株式会社心陽
健康経営とポピュレーションアプローチ 心理社会的集団免疫とは?

健康経営とポピュレーションアプローチ 心理社会的集団免疫とは?

健康経営とポピュレーションアプローチという題でCOVID19のさなかに書いたコラムです。
あまりにボリュームが多いので、一部、抜粋しますが、ぜひ、クリックして全文を読んで下さい!

ハイリスク戦略とポピュレーションアプローチ

医療は人、公衆衛生はその周りの環境、人と人との繋がり、社会を対象にするものだと説明しましたが、次にハイリスク戦略とポピュレーションアプローチを見ていきましょう。

例えばこちらは「日本の人事部」による健康経営辞典の説明です。こういったサイトから拾ってきたポピュラーサイエンスを、社内で展開して健康経営理解を進めたと誤解してしまう企業が多いようですね。

「ハイリスクアプローチ」と「ポピュレーションアプローチ」は、健康管理の領域で用いられる手法です。ハイリスクアプローチは、健康リスクを抱えた人をスクリーニングし、該当者に行動変容をうながすこと。ポピュレーションアプローチは、リスクの有無にかかわらず、集団に対して同一の環境整備などを指導することをいいます。例えば、健康診断で血圧や血糖値の高かった人を対象に健康指導を行うことがハイリスクアプローチ。健康増進を目的に、会社全体でスポーツ大会を行うことはポピュレーションアプローチに該当します。

「ハイリスクアプローチ」や「ポピュレーションストラテジー」という単語も時々耳にしますが、用語としては、「ハイリスク戦略(ストラテジー)」と「ポピュレーションアプローチ」が正しく、公衆衛生(←健康管理の領域)上の介入のスタイルを示しています。

ハイリスク戦略では、何らかの基準によって、集団内の人間を対象者と非対象者に選別します。
この選別のプロセスを「スクリーニング」と呼び、「ふるいにかける」という意味です。
ザルでふるって下に落ちずにザルの中に残った人を対象として、その特定の対象者にのみ介入する方法がハイリスク戦略、その選別プロセスを行わず、集団全体にたいして介入するのがポピュレーションアプローチです。

ポピュレーションアプローチかハイリスクストラテジーかは、対象者をリスク区分しているかどうかできまります。

会社全体に呼びかけてスポーツ大会を行っても参加者が健康意識の高い従業員や運動が好きな従業員だけだったとしても、リスク区分せず呼びかけているのなら、ポピュレーションアプローチです。
でも、参加者が極端に少ないとしたら、成功例とは言えませんね。

一方で、全社ではなく会社の一部署の全従業員で「サンクス・カード制度」をパイロット的に導入した場合、これが全社に波及してもしなくても、ポピュレーションアプローチです。一部署という特定の集団内に含まれるメンバー全員を、スクリーニングプロセスを経ずに、等しく巻き込んでいるからです。

福利厚生という表現も健康経営と混同されやすいものですが、福利厚生の原則は全従業員に等しく機会を与えることですから、ハイリスクストラテジーによりなにか費用が発生する場合は、会計上の注意が必要です。

結果的に全社員が参加しなくても、全社員に声がけする(機会を与える)ヘルスプロモーションプログラムの運営費用を福利厚生費とするのは問題ありません。

一方でBMI30以上の社員にのみ万歩計を配るようなハイリスク戦略に用いる費用は、現物支給の給与として処理する必要があります。スクリーニングしないで、不要な従業員に拒否権を与えて全員に配るとアナウンスする万歩計費用は、福利厚生費にしてもよいでしょう。

ハイリスク戦略にはハイリスク者をふりわけるためのスクリーニングが必要です。みかん箱の中のみかんを全部チェックして、腐っているみかんと腐っていないみかんに分けて、腐っているみかんを廃棄して残りを出荷するのはハイリスク戦略ですね。腐っているかどうかをスクリーニングするプロセスが必要です。そのプロセスには費用がかかります。そして、完璧なスクリーニングプロセスはありません。みかんの価値を決める要因は本来かなり多様なわけで、スクリーニングの時点で腐っているかどうかだけでみかんを判断してしまうという危険性があります。みかんでも多様なのに、人間だと更に複雑です。

健康リスクを抱えた人をスクリーニングするのは簡単そうに見えて、なかなか難しいものですし、健康リスクは人的資本として人体の内側に抱えているものの他、心理社会的な環境、つまり周囲の人や環境との関係性にも左右されることがわかっています。

SDH(健康の社会決定要因)という表現が一般的ですが、現代社会に生きる私達は社会的な環境の影響を受けます。

現在の感染症の流行もこれだけ世界の人々が行き交う暮らしではなかったら局所的にとどまったかもしれませんし、それこそ誰とも接触しない生活なら感染することはありません。

COVID19は私達に、環境と個人の健康リスクの関係を教えてくれましたね。

たとえば新型コロナウイルス感染症が肺炎リスクを高めるので、家の外に出ないようにロックダウンするのはポピュレーションアプローチ、スクリーニングの結果、新型コロナウイルスに感染している人を感染していない人とは異なる方法(宿泊施設など)で観察するのはハイリスク戦略、肺炎になってしまった人を治療するのは医療(図の頂点)です。
医療機関でしかできないのは医療だけです。
皆さんも随分、PCR検査の偽陰性(本当は感染しているのに、検査の結果では感染していないと出てしまうこと)について詳しくなったと思います。つまり、どんなに高度なスクリーニングでも本来介入するべき人を取りこぼしてしまう可能性と、介入しなくてもいい人を誤って取り込んでしまう可能性を孕んでいます。

毎日の検温をルール化している施設は多いですが、たとえば腋窩体温計の感度は42%ですから、発熱している100人中、58人が「発熱していない」と評価されてしまうリスクがあります。

一方で現在、世界中で進められている Social Distancing(社会的距離の確保)や、手指衛生に努めること、粘膜、特に顔を手指で触らないように気をつけること、マスクの着用などは、感染することやさせることを予防でき、すでに感染している人が実践してもなんらまずいことはありません。これらの社会的対策はスクリーニングを経るものではなく、まさにポピュレーションアプローチで行うことです。こちらの動画ではこのような社会的な対策を社会的ワクチンと呼んでいて、私はこの表現がすごく腹落ちしました。