すこやかな成長のための睡眠【こどもの睡眠】
- 石田陽子 Yoko Ishida
- 3月15日
- 読了時間: 6分
更新日:3月16日
睡眠障害センター市民公開講座【すこやかな成長のための睡眠】
睡眠障害センターの松井健太郎先生のお話を聞きました。
ちょうど、昨日、セミナーを行ったところだったので、非常に参考になりました。
田中靖浩先生から、【熟★睡セミナー】には綿密な台本が必要だとご助言いただいていたのですが、1週間前の打ち合わせには、冒頭部分の台本しか間に合いませんでした。
アイスブレイク用のクイズの1問目は、「人間の体内時計が発見されたのは次のうち、どれ?」で、熟年の睡眠のセミナーなので、睡眠科学の発展は近年のことであり、学校で習っているはずはない、ということを伝えようとしました。 ちなみに第2問は、「人間の体内時計の遺伝子が発見されたのは、次のうち、どれ?」というものでした。
結局2人のプロ講師から激しいダメ出しを受け、このクイズは封印したのですが、そのあとの懇親会で披露したところ、「質問の意味がわからない。ボツにしてよかった」と全員に言われました(笑)

本日の松井先生には、すごくシンパシーを感じました。というのも、市民講座だから、易しく話そう、とすごく考えてらっしゃるのが伝わってきて、私にとっては、難解な内容を非常に易しく、しかもお人柄が出て優しく説明している、最高に素晴らしいセミナーでしたが、失礼を承知でコメントすると、私と同じしくじりも感じました。
「縦断研究」とサラッと言ってしまってから、「あ、縦断研究というのは……」とシンプルに補足説明してくださるんだけど、松井先生、縦断研究がわからない人は、その一言の説明ではわからないですよ、たぶん。しかも、わからない人は、わかっていないことを、さほど気に留めていませんよ・・・という、なんというか、私にとっては、自分を客観視できる時間でした。私のように一言一句わかりたい人間にとっては、わからない単語が一個あるとすごく律速してしまうんですけど、もっと大きな網をかけてコミュニケーションしている人のほうが多いんですよね。
また、松井先生は、エビデンスと私見をすごく強調して分けていて、それは我々業界人にとっては当然の姿勢なんですが、昨日、懇親会で非業界人の皆様に教えていただいた知識を鑑みると、反対にわかりにくくしているな、と理解できました。おそらく非業界人の方々は、業界人の「私見」を聴きたいんですよね。
なぜなら「業界人の私見は、エビデンスはもちろん、業界人しか獲得できない知識と経験に基づいている」と信じたいからではないか、と私は理解しました。これは私見です(笑)
たしかに、エビデンスって、なじまない人にとっては受け取りやすい情報ではないので、それを、まあ、セミナーを聞くくらい気に入っている医療者が一旦、噛み砕いて教えてくれることを期待しているんだと思います。英文研究を直接読んでもわからないし、科学的エビデンスより、推しの医療者の言葉のほうが、価値があるんでしょうね。 昨日は全く最新のエビデンスに触れていないのに、視聴者の方からは「最新の研究に触れられて勉強になった」という感想をいただきました。どうも私たち医者や研究者にとっての最新の研究と、そうでない人達にとっての最新の研究にはギャップがありそうです。
美味しい料理の食レポを、自分が推している食レポのプロから仕入れたい、というのと似ているかもしれません。例えば私は「さとなお」さんのレストラン評を、一番信頼しています。
主治医とコミュニケーションを取れ、と皆さんに言っている私は、正々堂々とエビデンスを噛み砕いて伝えるべきだな、と思いました。
こどもの睡眠にとって、日本は国ガチャ失敗?
と、話が横にそれすぎましたが、「日本の成人の睡眠は世界的にレベルが低い」ことは、お伝えしてきているとおりです。そして、「こどもの睡眠は親の睡眠、特に母親の睡眠に影響を受ける」ことが明らかです。
つまり、「日本の【こども】の睡眠も、世界的にレベルが低い」んです。これはもう、親ガチャどころか、国ガチャの話ですよね。

こんな感じで、こどもも大人も世界ワースト1位なんです。私はよく、4歳以降は睡眠時間が12時間程度でよいので昼寝は不要、1日の半分以上を眠るこどもには昼寝が必要、と話しますが、日本の0~3歳児、12時間以上寝てないんですよ・・・・・・・やばいですよね。昼寝の話が始められないレベル。。。
更に恐ろしいのは、こどもの睡眠に対してどれだけ課題意識があるかというランキングでも、日本はワースト1位なんですって。最も課題意識を持たなければいけないのに、認識していない、ってことですよね。
変わりましょう、我々、大人から。未来あるこどものために。
親ガチャという話では、親のSESが高いほど、子どもの睡眠が短い、という傾向があります。 SESはSocio-Economic Statusで、親の社会的な地位のこと、つまりSESが高い人は、年収が高く、学歴が高く、社会的に権威のある仕事に就いています。
私が研究している社会疫学とは、人々の健康格差に影響するSDH(Social Determinants of Health:健康の社会決定要因)を突き止め、それに介入することで、できるだけ多くの人が健康になることを目指す学問です。
たとえば本日のセミナーで得た情報、「ショートスリーパーには、DEC2やADRB1という遺伝子がある」というのは生物学的な健康決定要因です。遺伝子を変えることはできませんが、SDHなら、社会の力で変えることができるのです。
親のSESが高いことは、概ね子どもの健康に有利に働くことがわかっていますが、睡眠だけは正反対、というわけです。
同じように、都市部の睡眠時間は農村部の睡眠時間より短いことがわかっています。多くの場合、都市部のほうが医療を含め健康に関するソーシャルネットのアクセスがよいため、健康には有利なことがわかっています。
しかし、親のSESが高いのと同様、都市部のほうが、睡眠時間が短くなるというのは、すごく興味深い話です。そしていずれも、バイオロジカルな健康決定要因ではなく、明らかにSDHです。
とにかく、こどもの睡眠時間も親の睡眠時間も短いというのは、日本の社会課題であり、どげんかせんといかん事態です。すごくクレームが出そうですが、こどもの睡眠時間が短いという社会課題に比べれば、高齢者の睡眠時間が長いとか、高齢者の睡眠薬依存がすごいとかいう社会課題については、全然、優先順位は低いと思っています。
こどもにとっての眠るときのルーティーンを崩さないほうがよい、という話も腑に落ちました。
というのも私、小学校2年生くらいで、幼稚園に行く前から眠るときに枕に巻いて寝ていて、ボロ雑巾のようになったムーミンのバスタオルを母が捨てて、新しいバスタオルに変えたとき、普段はめったにごねない私がギャン泣きして、2人でゴミ置き場に行って、ムーミンを救出しようとしたことを覚えています。不思議なものでそのときタオルを見つけたのかどうかは思い出せませんが、母がタオルを捨てたと知ったときの激しい感情は今でも覚えています。
こどもは概ね、成人や高齢者に比べて、眠る力が優れています。それでも、こどもの睡眠時間を親のエゴで奪うことで、成人になって慢性疲労症候群や統合失調症などの疾患にかかるリスクが上がることがわかっています。一方で、睡眠時間が長いこどもほど学力が高く、成人になって高収入になることがわかっています。
無理して宿題をさせるより、たくさん寝ることを褒めるほうが、結果、得します。
未来あるこどものために、大人から変わりましょう。
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