君たちはどう食べるか(3)食意識とお国柄
お国柄によって食べ物に対する意識や役割はそれぞれ
"Attitudes to Food and the Role of Food in Life in the U.S.A., Japan, Flemish Belgium and France: Possible Implications for the Diet–Health Debate". Appetite. 1999
各国から一人ずつの研究者が名を連ねる形式もおしゃれな、この研究、肉体的な健康と直結し、よろこびの源泉でもあり、ときに不安やストレスの種にもなる、常に気になって、誰にとっても大きな支出のもとでもある「食べ物」や「食事」へのお国柄による感覚差を捉える、たいへん面白いレポートです。

P. ROZIN
University of Pennsylvania
C. FISCHLER
C.N.R.S. (Paris)
S. IMADA
Hiroshima-Shudo University
A. SARUBIN
University of Pennsylvania
A. WRZESNIEWSKI
University of Michigan
公衆衛生学は、個人ではなく、明確に規定された人間集団を対象として、その集団の管理者に対して、健康関連の諸問題に対する有効な対策を提案して、実践を支援するための科学です。
最近ではテレビなどでも取り上げられるようになったけれども、集団をみるというのはなかなか難しいものです。
年齢や性別、居住地域によるデータが出やすいのは、それが分類しやすいからです。
集団をわける、集団を測ることの難しさと複雑さについては、別の機会に説明します。
国というのはたいへんわかりやすい集団の分け方です。
地理や気候という環境の違いだけでなく、国民性、アイデンティティーという個人因子の特徴が加わります。
摂食という個人的な行動を、その文化的な傾向として把握するという難題に、この研究は質問力で挑みます。
質問をみてみましょう
まず米国で作成された52問の質問紙を、お国事情の異なる国々で正確に訳せるかどうかの調整を加えて、25問まで絞りました。面白いので全部紹介したいくらいなのですが・・・・・・
日本の企業の多くはアンケートが大好きなのですが、アンケートの集計と分析から何らかの真理を見出そうとする専門家である公衆衛生家にとっては、知りたいことに対して合目的的で妥当な質問紙を構築するのが一番大変な作業です。
たとえば単純に、塩分や脂肪、コレステロールといった各栄養素を意識していますか、という質問や、心疾患や肥満、健康やがんというアウトカムを意識していますかという質問のほか、このようなおもしろい質問もあります。
①アイスクリームって「おいしいもの」OR「脂肪の塊」?
②目玉焼きってどっち?「朝食の定番」OR「コレステロール」?
③炭水化物、パン、バターから、仲間はずれを探そう。

私は③が好きなんですが、皆さん、それぞれ試しに答えてみましたか?
当然正解はありませんが、おおむね、こうなりました。
アメリカ人はの答えは ①脂肪 ②コレステロール ③バター
フランス人の答えは ①おいしい ②朝食 ③炭水化物
あなたはどちら派でしたか?
結果をみてみましょう
さて、左の結果の棒グラフ、日本はどれだかわかりますか?
そして、アメリカ、フランス、ベルギー(北)は、それぞれどれでしょうか??

どの国でも食事と健康におおいなる関係があると思っているのは一致していますが、栄養にこだわる、楽しみと捉える、罪悪感を感じる、料理>材料など、食への意識はさまざまです。
塩分や脂肪分を控えるのは素晴らしい、よく考えて食べるべきと考える一番右の斜線の人々は、何故か最も自分たちの食生活を健康的だとは思えていないようです。
答え合わせをしますと、棒グラフは左の黒べた塗りからベルギー、フランス、日本、そして右の斜線がアメリカです。
想像通りでしたか?
そして各国の肥満率はこちらです。

アメリカ人の23~45%しか自分を「Healthy Eater」だと評価していませんでした。日本人は47~60%、ベルギーでは69~82%、フランスはなんと69~82%が自信を持っており、この質問に関しては他の問題以上に性や年齢による傾向が小さく、純粋に国の違いが大きく出ました。
グルメを楽しむベルギーやフランスでは、ゴージャス感にこだわったホテルより食事にこだわったホテルに泊まりたいと70~90%の人が答える一方で、アメリカでは27~57%にとどまりました。
全体としてアメリカ人は食事を毒、健康を害するモノとして、食べることに罪悪感を持っている人が多く、フランスやベルギーでは明らかに食事はエンタメであり、結果、食事を通して得ているアウトカム(肥満率)を比較すると、どうやらエンタメと思う方が楽しい上に健康であるというザックリとした結論が導けそうです。
男性と女性では女性のほうがアメリカ的という傾向もありました。
職場の食事を通して、従業員の健康を向上させようという企画を立てる際には、エンタメ的な食事が健康につながるというエビデンスをもとに、従業員を楽しませることを意識してもいいかもしれませんね。
「君たちはどう食べるか」を後押ししてくれるような、健康食行動を促したいのなら健康視点ではなく、美味しさ&楽しさ【システム1】で訴えろ!的論文が2019年10月に発表されたのでご紹介します。

学食で、いつもの野菜のメニューではなく、おいしさをアピールした場合と健康増進効果をアピールした場合の、学生さんの野菜摂取量を比較した実験です。野菜を食べさせたいのなら、おいしさをアピールするのが何より、これは公衆衛生アカデミアでは意外かもしれませんが、マーケティングでは当たり前です。
上の研究でも、食事をエンタメと捉えていた群のほうが、健康です。
つまり、何を食べるかよりも、「どう」食べるか、が重要なのです。
健康を強調された表示の場合に野菜を選択した学生は、ひょっとしたら健康のことを考えてメニューを選んだかもしれませんが、できるだけ多くの人が多くの機会に野菜を摂取するのが公衆衛生学的な目標であって、健康を考えてメニューを選択するのはプロセスでしかありません。
別に健康のことを考えて選択しなくても健康的な食事をすれば健康になるので、結局、システム1を刺激する方法がベストですね。
現在はずっと家にいてずっと食べているので、どんどん太ってしまいますが、家にいるのを促す際にも実行再生産数などシステム2に訴える方法とアーティストの動画配信などのシステム1に訴える方法の両方を上手に使っていくのが大切ですね。