睡眠で十分休養がとれていますか
この質問に見覚えがありますか?
健康保険組合の特定健診で必須事項になっている問診なので、1年に1度「はい」か「いいえ」で答えています。
会社勤めの皆様は、労働安全衛生法に定める一般健診と同時に実施していることがほとんどなので、年に1回会社からお知らせがあって受ける健診では、必ず尋ねられます。
フリーランスの方など国保の加入者は、自治体の健診を受けるときに尋ねられます。
協会けんぽの各支部ごとに、どれくらいの人が、睡眠で休養が十分とれているかを示すデータ(令和3年度)がこちらです。このデータは、第1位の富山支部がまとめて公表してくれています。
全国平均は37.2%です。3人に1人より多く、5人に2人より少ない程度ですね。
最も睡眠で休養が取れている島根は3人に1人より少なく、ほとんど4人に1人に近いくらい、最も睡眠で休養が取れていない富山は2人に1人に近い45.6%です。
睡眠休養感は睡眠の質の指標【厚生労働省】
睡眠で休養が十分とれているという感覚のことを、睡眠休養感といいます。つまり、「睡眠で休養が十分とれていますか?」という問診に「はい」と答えた方は、「睡眠休養感あり」ということです。
2024年に発表された「健康づくりのための睡眠ガイド2023」によると、睡眠休養感は睡眠の質の指標であり、睡眠の量の指標である睡眠時間と並んで、まさにこの図の両天秤のようにバランスして重要だと説明してあります。
この図は厚生労働省のパンフレットから拝借しました。
睡眠は、当日の1日分の疲れを癒やして後片付けをして、翌日以降の夢を実現するための準備をする時間です。
政府にケチをつけるわけではないのですが、睡眠で充分に休養が取れていない理由は、充分な睡眠時間が取れていないせいであり、睡眠休養感はやはり、睡眠の量の指標だと、私は考えます。
覚醒の質を高めるために睡眠の量が必要
そもそも、私の持論では「睡眠の質」という実態はありません。なぜなら、睡眠中は意識がないので、何かを感じることはできません。何らかの方法で、その質をリアルタイムに評価するのは不可能なのです。睡眠休養感を感じるのも、その他の睡眠への満足感や課題感を認識するのも、すべて覚醒中だからです。
私たちは覚醒中しか、何かを評価することは出来ないので、他覚的な評価を可能にする検査機器などを用いない限り、自覚的に睡眠の質を評価することはできません。
そのため、世間で言われる「睡眠の質」とは、他ならぬ「覚醒の質」なのです。
そして睡眠が、その「覚醒の質」に影響する因子のうち、最もカンタンに定量できるのが睡眠時間、より正確には、睡眠するために寝床に横になり始めてから、睡眠の機会を終了すると決めて寝床から起き上がる起床までの「臥床時間」(ベッドで横になっている時間、TIB:Time in Bed)なのです。
睡眠休養感の有無と睡眠時間(「睡眠の量」)
私たちが睡眠について日常的に把握できる因子は「臥床時間」だけです。
とはいえ、本日のタイトルは「睡眠休養感を高める」です。
睡眠について、日常的に把握できる因子が「臥床時間(TIB)」しかないという制約の中で、私たちはいかにして「睡眠休養感を高める」という目的を達成すればよいのでしょうか?
そこで紹介したいのがこちらの研究です。
TSTはTotal Sleep Timeで、私たちが知覚できる臥床時間ではなく、ガチで眠っている時間です。そのため、実際に被検者が横になっていたのは、もう少し長い時間です。
この研究ではTST(ガチの睡眠時間):331分がTIB(臥床時間):400分、TST:414分がTIB:477分に対応していました。
この図は、TSTが6時間31分以上6時間56分未満の睡眠時間で睡眠休養感がある場合を基準(=1.0)として、他に生死に関係ありそうな条件を補正すると、6時間31分未満の睡眠時間の人のうち、睡眠休養感がない場合は1.54倍、睡眠休養感がある場合は1.34倍、総死亡リスクが高いということを示しています。
一方、6時間56分以上の睡眠時間(TST)だと、睡眠休養感がある場合もない場合も、同様に総死亡リスクが0.55倍、つまり6時間31分以上6時間56分未満で睡眠休養感がない場合の半分近く、死ぬ確率が減るってことです。
結局のところ、睡眠時間が短いほど死にやすい、睡眠時間が長いほど死ににくい、そして睡眠時間が長い場合は、睡眠休養感があってもなくても同じように死ににくい、だから、睡眠休養感なんてさほど重要ではない、と思ってしまうかもしれませんが、さらに図を細かく見てみましょう。
下に n=xyz として数字が書いてありますがこれは、この範疇に入る人の人数です。つまり、TSTが6時間31分以上6時間56分未満の睡眠時間で睡眠休養感がある人は972人いたということです。TSTが6時間31分以上6時間56分未満の睡眠時間で睡眠休養感があるカテゴリーに入る人が、6区分の中で最も人数が多いので、この群を基準にしたんですね。
余談ですが、医学的な正常とか標準とかいうのは、この実験の基準のように多数派と一致することが多いです。位置的にも真ん中で、多数派で、基準としての条件を満たしていますよね。
そして、白(睡眠休養感なし)と黒(睡眠休養感あり)の四角の上下に線が伸びていますが、これはそれぞれの群に入る人々のばらつきを示しています。
睡眠時間が6時間31分未満で睡眠休養感がない人のうち、95%の人は1より上にいて、睡眠時間が6時間56分以上で睡眠休養感がある人の95%は1より下にいます。つまり、科学的な評価の上で、睡眠時間が6時間半未満で睡眠休養感がない人は、有意に死にやすく、睡眠時間が6時間56分以上で睡眠休養感がある人は有意に死ににくいということです。
有意かどうかで見てみると、同じ0.55倍の6時間56分以上群でも、睡眠休養感があったほうがよさそうです。
そして、この人数に注目して、各睡眠時間群の「睡眠で十分休養が取れていないものの割合」を見ていくと、Q1:47.9%、Q2:37.9%、Q1:32.2%です。
全国の協会けんぽの平均37.2%を下回るためには、ガチの睡眠が7時間以上は必要だということがわかりますよね。
睡眠休養感を高めるためには、とにかく、たくさん、寝ること
というわけで、結論です。
まちがいなく、「睡眠休養感はあったほうがいい」です。私の持論では懐疑的ですが、なんといっても天下の厚生労働省が質の指標としているくらいの因子ですから、あったほうがいいでしょう。
そして睡眠休養感を高めるためには、臥床時間を延ばすのが最も手っ取り早い策であるということです。
最も手っ取り早いとは言いましたが、唯一の策でもあります。
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