先日、ボケたくないなら眠りなさい⑤をお届けしましたが、続編として、少し、マニアックな情報の提供です。
いきなり余談ですが、2021年8月17日、コロナ禍真っ最中の真夏に、私は生まれて初めて救急搬送され、生まれて初めて入院しました。病名は、脳血管攣縮症候群で、前々日の睡眠中の雷鳴頭痛で発症し、雷鳴頭痛で睡眠不足になった睡眠を補おうと睡眠薬を飲んでしまった結果、最悪の事態になったと自分では思っています…脳の血管の攣縮という血管の異常反応は、REM睡眠中にこそ、起こりやすいものなのです。
そういうわけで、前回のコラムでもお話したとおり、脳血管障害と睡眠には激しく深い関係があるのです。
朝、目が覚めたら、思うように半身が動かない……
そんなふうに、睡眠中の発生が疑われる脳血管障害は少なくありません。
研究によると、虚血性脳血管障害も脳出血も1日24時間を4時間毎に6分割した場合、午前8時から正午の発症が最も多く、第2位が午前4時から午前8時です。
静かに眠っていると思っていたら起きてこないので、寝室を覗いたら、亡くなっていた……
なんてエピソードも、なんとなく、想像がつくのではないでしょうか。
ちなみに、朝目覚めたときに異常な症状があった場合、発症時刻はどうなるのでしょうか?
零時に臥床して、7時に起きたら、7時になるのでしょうか?
実は、しっかりと定義はありまして、記憶がない期間は除いた上で、「最後に無症状だったとき」が発症時刻になります。睡眠中は記憶がないので、零時にバタンキューと眠ってしまって、次に意識がもどったのが7時だった場合には、発症は零時になります。
それは違うんじゃないの?と思うかもしれませんが、たとえば妊娠期間は妊娠前の最終月経の開始日から算定するというのがルールです。当然、最終月経の開始日には妊娠は絶対していないのですが、それがゼロ日になるのがルールなんです。
最後に無症状だった零時には、確実に半身は動いていて、絶対に発症していないのですが、それが、発症時刻になります。
これはルールで、科学ではないんです。
急性期の脳血管障害においては、発症後、速やかに、3~4.5時間以内にt-PA療法を開始できると、救命率や予後が爆発的に高まります。 そのため、「時は脳なり(Time is Brain.)」という標語があるくらいです。
しかし、t-PA療法は、発症からの時間経過が長くなると効果が減るばかりでなく出血のリスクが増える点に注意しなければいけません。安全のため、最後に無症状だったときを発症とするというルールが設けられています。
そうはいっても、しつこく問診していくと、「そういえば、途中でおしっこに起きたとき、時計を見たら5時20分だった。そのときには、手も足もこんなふうにしびれてはいなかった」なんてことを思い出してくれるかもしれません。だから私たちはしつこく聞くんです。その場合は、発症時刻は5時20分になります。
病気は医者にしかわからないと思うかもしれませんが、このように患者の記憶に治療法まで強く依存するものなのです。
先ほどお伝えしたように、研究によると、虚血性脳血管障害も脳出血も1日24時間を4時間毎に6分割した場合、午前8時から正午の発症が最も多く、第2位が午前4時から午前8時です。
朝起きたときの発症が多いのなら、一度も覚醒の記憶が残っていない人が多いのだから、最も臥床を開始する人の多い午前零時~午前4時がピークになるはずですが、覚醒している人の割合が高い、覚醒する人がある程度はいるけど、臥床する人は極端に少ない、午前8時から正午がピークです。
明け方から朝型に脳血管障害が発生しやすい理由としては、図に示すように、睡眠の後半、明け方はREM睡眠が優位になることが考えられます。
REM睡眠中は筋弛緩が起こり、筋緊張が低下して、体に力が入りにくくなります。
REM睡眠中は夢を見ますが、たとえば空を飛ぶとか、格闘するとか、夢の中では、かなり大胆な動きをします。筋弛緩は、夢に同調して体が動いて、怪我をしてしまうリスクを回避しているための機序だと考えられています。
この運動神経抑制機構がうまく働いていない睡眠障害が、REM睡眠運動障害です。
REM睡眠の間、NREM睡眠に比べて、交感神経は活性化します。正確には、覚醒して緊張している交感神経優位の状態と、眠ってリラックスしている副交感神経有意の状態が、激しく不安定に入れ替わるような状態です。
平均すれば、NREM睡眠より興奮していて、覚醒中よりはリラックスしている状態ですが、不安定であるという点が、すこぶる物事を複雑にしており、そのため、脈拍や血圧が激しく変動します。
そして、筋弛緩が起こって、舌根の緊張が緩むため、閉塞性呼吸障害が起きやすくなります。呼吸障害が起きた結果、更に自律神経は交感神経優位に傾き、不安定性が加速します。
このとき、脳血管障害と極めて強い関連性が認められている発作性心房細動が起こりやすくなるのです。
もちろん、高血圧も起こります。
その結果、明け方から午前中の脳血管障害発症リスクが高まるのではないかと考えられます。
何時であろうと命に関わる脳血管障害を起こさないためにできること、それは、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療です。
昨日も産業医面談で、「ほとんど睡眠時無呼吸症候群だが、基準に達していないので、治療はない」と過去に告げられたという方と話しました。医師法の第一条にあるように、「医師は、医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」のが仕事ですから、ガイドラインや適用基準に惑わされて、低減できるリスクを放置してはならないと私は考えますが、意味のわからないことを言われたら諦めず、ぜひ、心ある医療機関を探してください。
運悪く脳血管障害を起こしてしまった場合の後遺症としての睡眠時無呼吸症候群発症の頻度が高いこともわかっています。発症リスク因子としても高いものなので、脳血管障害イベント後に発症したものかどうかはほとんどの場合、確かめようがないのですが、患者の71%に睡眠時無呼吸症候群が認められたという報告があります。
もちろん、発症後であっても治療導入するメリットは大きいのですが、脳血管障害の発症後は麻痺が残ることも多く、マスクの装着等の操作も困難になります。
できれば発症前の大脳白質病変状態で発見治療して、すばらしい人生を送りたいものですね!!!
Comments