株式会社心陽
最終更新: 2026/8/20
患者力

腋窩体温の意義

体温

体温は、シンプルですが、たいへん重要なバイタルサインです。

手術中の体温管理は 重要な課題です。
前額、口腔・鼻腔、食道、直腸、膀胱、肺動脈カテーテルなど、
深部体温に近い体温を、術中は持続的に測定します。
(深部体温については、こちらのコラム「睡眠のプロが教える冷房術」をご覧ください)

特に体温をシャープにコントロールする必要のある場合は、複数箇所でモニタリングします。

病棟を出る際にもたいてい腋窩(「えきか」と読みます。「わきのした」のことです)で
術前の体温を測定してくるのですが、
手術室で正確に深部温を測定してみると、かなりギャップがあります。

「34.7度です」なんて平気な顔で申し送られるとぎょっとしてしまうのですが、
すぐに体に触れてみるとあきらかに嘘だろ~~とわかります。
たいていの病院には、「予定手術前の体温が37.5度以上なら麻酔科に連絡」などという
規定がある一方で、下限については話題にならないことが多いのですが、
実際は、生理的な低体温のほうがヤバいっすよね。

そもそも34.7度で再測定しないような医療従事者の申し送りになんの信頼性もなく、
下限に規定を作ったところで、
そもそも「予定手術前の体温が37.5度以上なら麻酔科に連絡」に信頼性がないので、
同様に形骸化するだけ。

だから申し送りを一生懸命聞くより、自分で測定したくなり、
最近は、そういうナースに「おかしいと思わなかった?」なんて尋ねると、
ハラスメントと言われるらしい⋯⋯あ、体温の話だったw

低体温

脱線のお詫びに、実は怖い低体温の例がこちらです。

基本的には、ストレスがかかって、交感神経優位になれば、熱産生して体温は上がるので、
病的な変化としては、たいてい体温上昇が起きるのですが、
本来、体を守るための熱産生すらできないほどの状態は、高熱よりヤバいです。

重症感染症・敗血症

特に重症例・高齢者では重要で、低体温型sepsisは予後不良とも関連する。

高度甲状腺機能低下症、特に粘液水腫性昏睡

低体温+意識障害+徐脈・低換気・低Naなどならかなり重要。

低血糖

重症低血糖では実際に低体温がよくみられ、低血糖による代謝低下・エネルギー不足が関係すると考えられている。

副腎不全/下垂体機能低下

重症内分泌不全の一徴候として、特に副腎不全に低血糖、低Na、循環不全などが重なった場合。
下垂体障害なら中枢性甲状腺機能低下も絡みうる。

中枢神経系の体温調節障害

視床下部病変が典型で、脳腫瘍、外傷、脳血管障害など。

ショック・重症循環不全

出血性ショック、重症心不全など。

高度の低栄養・飢餓・悪液質

基質不足+熱産生能力低下。
高齢者の低栄養では寒冷に対する熱産生反応自体が低下することも示されている。

薬物・アルコール

エタノール、鎮静薬、睡眠薬、オピオイドなど。
中枢性体温調節、意識、シバリング、行動性体温調節が落ちるので、本当に深部体温が下がる。
これは「器質性」ではないけど病院では外せない。

麻酔中は原則として体温が下がるので、
覚醒直後のシバリングは避けるべき重要な合併症。

一方、手術によってはうつ熱による高体温のリスクがあり、
非常に稀だけれど悪性高熱症のモニタリングとしても重要。

手当には、触診以上の価値がある

脇の下に体温計を挟むのはけっこう難しい動作ですし、
小児や高齢者はもちろん誰にとっても認知の問題が発生しますよね。

本来、測定姿勢や理解によって差が出てしまうような検査は
あまり望ましいものではありませんが、
ひとつよい点としては、非侵襲的な点ですね。

ただ、予測値として利用するだけなら、そもそも触診でもいいのかもしれません。
34.7度なんて報告をされないためには、まずは触診による予測値を記入、
その後、測定値を記入、みたいにすると現場教育的にはよさそうですね。
だったらもう、触診だけでいいですけどね。

ところが、最近は非接触式の体温計が使われることが多いですね。

医学生の頃、「手当て」という言葉や、
「看護」の「看」が「手」と「目」でできてるなんて話から、
患者に手を当てることが、以下に大切かを習ったけれど、
コロナ禍以降、医療従事者まで患者に非接触な気もします。

だったら、オンライン診療でいいんですけどね。

インフルエンザワクチン接種前の検温では腋窩体温計を用いていましたが、
クリニックの備品は3分計でみんな飽きてしまい、
なぜか「35.7度」の測定値が最頻値という明らかに疑わしい結果になりました。

あまりにクレーム(「長い!」)が多かったので、
20秒で予測値が出る体温計に変えたところ、
なんとなくよさそうな値が出るようになりました。

その後、コロナ禍に非接触体温計を購入したものの、
そもそもインフルエンザワクチン接種時の体温測定の意味が不明なので、
未測定の場合は、触診で済ますようになりました。

私が測らないと、それは不安みたいで、
どの企業でも自分たちで測ってくれるようになりました。

腋窩体温測定の精度

医療上の測定結果で、なんとなくよさそうな結果を信じてしまい、
そうでない結果を機器の不良のせいにしてしまうのは非常に危険なのですが、
今回の研究で「やっぱりな~」と思わず納得してしまいました。

Accuracy of Peripheral Thermometers for Estimating Temperature: A Systematic Review and Meta-analysis

2015年11月に出された論文です。

末梢体温計による発熱の検出に関する
プールした感度および特異度はそれぞれ64%および96%であった。
すなわち、末梢体温計が発熱を検出した場合、
発熱が存在する確率は高かったが、
末梢体温計は高頻度で発熱を検出し損なった。
腋窩体温計の感度がもっとも低かった(42%)。

感度というのはざっくりいうと、本当に発熱している人のうち、
末梢体温測定によってちゃんと発熱していると評価される人の割合で、
特異度というのは実際に発熱していない人のうち、
正しく発熱していないと評価される人の割合です。

すべての検査はその感度と特異度で評価されます。

たとえば健診のようなスクリーニングでは、 
病気がある人を漏れなく抽出できたほうがいいので、
感度を上げますが、その分、特異度が下がってしまいます。
(この辺はそのうちゆっくり書きましょう!)

要は、熱が出ていないのに出ていると評価される人はあまりいないけど、
熱があるのにないと評価されてしまう人はけっこういるってことですね、
まあ、実感と一緒ですね。それが科学的に証明されたわけです。
もし、熱っぽいなあと思ったけど腋窩体温が平熱な場合は、
その測定値を疑う必要があるかもしれませんね。

あなたの熱っぽいという感覚のほうが充分信頼できます。
それを検証するためには、
肺動脈・膀胱・食道・直腸温をreference standardとして、
「中心部測定では発熱あり/なし」を判定し、
それに対して熱っぽい感覚が発熱を拾えたかをみないといけませんが。

もっとびっくりするのは、
成人の発熱患者では末梢温と中心温の95%一致限界が−1.44~+1.46℃。
低体温ではさらに−2.07~+1.90℃。

腋窩体温の測定値の95%が、−1.44~+1.46℃に分布していたってことです。

簡単に言ってしまうと、プラス・マイナス1.4度以上は誤差範囲って感じです。

コロナ禍の37度以上は出勤停止問題のとき、
これを知っていたので、とてもバカバカしく感じました。

腋窩で37度の場合、35.5度より低い場合も、38.5度より高い場合もあるんです。

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Accuracy of Peripheral Thermometers for Estimating Temperature: A Systematic Review and Meta-analysis

Daniel J. Niven, MD, MSc; Jonathan E. Gaudet, MD, MSc; Kevin B. Laupland, MD, MSc; Kelly J. Mrklas, MSc; Derek J. Roberts, MD, PhD; and Henry Thomas Stelfox, MD, PhD

[+] Article, Author, and Disclosure Information

Ann Intern Med. 2015;163(10):768-777. doi:10.7326/M15-1150

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