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眠れぬ夜の経済効果☆最新・慢性不眠症ガイドラインの一押しはCBT-I☆


米国成人の6~10%が診断基準に合致

不眠症は健康上の大きな問題となっており,米国では成人の約6~10%が不眠症の診断基準に合致すると推定されています。

不眠症の診断には、AIS(アテネ不眠尺度)PSQI(ピッツバーグ睡眠質問票)を用いるのが一般的です。


まず、「アテネ不眠尺度」を用いた日本の研究を二つ紹介します。

結果のPDFがどちらの研究もステキなので、ぜひご参照ください。

私の診察を受けたことがある人は、②の分布図を元に自分の位置をプロットされた経験があることでしょう。

「眠れない」の訴えにいきなり睡眠薬、なんていう診療はありえません。

AISをやっても、「6点ですね」と言うだけじゃなく、分布のどの辺にいるのか、4,000人中何位なのか、ということを示すと、納得してもらえます。

①2014年8月にMSDが、20~79歳男女7,827名の調査対象者に行った研究では、38.1%が「不眠症の疑いがある」(6点以上)、18.4%が「不眠症の疑いが少しある」(4~5点)と判定されました。

MSD睡眠調査
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不眠症はどのデータでも約40%、5人に2人、1000人の企業なら400人です…

麻酔科医は睡眠と覚醒の専門家、産業保健の師と仰ぐハーバードのKales先生の専門も睡眠です。

そして働く方々との睡眠カウンセリングはほぼ毎日行っています。

睡眠の経済効果は私にとって、どんぴしゃで興味のある話題です。

米国における年間の不眠症関連支出は300億~1,070億ドル,生産性の損失などの経済的影響は632億ドルに達すると試算されています。

日本の不眠損失は3.5兆円

日本での不眠の経済損失については、は2006年日本大学医学部の内山真教授(精神神経医学)がまとめた、不眠症や睡眠不足によって国内で生じる経済損失が年間3兆4693億円余に上るという試算が有名です。

化学メーカーの従業員約5,000人(回答率76.77% 有効回答率)を対象に睡眠時間などをアンケート調査し、給与、交通事故の損害費用などのデータを基に推計したものです。

日本で詳細なデータを基に睡眠の問題による経済損失額が算出されたのは初めてでした。

主な質問内容は以下の4項目です。


  1. 性別、年齢、職種など回答者の「基本情報」

  2. 睡眠時間や寝付きの良さなど「睡眠の状態に関する情報」

  3. 勤務中の眠気の頻度、眠気による欠勤、遅刻、早退、作業効率などの「生産性に関する情報」

  4. 交通事故の有無などの「交通事故に関する情報」

その結果、「寝付きが悪い」「深夜、早朝に目が覚めてしまう」などの問題がある人は、問題がない人に比べ、男性で月に平均2.3回、女性で2.1回多く眠気に襲われることが分かり、眠気がある時の作業効率は、眠気のない時に比べ男性で40.1%、女性で37.0%低下することが判明しました。

ここから先はよくある仮想算出の方法で、睡眠に問題がある人とない人の「眠気の頻度の差」に、眠気がある場合の「作業効率の低下率」と公的調査で判明している「年間給与」を乗じ、1人当たりの年間生産損失額を計算しますと、男性が255,600円、女性は137,000円と推定されました。

アブセンティーイズムでは、欠勤731億円、遅刻810億円、早退75億円ですが、前回、ノロウィルスで示した比を取ると、少なく見積もってもプレゼンティーイズムでは1兆円になる見込みですが、今回の計算法では2兆6千億円、近かったわけです。

また、不眠、寝不足による交通事故の損失は、睡眠不足が原因となった事故の頻度に物的、人的それぞれの損害費用を乗じ、合計2,413億円としました。

睡眠に問題がある労働者全体では、約3兆665億円の損失です。

米国と単純比較すると半額程度にも見えますが、医療制度が違うので、納得しすぎないでくださいね。

「不眠」がもたらすリスクは生活習慣病まで及ぶ

スタンフォード大の研究チームは、睡眠不足が食欲をあげ、結果的に肥満を引き起こすことを明らかにしています。

また別の研究では、寝つきが悪い人、途中覚醒がある人では、健常者に比べ高血圧を発症するリスクも2倍になることが報告されています。

不眠症は単独で発症することもあれば、他の疾患が原因で二次的に発症することも、不眠症が他の疾患のリスクになることもあります。

女性の高齢者で不眠を訴える人を観察していると、日中、よく居眠りしています。早朝(4時とか)に目覚めてしまうという訴えですが、よく聞くと20時とか21時とかに就寝しています。

煎茶をやめただけで80%の不眠が改善したという、情けないような研究もあります。

こういう不眠と、眠りたいけれど時間が作れない、そして、限りがあると思うと余計焦って眠れなくなるビジネスパーソンの物理的不眠に重なる心因性の不眠はちょっと違います。

いずれにせよ、発症すると疲労蓄積(疲労回復には睡眠が一番いい)や認知機能低下、気分障害、苦痛、日常生活機能障害を併発することがあることが知られています。

今回のガイドラインでは成人の慢性不眠症のマネジメントに関して2004~15年9月までに英語で発表されたRCTのシステマチックレビューから、以下2項目の臨床的推奨を行っています。

中等度のエビデンスに基づき強く推奨

推奨1

慢性不眠症の初回治療として、全ての成人患者に不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)を行うことを推奨する(推奨グレード:強,エビデンスの質:中等度)

CBT-Iは有効な治療法であり、不眠症のプライマリケアにおいて導入可能である。

CBT-Iと薬物療法を直接比較したエビデンスは不十分であるものの、CBT-Iの方が害は少ないようである。睡眠薬は重度の有害事象と関連することがある。

CBT-Iは、睡眠に対する誤解や好ましくない習慣の把握と修正を行う認知療法と、睡眠制限法や刺激統制法などの行動介入、睡眠衛生についての教育などで構成されている。

個人セラピーや、グループセラピー、電話やウェブを用いたセッションで実施が可能であり,独習用の教材が用いられることもある。

CBT-I は Cognitive Behavioral Therapy Insomnia で、不眠のための認知行動療法です。

ああ、このガイドラインをきっかけに、すぐに不眠の認知行動療法に診療報酬がつくのなら!!

社員と患者の皆さーん、ぐだぐだ言ってないでさっさと薬を出しやがれ、と思っているかもしれませんが、推奨1なんですよ~~~!!!

薬物療法の開始には共同で意思決定を

推奨2

CBT-I単独での治療が奏効しなかった成人の慢性不眠症患者に薬物療法を追加するか否かについては、医師と患者が、薬剤の便益と害、費用などを話し合い、共同で意思決定を行うことを推奨する(推奨グレード:弱,エビデンスの質:低)

米食品医薬品局(FDA)は、不眠症治療において、ベンゾジアゼピン系薬、非ベンゾジアゼピン系薬、オレキシン受容体拮抗薬、メラトニン受容体作動薬、抗うつ薬(doxepin)の短期使用(4~5週間)を承認しています。

日本では、ベンゾ、非ベンゾ(この非ベンゾジアゼピンという名称が曲者ですが、その話は診察室で・・・)、オレキシン受容体拮抗薬、メラトニン受容体作動薬は、睡眠薬、または睡眠導入薬として不眠症への適応がありますし、スーパーレセプト病名「うつ病」さえあれば、睡眠薬も抗うつ薬も抗不安薬も使い放題です。

またFDAは、治療開始から7~10日以内に不眠症が軽減されない場合には、再評価を行うべきとラベル警告しています。日本もそういうことしたらどうすかね?

米国ではこの他に、適応外使用されている薬剤として、doxepin以外の抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬、メラトニンなどがあります。

メラトニンは米国ではコンビニでも買えます。日本では人工メラトニンのロゼレムがあります。

ベルソムラデエビゴロゼレムは薬価がまだ高いとは言え、みんな3割負担ですし、不眠症のレセプト病名で民間保険にいじめられることはまずないので、耐性と依存性のあるベンゾ、非ベンゾに浸かるくらいなら、どんどん使っていいと思います。

皆さんはいい人なので、国民医療費を下げなければ! と考えるようですが、読者層のワーキングパーソンは給料の10%を健康保険に払っているので、どんどん医療機関を利用して、CBT-Iを受けながら薬物療法を推奨2のようにきちんと理解した上で併用し、賢い睡眠習慣を獲得してください。

そしてパフォーマンスを上げ、給料を上げれば、自動的に健康保険料が上がることになりますから、医療費そのものが下がらなくても、医療費に充てられる資本が増えるということです。

また、年間10万円以上の医療費には医療費控除が適用されますので、もう、それを目指して医療機関を利用しちゃってください。

残念ながら、年間10万円以上、医療費で34万円/年の医療を受けるのは、不眠症だけでは難しいと思いますが・・・・・・

不眠を放置し、経済損失を増やし、自分の満足感も得られないまま、生活習慣病を惹起し、結局何倍もの医療費をかけるよりは、早いうちにしっかりとCBT-Iを行える医療機関を受診する、または、最近ではWEBやアプリでeCBT-Iを受けられる機会があふれていますから、そういうものにアクセスして、睡眠を、いや、パフォーマンスを獲得してください。

米国では、薬物療法以外の代替療法や補助療法として、鍼治療や漢方薬なども用いられていますが、日本ではこれらにも保険が適用されますから、ともかく賢く使ってバリバリ自己実現しちゃってください。

薬物療法開始前に二次的要因の把握を

ACP会長のWayne J. Riley氏によると、薬物療法は4~5日を超えて実施しないのが理想だが、CBT-Iで習得した技術は、薬剤よりも長期にわたり不眠症マネジメントに使用できます。

CBTのすごいところは、先行研究を見ても、受けた直後より、3ヶ月後、6ヶ月後、ウン年後にどんどん成績が上がることです。

CBTのすごさっていうか、みんなの脳の可塑性がすごいってことなんだとワクワクします。

薬はキレるけど、知識というか、脳の習慣はキレない。

また同氏は、薬物治療を開始する前に、不眠症の二次的要因(うつ症状や疼痛、前立腺肥大、ヤク、睡眠時無呼吸やむずむず脚症候群などによる睡眠障害など)が存在するか否か、またそれらが治療可能か否かを確認すべきであると述べています。

その辺も医療機関を利用してください。

話を聞くだけなら、はじめての医療機関でも初診2,880円、自己負担860円しか取られないはずです。

日本は一律料金ですから、それより高かったら、文句言ってください。

社会のためのセルフケア

自分の不眠が家族、会社、ましてや国に影響を及ぼすなんてことがあるわけがないと思うかもしれませんが、社会人の健康は社会に直結しちゃうんです。

アメリカで実施されたある調査によると、不眠症により発生した損失は膨大で、治療を行わない場合の経済的損失は治療費を上回ることが判明しています。


不眠症が生む損失>不眠症治療費


メリーランド大学精神科が、エマーソン・ウィックワイア助教授の主導の下、不眠症によって引き起こされる経済的ダメージと不眠症治療の費用効率性を、過去の文献から再調査したものです。

その結果、不眠症にかかるトータルコストは年間約11兆円以上で、その大半を占めるのは業務成績の低下、医療サービス使用率の増加、交通事故リスクの増加など、治療費とは直接関係のないものでした。

また、治療を行わずに発生する経済的損害は、不眠症治療自体にかかるコストよりも高いことは自明でした。

そして、治療した場合、その治療費は6~12カ月で取り戻せることが分かっています。


不眠症患者が治療を受けない理由とは


5人に1人が不眠症であるアメリカでは、薬物治療や行動療法など不眠症に効果的な治療はすでに確立されているにもかかわらず、ほとんどの人が治療を受けていません。

これについてウィックワイア氏は、「自分が不眠症だということを認めたくない」「眠れないことが問題だとは思わない」もしくは「有効な治療法があると知らない」ことを理由として挙げていますが、昨今の行動学的なエビデンスを振り返ると、実はその理由は、「たまたま」がナンバーワンになっちゃうと思います。

眠れないのに、眠りたいのに、病院に行って待たされたり説教されたり高額請求されるなんてまっぴらですよね。

現在は遠隔診療も解禁されていますから、かかりつけ医を作れば、安価にコントロールできますし、自費でやっても10万円にのるのが難しいというところです。


毎月積み立てしている健康保険料を賢く利用するチャンスがありそうですよ。

ほとんど【ウォーリーを探せ】状態です(>_<)

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