を発症していないけれども抑うつ傾向の高い(閾値下うつ病成人)ドイツの労働者406人を対象に、ネットで行う自助介入がうつ病発症抑制に効果があったとする、JAMA掲載(2016/5/23)の報告です。

ハイリスクアプローチです。 

介入群は、オンラインで行う疾病教育、行動療法、問題解決療法をベースにしたプログラムを受けた上、臨床心理士の指導を受けた院生などによるフィードバックを受けたところ、12ヵ月後の大うつ病の発症は対照群の41%に対して、介入群では27%でした。5.9例に介入することで1例の発症を予防したことになります。 大うつ病は、理想的な治療でも、疾病による負荷のうちのおよそ3分の1しか減らせないといわれています。ましてや、日本の医療制度では、理論上、閾値下の患者に、保険診療できません。 そこで常々主張する、医者が医療機関でしかできないことの限界が出てくるわけで、これがオンラインで簡単に受けられる、たとえば、それを企業が提供し、従業員は福利厚生の一環として受けられるしくみができれば、非常にWINWINな状態が作れ、医療者は医療機関で医療者でなければできない本来の業務に専念できるので、結果として医療者のパフォーマンスや医療の生産性が向上することにもつながります。 受診することに意味はありますが、受診して気持ちよく主訴が解消する手品のような医療はまれです。 うつ病として診断できる閾値を超えているかどうかということよりも、気分や体の異常や不調によって、本来したいこと、するべきことができないということが問題ですし、介入が早ければ早いほど望ましいのであれば、より簡単にアクセスできる介入の機会をいかに増やせるか、が重要ですよね。 受診せずに最悪の転帰を迎えるよりは受診したほうがよいし、専門家の対面CBTとオンラインセミナーでは当然、効果に違いはあります。 ただ私が職場のヘルスプロモーションとしてポピュレーションアプローチをする背景には、たとえば、10%の機能改善(治療効果)が望める介入と、3%しか望めない介入があっても、参加者がそれぞれ5%と30%だったら、集団としての効果は後者のほうが高いということです。 より早い、より多くの参加者が望める段階で、より簡便で、多少効果は落ちるとしてもアクセスしやすい介入を予防的に提供することは、経営者の投資義務といえるでしょう。 この世に、しっかり治療を受ければ必ず完全寛解するというような生易しい疾患は、さほど存在しません。 スパッと治る人もいるが、苦しまれる方もいるからといって、やる意味がない予防的介入なんてありません。 次に紹介する研究でもそうですが、この研究も、どの研究も、「もし介入しなかったら発症していた人」を検出することはできません。介入群の発症率がコントロール群より統計的に有意に低かったとしても、予防が効いたのかどうか、という証拠にはなりません。 それでも、あらゆる疾患に予防が重要であり、医療介入が可能になる発症前に、早期発見と早期介入で発症を回避することができると信じてヘルスプロモーションをしていくことが鍵です。 今回はハイリスク集団へのオンライン介入でしたが、ポピュレーションに対して研究を行った私の最も好きな研究を紹介します。 昨年1月に Psychological Medicine に掲載された、東大の川上先生らによる報告です。 オンラインとまんがは日本の誇る文化のひとつですから、それを利用して世界に日本から発信したこの研究は日本人として自慢です。 全文がほしい方は、ご連絡ください。 Does Internet-based cognitive behavioral therapy (iCBT) prevent major depressive episode for workers? A 12-month follow-up of a randomized controlled trial マンガを使った認知行動療法eラーニングにより働く人のうつ病を1/5に減らすことに成功 漫画を使ったeラーニングにより、うつ病の発症が5分の1になったという画期的な報告です。

うつ病など働く人の心の健康問題(メンタルヘルス不調)の増加は、大きな社会問題となっています。これまでメンタルヘルス不調の従業員への相談対応や職場復帰の支援が行われてきましたが、最近ではその予防(未然防止)に関心が高まっています。 個人向けのストレスマネジメントは従業員のストレスや気分を改善することがわかっていましたが、うつ病を予防できるかはわかりませんでした。 ましてや、一気にオンラインで抑うつ傾向がある人にもない人にも、CBT【認知行動療法】を行うとどうなるか、なんてことは、誰も試したことがありませんでした。 東京大学大学院医学系研究科の川上憲人教授と今村幸太郎特任研究員は、うつ病の予防効果が知られている認知行動療法に着目し、これを安価で多数の従業員に提供するために、マンガを使った全6回のeラーニングを新しく開発しました。IT系企業の従業員のうちランダムに選ばれた381人にこのeラーニングを提供し、視聴を促したところ、調査期間後に遅れてeラーニングを提供した同数の従業員にくらべて1年間のうつ病の発症率が1/5に減少することを見出しました。

本成果は、eラーニングによる認知行動療法がうつ病を予防することを明らかにした世界で初めてのものです。うつ病予防のためのeラーニングが広く企業に導入されることで、働く人の心の健康が大きく向上することが期待されます。 働く人のうつ病などのメンタルヘルス不調が増加し、また高止まっていることは一般に知られています。これまでの個人向けのストレスマネジメントは、ストレスの知識を増やす効果に加えて、抑うつや不安を減らす効果があることはわかっていましたが、うつ病などの精神疾患を予防できるかどうかは調べられていませんでした。 一方、これまで一対一の対面や集団での認知行動療法によって、うつ病のリスクが30%程度減少することが報告されていました。 しかし対面や集団での認知行動療法を提供するにはコストがかかり、多数の従業員に広く提供することは困難です。そのため、低コストで簡易に認知行動療法を提供できる方法が求められていました。 職場におけるうつ病の予防が、低コストで、多くの従業員に一度に提供することができるeラーニングにより可能になることには大きな意義があります。 本成果や今後の研究をきっかけに、うつ病予防のためのeラーニングが広く企業に導入されることで、働く人の心の健康が大きく向上することが期待されます。 政策や法政に異議を唱えるつもりはありませんが、皆さんは専門家の判断によって法制化されたストレスチェックには医学的な裏付けがあると信じていらっしゃるのではないでしょうか。 実際に簡易職業性ストレス調査票57項目はスクリーニングテストではありませんから、なにか、ハイリスクの人を特定できるような質問紙ではありません。 この研究の今後の報告に、1年以上経っても私がまだ期待している側面としては、うつ病になった人が5分の1になったという点ではなく、まったくリスクがない、あるいはリスクがあった人、が、うつ病にならなかったばかりではなく、確実にパフォーマンスが向上していることが考えられる点です。 確かに、この研究では、32人の従業員がiCBTプログラムを受講すると、そのうちの1名についてうつ病発症が予防できると推測されました。 それでは、31人は一人のうつ病発症を救うために、無為な時間を過ごしたのでしょうか。 いいえ、そうではありません。 マンガのCBTは、専門家の監修の元にプログラムを作れば、誰でも受講することができます。 研究に用いられたCBTはすでに市販されておりますし、心陽でもいわゆるCBTや第3のCBTといわれるマインドフルネスとアニメーションを用いたプログラムを提供しており、専門家によるサポートや、社内ピアサポーターの育成を同時に行っております。 本当に社員の健康を考えるなら、いや、本当に他人の健康だけを考えるなら、医療者になればいいのかもしれません。 そもそも経営者は、他人の健康を考える立場ではなく、その経営手腕という強みを活かし、 企業の運営を潤滑にし、儲けを出すことで社会に影響を与え、まわりまわって世界中の人を元気にする役割です。 それなら「効く」ヘルスプロモーションをデフォルトで社員に与える方法が、最も手っ取り早いはずです。 ぜひ、ABC FEELを採用してください。 最後にHealthy People 2010で提唱される効果の出るヘルスプロモーションプログラムの条件を引用します。 1.健康教育  ・情報普及と認識構築に沿ったスキルの成熟  ・ライフスタイルの行動変容 2. 健康文化の醸成  ・組織特有の健康行動への期待を反映  ・健康行動を進めるポリシーの策定  ・ポリシーを実施できるような社会的かつ身体的なサポート環境 3. 組織利益・人的資源インフラ・健康&安全第一環境の三つ巴 4. ヘルス・プロモーションプログラムと従業員支援プログラムのリンク 5. カウンセリングと教育によるフォローアップスクリーニングによる事後措置  ・メディカルサービス利用の最善策提案1.健康教育  ・情報普及と認識構築に沿ったスキルの成熟  ・ライフスタイルの行動変容 2. 健康文化の醸成  ・組織特有の健康行動への期待を反映  ・健康行動を進めるポリシーの策定  ・ポリシーを実施できるような社会的かつ身体的なサポート環境 3. 組織利益・人的資源インフラ・健康&安全第一環境の三つ巴 4. ヘルス・プロモーションプログラムと従業員支援プログラムのリンク 5. カウンセリングと教育によるフォローアップスクリーニングによる事後措置  ・メディカルサービス利用の最善策提案

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