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第⑤位 それでもバリウム飲みますか

バリウムを飲むのは義務ではない


法定健診を受けるのは労働者の義務ですが、バリウム(胃X線検査)は義務ではなく、会社の好意、健保の提供努力義務(しかもバリウムに限らず胃カメラでよい)、健診センターの営業成果です。


バリウム検査(正式には「胃(部)X線検査」)に心身医学的、社会的(経済的&利権的)意義はありません。

国民皆保険制度(診療報酬制度:医療の内容によって点数=価格が一律に決まっているしくみ)に近年、はじめて「費用対効果の概念」が試行的に取り入れました。

費用対効果以外に、どんな観点で料金を決めていたのでしょうかね?


そういう業界でもありますので、特に現実的な費用対効果の支店をお持ちの経営者の方々は、コストをかけて従業員の健康や生産性を引き下げる施策を避けてください。


法定健診項目

企業が従業員に受けさせなければいけない法定健診項目以外の検査に関しては、企業側のサービスと健診センターの営業努力で行われていると思ってよいのですが、ナゾのサービスで法定外福利厚生費を浪費し、健診センターの売り上げにのみ貢献して、従業員から嫌われている場合がありますから、企業としてはどの検査がコンプライアンスとして必要なのか、法定外の健診が従業員の健康管理やパフォーマンス向上、または医療費の削減に真に有効なのか、を本来、しっかりと吟味して投資しなければ経営とはいえません。

多くの労働者が、「え?! バリウムって飲まなくてもいいの??」と驚きます。


「なぜ飲まなきゃいけないの?」と疑問を持ってください。あなたの大切な時間、お金(会社や健保が負担するとはいえ)、そして身体的負担を投じて、超個人情報である身体情報を赤の他人に渡して、果たして相応の利益があるのか、常に意識してください。

健康経営はまず、個人のレベルではじめることが重要なのです


ちなみに、話は逸れますが、健診時のちょっと豪華なランチなど、当然、無意味です。 健康効果が保証されていないことはもちろん、検証さえされていませんし、なんとなく嬉しいからなんとなく食べてるだけで、ランチ代の2000円、気の置けない仲間との贅沢ランチに使ったほうが、パフォーマンスが上がるのではないでしょうか?


労働安全衛生法の制定時及び主な改正時に規定された内容


昭和22年(1947年) 労働基準法による健康診断義務

昭和47年(1972年) 安衛法成立 健診の回数と内容を規定

平成8年(1996年)  産業医の専門性確保,健診結果についての意見聴取,健診実施後の措置,一般健診結果の通知

これを見て、どう思いますか?

健康診断の義務化はおよそ70年前からはじまっているのですが、結果の通知、健診事後措置が法律で決まったのが1996年って・・・今や個人情報がどうのと厳しい時代ですが、50年の間、健診したあと、どうしてたんでしょう???

70年前から決まっている労働者の健康診断って、70年後も本当に有効なのでしょうか?


産業構造の変化に法律が追いついていないのではないかとかすべての法律は啓発および行動の習慣化に力を発揮するポテンシャルがあるが、すべからく形骸化する将来を孕んでいるとかという問題については私のライフワークでもありますので、お好きな方にはイヤというほど語りますが、ちょっとだけ知りたい方にはこちらが便利です。


実際に50年の間、やるだけやって放置していたわけではないことを強調しておきますが、この50年で日本が世界にその後も例を見ないほど寿命と経済力を延ばしたことは皆さまご存じの通りですから、寿命と経済力を伸ばすのに健康診断事後措置はさして必要がない、といえるのかもしれません。

バリウムを飲んで何を知りたいのか


皆さんは、何を知りたいですか?

知りたいことがないんだったら、何もかも無駄だからやめませんか?

また、何かを知ったとしても、そのあと生活や行動を何も変えないのなら、それはやっぱり無駄です。

世の中に無駄なことなどない、というのは、無駄遣いを奨励することばではなく、どんな小さな経験も好行動への変容につなげることができるという意味ではないでしょうか。


胃エックス線検査の放射線被曝量は胸部単純写真(いわゆる胸のレントゲン)の150~300倍。繰り返すことで発がんの可能性があります。

検査によって被曝し、貴重な時間を費やし、身体的な苦痛を受け、費用を負担し、個人情報・生体情報を記録されるなどのさまざまなリスクの果てに、知りたいこともない、変えたいこともないっておかしいのではないでしょうか。


バリウムVS胃カメラ


健康診断項目の見直しについて言及すると、「やっぱり胃カメラ(上部消化管内視鏡)のほうがいいんですか?」なんて質問をよく受けます。

「いい」ってどんな意味なのでしょうか。


内視鏡検査は主に口から入れて口腔内(鼻孔からの場合は鼻腔内)、咽頭、食道、胃、十二指腸まで小さなカメラでモニター上の動画を観察しながら進み、怪しい部分はその場で切り取ります。切り取った部分を細かく調べたうえで、さらなる治療を提示されることもありますが、切り取ることが必要十分な治療である場合も多く、検査と診断と治療が同時に済みます。カラー動画なのでエックス線より異常の発見にたけていますが、内側から小さな視野で観るので胃全体の形がズバリ出てくるエックス線に比べて胃の全体像はわかりづらいです。粘膜表面の視覚的に捉えやすい異常は圧倒的に胃カメラが有利で、多くの治療を要する病変がこのような性状を持ちます。どちらにも見逃しはあり得るし、色調変化のない線状の変化などはエックス線のほうがわかりやすいようです。


もし「いい」が「胃の全体像を見られるほうがいい」であれば、バリウムがおすすめです。


胃炎、胃潰瘍、胃がんなどは粘膜の変化ですし、胃の全体像の異常のみの変化をもたらす病態は多くありません。内視鏡は、口腔内(舌を含む)、咽頭、喉頭、食道、十二指腸の異常も検出できます。 またバリウムで所見があれば二次検診は内視鏡です。

最初にスクリーニングでバリウムを行なう医学的価値は皆無です。

体内の病変をできるだけ多く発見し、必要ならその場で治療に進みたいと思うのなら、胃カメラがおすすめです。

検査の精度では胃カメラ(内視鏡】が勝利です。


ただし、しつこいですが、検査の結果、何も行動を起こすつもりがないのなら、検査は不要です。

検査は治療とは違い、その後に好行動を選択することでしか健康に直結できません。

検査なんて受けないほうがいいという医者も多くいますし、私もその一人ですが、検査の精度のためではありません。検査を受けないで好行動を選択する人が一番賢いのです。

たとえばバリウムの結果が「残渣」とあったとき、「慢性胃炎」とあったとき、その次にあなたがどうするか、それが大切です。

苦しい思いをして検査したバリウムや胃カメラの結果をきちんとみていますか。

ただ被爆して終わりを毎年繰り返すと、胃部の健康につながらない以上に被ばくによる発がん性が心配ですから、やめたほうがいいと思います。

次に検査の快適さですが、時間は圧倒的に胃カメラが長くかかります。胃カメラの場合は、鎮静で苦痛は消えますが、鎮静薬を拮抗するお薬を投与されるとはいえ、鎮静後はすぐに帰ることはできず、またプラスで時間がかかります。ノーベル経済学賞の行動心理学者、ダニエル・カーネマン先生の有名な研究によると、検査の苦痛の記憶は時間×苦痛の積分値ではなく検査終了間際の苦痛で決まります。麻酔科学にはpre-emptive analgesiaという侵害刺激が加わる前に鎮痛を始めると効果があるという概念があります。つまり、胃カメラの苦痛や嫌な記憶は科学の力でゼロに近づけられそうです。


バリウム検査はなんといっても発泡剤入りのバリウムと検査後の下剤を飲まされます。人間の体は発泡剤入りのバリウムを飲み込んで排泄するようにはできていないので、ものすごく不自然なことをやっています。生物としてプログラムされていない不自然な事象を経験すると身体的に大きな負担がかかります。バリウム後、盲腸になる確率は10倍です。 げっぷを我慢させられ、おかしな動きをさせられ、なんとなく人間の尊厳が奪われるという心理的苦痛もあります。 そして下剤が効いてきたとき、家庭用のトイレではこれを受け止めきれません。トイレも私たちと同じようにそのようなものを受け止めるようにはできていないのです。トイレの掃除はほんとうに苦痛です。できれば自宅ではなく病院や会社など、集合施設のトイレに行きましょう。

以上から快適さは胃カメラに軍配、時間についてはトイレで苦しむ時間を入れるとやはり胃カメラの勝ちというところでしょうか。

次に価格です。最初に触れました診療報酬(健康保険を使う場合の定価)で見るとバリウムは8,620円(自己負担額3割で2,590円)、11,400円(自己負担額3割で3,420円)ですが、これには当然、費用対効果は考えられておりません。ちなみに日本が費用対効果のモデルにしたいと口先では言っている英国のNICEで胃のスクリーニングについて調べてみると、「コスパが悪いので意味なし」と即答されます。

有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン(2014)なんてものが存在するのも日本固有の特徴で、「ガイドラインではバリウムのほうがいいみたいですね」という人が時々いますが、それはひとつ前のガイドラインです。むしろ研究成果によってどんどん変わるものだということを学んでほしいです。

健康診断は自費診療ですから当然この定価では行われておらず、バリウム8,000~15,000円、胃カメラ18,000~30,000円くらいで行われていることが多いようです。単純な出費の比較ならバリウムがよいようですね。

それではサービスに対しての費用対効果の視点で見てみましょう。バリウムにはバリウムや下剤などの材料費や、いかにも高価で場所も取りそうな設備が必要です。放射線ですから、特殊な場所でないとできません。

一方、胃カメラはどこででも気軽にできて、消費材もキシロカインゼリーくらいです。それなのになぜ、自費だからフリーに設定していいはずの健診センターでの料金設定がむしろ診療報酬以上の開きで高額になるのでしょうか。

上部消化管内視鏡サービスを提供する側にとってメインのコストは医者の人件費です。技術が精度や快適さ、所要時間のすべてに直結しますから、優秀な手技がほしいけど、経験豊富で技術力の高い医者の人件費はもっと高くなる。そして、技術力の高い医者はその技術をもっと有意義な治療に活かしたいと考えるので、健診センターで施術しない。

一方で健診のバリウム検査ではほとんどの場合、レントゲン技師が撮影します。撮影時は動画で、怪しいところで静止画を撮影し、それを医者が確認するのが一般的です。その場にいないアルバイトの読影医師がまとめてサ~っとチェックするわけです。医療機関で治療や精査の一環としてバリウム検査を行うことがある場合は、何を知りたいのか目的をもってやっているので、その目的に応じて医師が検査中の撮影をし、必要なシャッターチャンスを逃がしません(シャッターではありませんが)。医者はその技術の良しあしにかかわらず、非常に人件費が高いので、医者以外に検査を担当させるとコストをぐっと抑えることができます。撮影室や撮影機材などの高額設備投資をしたので、検査の回数をとにかく増やすことで健診センターの経済は潤います。バリウムのほうが1回あたりの儲けの幅が大きいので、あえて内視鏡との価格比較でいっそう選ばれやすい価格にしているとも言えます。もっと安くもできるのです。

内視鏡にしろバリウムにしろ、その他の検査にしろ、治療に参加していない医療機関が無目的で行う検査に費用対効果はほとんどない、と捉える機関(NICEなど)が多いのも納得がいきます。

こうして書いてみると、どちらも高額な料金を払って受ける気はなくなりますね。

エンドポイントをどこに定めるかにルールはありませんが、多くの方が期待しているのは胃がんの早期発見ではないでしょうか。

ひとつの胃がんを発見するのに必要な金額はざっくり、バリウムで1,800,000円、内視鏡で1,400,000円です。つまり内視鏡は約4倍胃がんが見つけやすく、胃以外のがんを見つける機会もあるということですね。(バリウム8,000円、内視鏡25,000円の場合)

コンプライアンスを守り、社員の健康に配慮する企業としての姿勢として、大切な福利厚生費の投資先として内視鏡やバリウムがリーズナブルなのかどうか、もう一度、考えてみてください。


症状がある場合は、すみやかに医療機関を受診してください


このコラムではバリウムにしろ内視鏡にしろ社内健診で全従業員に受けさせることに懐疑的な意見を述べていますが、経営上の費用対効果、投資意義の視点に立った発言であり、胃エックス線検査や内視鏡検査が医学的に有害であるとか無効であるとかを主張するものではありません。とはいえ、胃X線検査(バリウム)は有害で無効であると断言できます。

特に空腹時に激しく胃が痛むような場合は上部消化管内視鏡のできる医療機関を選択して受診するのが望ましいでしょう。 胃に病変があると感じて受診した場合でなくても、問診や他の検査の結果、医師から内視鏡やバリウムを提案された場合は、その意義、目的、結果によってとるべき行動をしっかり説明してもらって、納得して、医療保険で受けましょう。医師からの提案を拒絶する理由はありません。健診バリウムで儲かるのは健診センターですが、医療機関でバリウムを勧める医師はバリウムの歩合で給料が決まることはまずありません。健診センターがバリウムを勧めるのはお金儲けが動機ですが、医師の場合は別の動機がありますので、その動機を教わって下さい。

検査を受けない人に理由を聞くと、健診の場合は「たまたま」という人がほとんどですが、ときどき「何か見つかったら怖いから」と答える人がいます。さらに驚くべきことに、医療として提案する検査に対しても同じ「不安」を理由に拒絶する人がいます。提案される機会があるくらいなので、途中までは自発的に問題解決に向けその定性化、定量化に意欲的だったはずなのですが・・・

目的をもって行われる検査は同じ検査でも効果が全然ちがいます。実施するのも臓器専門性のある医師です。ご安心ください。


効果的なヘルスプロモーションプログラムとABC健診のススメ


考えた結果、バリウムをやめる場合、浮いたコストをもっと有効な社員の健康投資に利用したいものですよね。

胃がんだけでなく、さまざまな健康に効果のあるコミュニケーション、運動、禁煙、食習慣などの好行動を導くことに使うほうがいいのはもちろんです。

運動でがんが発見されることはありませんが、自分の体を見つめなおし、法定検診項目の結果にも以前より意識的になることはあるでしょう。

それぞれの企業の性格に合わせたベストなヘルスプロモーションプログラムの展開に全員のバリウム代を使って臨めば、それは大きな効果があるはずです。

「胃がんの発見率、内視鏡が4倍なら内視鏡にする!」と短絡してしまう経営者もいますし、お金が余っているのなら、健診センターへの寄付のつもりでやるのもいいですが、大切な社員の健康を脅かす可能性のある疾患はたくさんあります。

その中で胃がんの発見率だけを4倍に増やすことよりも大切なことがあるはずです。

ポストバリウムのヘルスプロモーションプログラム導入についてはぜひご相談ください。

また、他の方法で胃のスクリーニングをしたい場合は、この次のコラム「ABC健診のススメ」をご覧ください。


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ABC健診結果に応じた行動変容
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